表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラウマの砂丘  作者: 桂木イオ
16/18

別れ

 激しい振動の中、砂ぼこりを巻き上げながら奇妙な楠木が、茨をまるで手足のように動かしながら這い出てきた。


 化け物の姿は間違いなく、あの時闘ったヒカワ君のトラウマだったが、その大きさは以前闘ったものを遙かに超えていた。


「やっぱり来たか。なんとなくそんな気はしてたんだよね」


 その巨大さに絶句している私とは裏腹に、ヒカワ君はいつもの笑顔のままだ。


 女王であろうヒカワ君のトラウマは、まるで自分自身を守るかのように茨で樹木を包み、私達を拒絶していた。


「テルヌマ、動けるか?」

「大丈夫」

「1発でいい。あの茨に撃ってくれ。そこから俺が切り込む」


 弾丸は、あと1発なら撃てるだろう。


残りの弾丸で自分のトラウマと闘う不安を打ち消しながら、私は頷いた。なんのことはないさテルヌマ。いざとなれば素手でやればいい。


「なあ、その、テルヌマ」

「何」

「あんたほんと怖い声してるよな。もっと柔らかいほうが可愛いよ。それで、その」


 頬を搔きながら、ヒカワ君はその先の言葉を言い淀んでいた。彼はどうやら、何か思ったことを伝えようとする時、頬を搔く癖があるようだ。


「なんだよヒカワ。はっきり言わないとわからないよ」

「いや、その、はは。ごめん」


 ヒカワ君はそれから、何も言わずに私に近づくと、その大きな腕で私を強く包んだ。


 ・・・何が起きたのか、一瞬よくわからなかった。


男性の腕というのはこんなにも大きいものなのか。

 抱きしめられるというのは、こんなにも息苦しく、安心するものなのか。


「テルヌマとは、ここでお別れだ。俺は俺の全力で、あいつを倒すから」

「・・・消えるの?」

「わからない。でも、もうここであんたには会えない。それだけはわかる。だから、伝えておきたいんだ。ここであんたに会えて、よかった」


 それは私もだよ。ヒカワ君。ありがとう。そう言いたいのに、言葉が喉に詰まって出てこなかった。


 別れたくなんてない。もっと色々な話をしたい。もっとヒカワ君のことを知りたい。


 でもそれは、叶う願いじゃない。私達がここにやってきたのは、自分の闇と向き合うためだったのだから。


「また会えるかな」

「探すよ。俺。あんたを探す。どこにいたって絶対に見つけるから」

「・・・格好いいこと言うな、お前は」


 探すということは、私がここから抜け出せることを、こいつは信じて疑わないのだろう。


 だったら私も、ヒカワ君の言葉を信じよう。そしてヒカワ君が私を見つけるよりもはやく、ヒカワ君を見つけてやるんだ。


「照沼 響」

「・・・」

「名前だよ。聞きたがってたろ」


 私を抱きしめていた腕が解かれ、ヒカワは肩に手を起きながら前髪越しに私を見た。


「俺は、ヒカワ ケイト。氷川 圭斗だ」


 氷川君はゆっくりと肩から手を離すと、茨に包まれたトラウマと向かい合い、大鎌を構えた。


「行くぞ照沼。バックアップ任せた」

「了解」


 遠ざかる彼の背を見ながら、私はホルターから銃を抜いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ