偉大なる勇者の葛藤
そして目が覚めた時、まどろんだ瞳に映ったのは暗闇だった。
その中で私は考えてしまう。
このままで良いのかと。
いつもときどき考えてしまう。
どうして考えてしまうかは分からない。
私はそんな気持ちから逃れるために、パソコンを起動させて、オンラインゲームをした。
ゲームは昨日のゲームでアカウントを変えて、ログインした。
広大な草原を一人で歩く。
そんな時である。
モンスターに苦戦している剣士を見かけた。
このままじゃやられてしまう。
「助太刀します」
と言って、レアアイテムの勇者の剣を構え、一撃でそのモンスターを倒した。
その剣士は満身創痍だった事に気が付く。
「大丈夫?」
そう言って私は剣士に手をさしのべた。
「ありがとう。助かったよ。もしやられていたら今までためて来たアビリティが減っちゃうところだったよ」
「気をつけるんだよ。この辺のモンスターはかなり強いから」
私は立ち去り、胸から心が熱くなるような気持ちのいい感じになってしまう。
その時、改めて思う事だが、私は勇者なのだ。
私は誰もが成し遂げられなかったラスボスのギガンテスを打ち破った者だと。
でも結局仲間との戦いを避けて倒した事にはならなかったのだけれども、誰も知らないし伝説にもならなかったが、私は倒したのだ。
まあそれは誰も知らない私だけの秘密だと思っているだけで何かかっこいい。
ひたすら草原を歩く私はラスボスを倒した勇者なのだと心の中では胸を張っていた。
そんな時だった。
私は考えてしまう。
そんなの虚しくないかと。
そう思うとテンションが下がってくる。
何だろう?この気持ちは。
とにかく私は自分を勇者だと心に連呼して言い聞かせた。するとテンションがあがってくる。
ネットゲームに夢中の私にノックの音がした。
いつものお説教だ。その通りであり、ドア越しから涙姉さんの声が聞こえた。時計は私が夢だとたとえている現実の世界の午後十一時を示している。
「開けてくれないかな?亜希?」
「・・・」
私は何も言わず、涙姉さんの声も聞きたくないので、ヘッドホンを装着して聞こえないようにした。
そうすれば私は勇者でいられる。
私の事などどうでも良いと思っているくせにまたお説教かよと人知れず私は舌打ちをした。
私はお説教、いやこの現実を夢と思っている世界に用はない。
私は姉さんの声を聞かないようにヘッドホンに流れてくる音楽を耳にしながら私は姉さんのお説教が終わるのを待っていた。
そして三十分が経過して、そろそろ姉さんもいなくなったと思ってヘッドホンを外した。
本当にいなくなって、私は誰にでも訪れる生理現象が生じた。
つまりトイレに行きたい。
トイレは私の部屋のすぐ隣であった。
姉さんがいなくなったと思ってドアを恐る恐る開くと姉さんはいなかった。
トイレをすませてトイレのドアを恐る恐る開いて誰もいないと確認したとき、隣の私の部屋に戻ろうとした時だった。
姉さんは私の部屋の正面にある収納室からいきなり現れた。
すると姉さんは私を抱きしめて牽制する。
「亜希このままじゃダメなんだよ。勇気を出して」
何て言われて私はもがく。
早くこの夢と思われる現実の世界から私は逃れたい。
だから私は懇親の力で私を抱きしめ牽制する姉さんの腕から逃れ、部屋に入って鍵を閉めた。
「亜希お願いだからここから出てきてよ。お姉ちゃん、このまま亜希が出てこられなくなって、どこも行き場もなくなる事を考えると辛いんだよ」
その後も何か言っていたけど、私はさっきと同じようにヘッドホンを装着してその声を私の耳に届かないように遮った。
もう聞きたくないし、外にも出たくない。
夢と思っている現実は悲しいことばかりだ。
そんな時私の脳裏に太田がすごい剣幕で私を殴りつける事を思い出して、私はおののいてしまう。
私の本能に叫びたいと思う気持ちを抑えて私はうずくまっていた。
二十分くらいが経過して、ドアから人の気配が消えた。
姉さんは本当に心配している。
その現実に私は恐ろしく怖くなって、姉さんは心配しているけど、それは自分の妹が引きこもっているから、肩身が狭い思いをしているんだと私の気持ちの整理が付いた。
姉さんだろうと誰であろうと人間は自分の事しか考えていない。
だから私も自分の事を考えていれば良いのだ。
もしこのまま時が過ぎて、この場所にもいられなくなったら私は死ねば良いのだ。
そうだ。そうすれば良いのだ。
そう思って私は私が思うリアルな世界のネットゲームを立ち上げて私はログインした。
そう私は勇者なのだ。
そう思いながら草原を歩いてみると、町が見えてきた。
私はギガンテスを倒したが、仲間と戦うことを避けそうならなくなってしまった勇者アキではなく名前とアカウントを変えてサミーだ。
町に入ると人が結構いる。
私はその中を悠然とした気持ちで歩いていた。
そんな時である。
一人の女戦士が私の所まで来た。
「あなたそれ勇者の剣でしょ」
「そうだけど」
私が答える。
「スキルもすごいね」
接触すると私のスキルが画面に表示される仕組みになっているゲームだ。
「よかったら私と冒険しない?」
その女はエルフの盗賊ヨミと言う。スキルを見るとすごく熟練したネットゲーマーと言うことが分かる。
いやネットゲーマーではない。ここは素敵な現実の世界だ。
「良いよ」
と私は了承する。
「じゃあ早速ラスボスのギガンテスを倒しに行くのはどうかな?私とあなたの力を合わせればきっとギガンテスを倒すことが出来るよ」
「それは出来ない」
「どうして?」
「それはギガンテスを倒した後、私達は戦う事になってしまう。だから私は手柄の為に仲間とは戦いたくない」
「そうなんだ」
私とヨミの間の一分ぐらいの沈黙が生じた。そして私は、
「ギガンテスを倒しに行くなら私は行かない」
とヨミから立ち去ろうとした時、ヨミが私の前に身を乗り出して、
「君は仲間思いなんだね」
「そんな事ないさ」
何て私は言ったが本心ではそんな風に言われて少し嬉しかった気持ちだった。
「私、何かあなたの事、気に入った。だから一緒に冒険しようよ」
そんな事を言われて私は嬉しく思ってしまい、
「別に良いけど、どこを冒険するの?」
「じゃあサミー、ダイヤアーチム狩りでも行かないか?」
ダイヤアーチム狩りとはダイヤアーチムと言う魔物を狩るのだ。ダイヤアーチムは経験値が高いためレベルをあげるには持って来いだ。
「良いよ」
ダイヤアーチムはダイヤアーチムの谷に生息する魔物だ。ダイヤアーチムはすばしっこくて倒すのが難儀だ。
でも私には勇者の剣があるのでダイヤアーチムなどこの剣を振りかざせば一撃で倒せる。
早速私達はダイヤアーチムが生息する谷にワープした。
ダイヤアーチムの谷は山々に囲まれた川沿いの場所である。
私達と目的が一緒なのか?他にダイヤアーチムを探している人達が見受けられる。
「さて私達も始めましょうか」
とヨミは腰に身につけている短剣を取り出した。
ダイヤアーチムはなかなか姿を現さないため、谷を探索するように歩き出す。
そして私の目の前にダイヤアーチムがひょっこり姿を現した。
そこでヨミが大げさに、
「ダイヤアーチムだ」
何て言ってダイヤアーチムに向かって攻撃を仕掛けたが交わされた。
そこで私がダイヤアーチムに勇者の剣で一撃で倒した。
すると膨大な経験値を得て私のレベルが二つ上がって百四になった。
それを見たヨミは。
「すごいあのダイヤアーチムを一撃で倒すなんて」
と唖然としていた。
「この勇者の剣があれば、私には敵なんていないさ」
「すごい私も負けていられないな」
そんな会話をしているときに再びダイヤアーチムが姿を現した。
私はアビリティに組み込まれている手加減をしてダイヤアーチムに勇者の剣で切りつけた。
ダイヤアーチムは満身創痍でまだ生きている。だから私は、
「ヨミ今だ」
するとヨミは二秒ぐらい戸惑う感じでダイヤアーチムを切りつけて倒した。
そしてダイヤアーチムを倒したヨミは膨大な経験値を得てレベルアップした。
「やったなヨミ」
身を乗り出してヨミの元へ詰め寄る。けどヨミは、
「どうしてダイヤアーチムにとどめを刺さずに私に譲ったの?」
「私は喜びを分かち合いたいだけだ。そうすれば互いに幸せになれるからだよ」
「・・・」
ヨミは何を思ったのか言葉を返さず黙っている。
もしかしたら私はヨミの怒りを買ってしまったのかもしれない。だから私は、
「私の言動が気に入らなかったら謝る。でも私は何度も言うけど喜びを分かち会いたいんだ」
「ゴメン。実を言うと私ぶっちゃけ泣いているんだ」
「泣いている?」
「うん」
「何で泣いているの?私の言動が気に入らなかったからか?」
「違う。私すごく嬉しいの。喜びを分かち会う何て言われて」
そんな事を言われて私まで涙がこぼれ落ちてきた。それになぜか鼓動が激しく高鳴っていた。
「サミーあなたは本当の勇者だね」
「私は勇者何て呼ばれるような身分じゃないよ」
何て私は謙遜してしまった。本当は空を飛びたいほどの嬉しい気持ちに翻弄されている。
その後ダイヤアーチム狩りを続けてどんどんレベルをあげていった。
そんな事を続けて朝を迎えた。
ダイヤアーチムの谷の前にセーブポイントがある。
そこで私とヨミは語り合った。
「私達すごいレベルが上がったね。とりあえずここでセーブしておこうよ」
「そうだね」
「また会おうよ」
「良いけど、また明日だね」
「私、サミーの事がもっと知りたい」
ヨミの台詞に私はひどくおののいた。
「どうしたのサミー」
私が動揺して言葉も入力出来ない私に心配そうに言った。
そう私は動揺する。それはヨミの台詞の『サミーの事がよく知りたい』という発言だ。
私は・・・。自分の今の有様が頭によぎった時、ログオフしようとした時だった。
ヨミと喜びを分かち会った時の気持ちが芽生えてログオフはしなかった。
とりあえず動揺した気持ちを整えて画面に目をやるとヨミは私の事を心配している台詞を言っていた。だから私は、
「大丈夫だよ」
「そう良かった」
ヨミがほっとしているそぶりが私に想像できた。
「私もヨミの事がよく知りたいよ」
もちろん私が現実の世界と思っているネット内だ。
「じゃあまた明日この場所で何時に約束する?」
「昼間は寝ているから、午後八時くらいに待ち合わせしようよ」
「オーケー。それと現実の世界でもちゃんとご飯も食べて歯も磨くのだぞ」
「うん。分かった心配してくれてありがとう」
そう言ってログオフをして窓からこぼれ落ちるように差し込む日を浴び、何か少しだけ現実の世界も良いと思えたけど、もう現実の世界は夢の世界だと自分に言い聞かせた。
ベットに横たわり、カロリーメイトを食べて台所に行って歯を磨いて自分の部屋に戻った。
その時はもう午前六時半を示し、姉さんが起きて来るのはだいたい午前七時だ。
そう言えば二つ年上の姉さんは今年受験だ。
だがそんな事私の知ったところではない。
でも私の事を心配して勉強がおろそかになっていないか心配に思ったが、どうしてそんなどうでも良いことに対して私が蟠らなきゃいけないのか不思議に思ってしまう。
もうその答えなら出ている。
人間は自分の事しか考えないエゴイストだ。
昨日の夜も思ったことだが、だから私も自分の事を考えれば良いのだ。
そう思って私はベットの上に寝転がり眠りについた。