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トラウマの砂丘  作者: 桂木イオ
13/18

幼子たちの絶望

 上質なシルクのような長い金髪が、リズムよく揺れている。


 身体の細い女性を覆い隠すようにして、ほどよく筋肉のついた男性が女性に乗りかかっている。


 時折聞こえる甘い喘ぎと、乱れる呼吸。その光景は、いずれ人間が辿る生命の営みであった。


「お母さん」


 だが、それを知ることは、彼にはあまりにも早すぎた。彼の目に映ったのは、虐げられている母親と、信頼していた父親の裏切りでしかなかったのだ。






 「テルヌマ、おい、テルヌマ!」


 ヒカワ君の声で、私は現実に引き戻された。もう1人の自分、鏡の姿はもうどこにもいない。私にあの弾丸を渡した後、すぐに消えたのだとヒカワ君は言った。

 

 あの後、鏡は私の弾丸のうちの1つを、自分以外の「女王」を消滅させることができる特殊なものに変えた。絶望から一刻も早く救うには、早く消滅させる以外に道はないと、鏡は冷ややかに語ったのだ。


「テルヌマ。手を下ろせ」

「手?」


 頭を横に動かすと、こめかみに銃口が向けられていた。私の手が、自殺したいといわんばかりに、引き金に手をかけている。その腕を、ヒカワ君が掴んでいた。


「・・・人のトラウマを見るのは、思ったより辛いんだな。ヒカワ」


 銃を降ろしながら、私は空を見上げた。どこか嘘臭い太陽の光線が、眼鏡に金色の羽根を輝かせている。


「それはあいつらのトラウマだ。テルヌマが1人で背負い込む必要はない。俺も話を聞く。だけど、今はあれをなんとかしよう」


 ヒカワ君の視線の先には、巨大な眼球が細く黒い手で頭を抱えながら奇声をあげていた。あの不気味な黒い虫の集団を追い払った時よりも、その声は小さくなっている。


 鏡は言っていた。あの目玉を撃てばいいと。そうすれば、彼らは消滅するのだと。


 マガジンに弾丸を込め、射程範囲まで歩いた。化け物は自身の眼球を抱え叫ぶだけで、襲ってくることはなかった。


「「「オ 母サン ヲ 虐メ ナイデ」」」


 銃口を向ける。こうしている間にも、眼球の悲鳴は小さくなっていく。まるで、すすり泣いているみたいだ。


嘆きながら、叶わない願いを口にしているみたいだ。


「・・・撃たなきゃ」


 子どもたちがいつも言っている言葉の意味を知らなければ、もっと簡単に引き金が引けたはずだった。


 標準を合わせようとしても、手が震えてどうしようもない。


眼前にいるのは人ではない、トラウマに飲み込まれた別の何かでしかない。これ以上ここに居れば、絶望し続けるだけだ。


それでも引き金を引こうとする度に、あの時翼の中で守った3兄弟の声が鮮明に聞こえてくる。


 消滅させなければいけない。でもそれは、あの子どもたちを私の手で殺すことと、何も変わらないじゃないか。


「「「オ 母サン」」」


 泣きながら銃を構え直すと、私の手の上に骨張った大きい手が重なった。


「ヒカワ、お前」

「言ったろ。1人で背負い込むなって。相棒なら、俺とお前で半分だ」

「・・・なんだよ。かっこいいな」

「まーな」

「・・・ありがとう、ヒカワ」


 手の震えは、無くなっていた。


 私は目を逸らさずまっすぐに彼らのトラウマに対峙すると、トリガーを引いた。




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