脆弱な足で踏みしめて
頭を殴るような銃声が脳を反響し、視界が闇に落ちそうになる。
何度も経験した、けれども慣れることのない、命がすり切れていく感覚。私は意識を失わないように、必死に砂丘を踏んだ。
銃創が、茨を燃やしている。砂漠で猛る炎の中に、氷川君は走って行く。
彼の大鎌が、形を変えていく。鎌の持ち手には、まるで絡み合うように楠木の枝葉が伸び、刃はほんのりと黄緑色を帯びた白い光を放ちながら、その刃渡りを更に大きく変形させた。
炎に燃える茨を踏みしめ、氷川君は大きく飛躍すると、その大鎌を自身のトラウマに振り下ろした。
それはまるで、緑の雷のようだった。一閃した刃は旋風を巻き起こし、私は顔を覆って風が止むのを待った。
数秒か、或いは数分か。砂嵐が収まり顔を上げると、そこにはもう、誰もいなかった。
「・・・行ったのか」
何もない砂漠に、私は1人呟いた。燦々とした太陽の光が、独りぼっちの影をより黒くしている。
時折現われる自分のトラウマを拳で制裁しながら、私は女王を探して1人広大な砂丘を歩いた。
仲間はいない。どれだけ歩いても、人の姿は見つけられなかった。
砂丘を歩きながら、目の無い子どもたちを想った。
炎を恐れずに、トラウマに勇敢に駆けていった氷川を想った。
つくづく残酷な世界だと嗤う。生きている頃に再三苦しんで自殺をしたというのに、死んだ後もまた苦しまなければならないなんて。
これを地獄と呼ばずして、何と言うのか。
超えなければならないものの大きさに絶望する者もいるだろう。私も彼らに合わないまま1人でトラウマに向かっていたなら、あの時に取り込まれていた。
だからこそ、みんなといたことは、私の力になっている。1人ではなかったという事実が、私をここまで強くさせてくれた。
幾晩かの夜を過ごす。星空を見上げながら、もしかしたら今までの体験は夢で、私は1人である現実に戻ってきたのではないかと、考える瞬間があった。
でもその度に、氷川君が切り落としてくれた翼の傷跡が痛んだ。怒られているみたいだなと笑い、また重い腰を上げる。
ブリキの足でも、もうちょっとましな動きをするだろう。時間が経てば経つほど、身体は衰弱していった。
夜を迎えるごとに言うことをきかなくなっていく身体を引きずりながら、私は砂丘を歩いた。
脆弱な足が、生まれたての鹿のように震える。それでも、一歩ずつ砂を踏みしめた。
消滅するわけにはいかない。消滅するもんか。
私は、私の過去を越えて、この砂丘を越えて、また氷川君に会いたいんだ。
また、一緒にいたいんだ。
だが、私の想いとに反するように、ある日の朝、とうとう私の足に力が入らなくなった。




