幼子たちの絶望
上質なシルクのような長い金髪が、リズムよく揺れている。
身体の細い女性を覆い隠すようにして、ほどよく筋肉のついた男性が女性に乗りかかっている。
時折聞こえる甘い喘ぎと、乱れる呼吸。その光景は、いずれ人間が辿る生命の営みであった。
「お母さん」
だが、それを知ることは、彼にはあまりにも早すぎた。彼の目に映ったのは、虐げられている母親と、信頼していた父親の裏切りでしかなかったのだ。
「テルヌマ、おい、テルヌマ!」
ヒカワ君の声で、私は現実に引き戻された。もう1人の自分、鏡の姿はもうどこにもいない。私にあの弾丸を渡した後、すぐに消えたのだとヒカワ君は言った。
あの後、鏡は私の弾丸のうちの1つを、自分以外の「女王」を消滅させることができる特殊なものに変えた。絶望から一刻も早く救うには、早く消滅させる以外に道はないと、鏡は冷ややかに語ったのだ。
「テルヌマ。手を下ろせ」
「手?」
頭を横に動かすと、こめかみに銃口が向けられていた。私の手が、自殺したいといわんばかりに、引き金に手をかけている。その腕を、ヒカワ君が掴んでいた。
「・・・人のトラウマを見るのは、思ったより辛いんだな。ヒカワ」
銃を降ろしながら、私は空を見上げた。どこか嘘臭い太陽の光線が、眼鏡に金色の羽根を輝かせている。
「それはあいつらのトラウマだ。テルヌマが1人で背負い込む必要はない。俺も話を聞く。だけど、今はあれをなんとかしよう」
ヒカワ君の視線の先には、巨大な眼球が細く黒い手で頭を抱えながら奇声をあげていた。あの不気味な黒い虫の集団を追い払った時よりも、その声は小さくなっている。
鏡は言っていた。あの目玉を撃てばいいと。そうすれば、彼らは消滅するのだと。
マガジンに弾丸を込め、射程範囲まで歩いた。化け物は自身の眼球を抱え叫ぶだけで、襲ってくることはなかった。
「「「オ 母サン ヲ 虐メ ナイデ」」」
銃口を向ける。こうしている間にも、眼球の悲鳴は小さくなっていく。まるで、すすり泣いているみたいだ。
嘆きながら、叶わない願いを口にしているみたいだ。
「・・・撃たなきゃ」
子どもたちがいつも言っている言葉の意味を知らなければ、もっと簡単に引き金が引けたはずだった。
標準を合わせようとしても、手が震えてどうしようもない。
眼前にいるのは人ではない、トラウマに飲み込まれた別の何かでしかない。これ以上ここに居れば、絶望し続けるだけだ。
それでも引き金を引こうとする度に、あの時翼の中で守った3兄弟の声が鮮明に聞こえてくる。
消滅させなければいけない。でもそれは、あの子どもたちを私の手で殺すことと、何も変わらないじゃないか。
「「「オ 母サン」」」
泣きながら銃を構え直すと、私の手の上に骨張った大きい手が重なった。
「ヒカワ、お前」
「言ったろ。1人で背負い込むなって。相棒なら、俺とお前で半分だ」
「・・・なんだよ。かっこいいな」
「まーな」
「・・・ありがとう、ヒカワ」
手の震えは、無くなっていた。
私は目を逸らさずまっすぐに彼らのトラウマに対峙すると、トリガーを引いた。




