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勇者の剣  作者: 柴田盟
19/22

偉大なる勇者の素直な思い。

今日は休日であって、何もする事がないので横浜太郎に会いに来たのだ。

 別に横浜太郎の事が気になったんじゃない。

 いやそうなのだろうか?自分の気持ちに素直になって考えようとすると、頭に血が上ってしまう。

 だから考えるのはやめるとする。

 まあその気持ちは置いといて、あれから二時間が経過するのに横浜太郎は現れない。

 考えて見れば、今は昼間の午後一時を示している。

 あの時出会ったのは夜だった。

 だったら夜にもう一度行けばいいんじゃないかと思ったが、また涙姉さんに心配させてしまう。

 まあ私が会いに来た理由は、ただお礼がしたかっただけであった。

 横浜太郎の発言を聞いてなければ、私は瞳ちゃんを助ける事が出来なかった。その言葉とは、


『本当に怖いのは本当の独りぼっちになってしまう』


 と言う。

 その思いを胸に私は晴れ渡った壮大な青い空を見上げた。

 横浜太郎の姿を思い浮かべると、何だか胸がどきどきする。

 この気持ち、以前も味わった事があった。

 私が小学二年の時、無愛想な私にささやかな笑顔をくれた男の子。

 そんな些細なきっかけで私はその名前も知らない男の子の事を思うと胸がどきどきしたっけ。

 だからここは思い切って、自分自身の気持ちに素直になって見ようと思う。

 どうやら私は横浜太郎の事が好きなのかもしれない。

 いや分からない。

 いやそんな訳がない。

 私の気持ちは複雑に絡み合い、何が本当なのか何が違うのか、分からなくなってしまった。

 そんな絡み合った気持ちになった私は次第にいらだちが生じて、ついその場で叫んでしまった。

「何なのよ、もう」

 と。

 すると通りすがった人が不審者を見るような目で私に注目した。

 気がついた時、顔が炎であぶられているかのように熱かった。

 だから私はその場から逃げるように立ち去った。

 横浜太郎に会う為に私は中央噴水広場で三時間待ったが結局現れず、時間を無駄にしてしまった。

 こんな事になるなら、携帯の番号を聞いて置けば良かった。


 帰宅して部屋でベットの上に寝転がりながら、私は考えてしまう。

 また横浜太郎に会えるのかと。

 先ほどは自分の気持ちに素直になって考えていたが、複雑な気持ちに苛まれた。でもなぜか分からないが、心の整理がついて、私は横浜太郎の事が好きだって言うことが分かった。

 自分でもそう思ってみると、全身を覆い尽くして隠したいほどこっぱづかしい事だ。

 だから誰にも言わないように、私の心の箱にそっと入れて置けば良いと思う。

「また会えるよね」

 一人部屋の中で人知れず呟き、何となく時計を見ると、午後六時を示してた。

 丁度そんな時、涙姉さんが部活から帰ってきた。

 さっきは横浜太郎に出会えなくて、三時間も時間を無駄にしたと思ったがそうは思わなかった。

 そのおかげで自分の気持ちに素直になって、その答えを出すことが出来たのだから。

 そう言えば玲奈さん言っていたが、何かをするのに無駄な事はないって。何かしらその中に意味があるのだと。ようやくその意味が分かった気がした。

 今日も平和な一日を過ごした。

 

 次の日、カウンセリング室で私は一人でギターを弾きながら歌った。

 そこでふと思う。

 最近小夜子ちゃんと会っていない。

 携帯にメールを送っているのだが、何の返答もない。

 そんな事を思っている間に、学校のチャイムがなり、授業が終わって、そろそろカウンセリング室にみんなくる頃だ。

 何となく玲奈さんを見ると、いつものようにスマホをいじくって引きこもりの生徒にメールでエールを送っているようだ。

 そこで玲奈さんと目があって、玲奈さんは私に微笑み、何か私は胸がドキドキして、視線を反らしてしまう。

 いつもの事だった。

 とりあえず気持ちを整えて、私はギターを弾いて歌った。

 曲は専ら尾崎豊だ。

 尾崎の歌って私たちのような若い人に共感できる歌である。

 そう言えば、瞳ちゃんは尾崎豊のようなミュージシャンを目指しているんだっけ。

 それと最近会っていないが小夜子ちゃんは画家になるんだっけ?

 二人とも素敵な夢を持っている。

 私がまだ自分が何をやりたいのか分からないまま、瞳ちゃんといるときは、共にギターを弾き語り、最近会っていないけど、小夜子ちゃんといる時は共に絵を描いていたが、私が今でもいつもの河川敷の隣町の景色を描きに行っている。それに瞳ちゃんも私と付き添うようについてきて、絵を描いている。

 そう瞳ちゃんはあの一件以来、私の後を金魚の糞のように執拗についてくる。

 それに私の事を亜希姉さんと慕う。

 まるで瞳ちゃんは人なつっこい子犬のような女の子であって、それはそれでかわいい。

 何て思いながら歌っていると、瞳ちゃんが私の隣の席に座ってギターを構えて共に尾崎豊の卒業を歌った。

 やはり歌は良い。

 私も瞳ちゃんの描く夢のようなミュージシャンなんて言うのも良いかもしれない。

 それに小夜子ちゃんが描く夢である画家もやはり捨てがたい。


 河川敷で絵が描き終わって、その絵を瞳ちゃんに見せた。

「やっぱり亜希姉さんは絵が上手だね」

「そうかな?」

「そうだよ。私なんか絵心がないからね」

 そこで瞳ちゃんの絵を見て私は言う。

「小夜子ちゃんは言っていたんだけど、絵には描いた人の心を描写するって」

「なるほど、確かにそんなカウンセリング方法もあるみたいだね」

「うん。だから瞳ちゃんの絵を見ると、ひたむきに描いている一生懸命さが感じ取れるんだ」

「うちはいつも真面目さ」

「だね」

 と私は微笑むと、瞳ちゃんははにかんだ笑顔で返してくれた。

 私は私が描いた絵を写メで取って、それを小夜子ちゃんに送った。

 それは最近顔を出さない小夜子ちゃんにやっている。

 それに小夜子ちゃんは本当にどうしてしまったのか、今日で丁度二週間になる。

 そう考えると何か会ったのかと、心配になってくる。

 そして空が黄昏に染まり、カウンセリング室の教室に蜂蜜を流し込んだかのような色に染まっている。

 今日と言う日が終わろうとしている。

 その窓辺に玲奈さんが頬杖をついて空を見上げる姿は、何か美しい感じがする。

 私もあんな玲奈さんのような美しい女性になれたら良いな。と思う。

 そうしたら、横浜太郎も私の愛にひざまづくかもしれない。

 丁度私が立っている所の横に等身大を写す鏡がある。

 何となく見て、その玲奈さんの容貌を比べてみると、もはや言葉はいらず私の口から出たため息で分かるだろう。

 つまり私は粋でない。

 マジでへこんでいる時、

「つかまえた」

 と私の後ろから玲奈さんが抱きついてきた。

「ちょっと何ですか?」

 私は玲奈さんから離れる。

 玲奈さんは腕時計を見て、

「そろそろ帰る時間ね」


 学校の校庭の隅っこにある駐車場に行って、玲奈さんはバイクにエンジンをかける。

 そこで私は何となく聞いてみる。

「最近小夜子ちゃん来ませんね」

 すると玲奈さんは急にもの悲しそうな笑顔で私を見て、

「やっぱり勇者の力を借りる時なのかな?」

「ハァ?」

 話が見えないので、私は疑問を表現する声を上げた。

「亜希ちゃん瞳ちゃんの時みたいに無茶されたら、困るから、今回の件は事前に話して置いた方が良いみたいね」

「小夜子ちゃんに何かあったんですか?」

 私は気が気でなくなり、小夜子ちゃんの事を玲奈さんに問いつめた。

「まあ、落ち着きなさい。話が長くなりそうだから、今日は私のアパートに泊まりなさい」

 と言う事で私は今日は玲奈さんのアパートに泊まることになって、玲奈さんが涙姉さんに話を付けてくれた。


 玲奈さんのアパートにたどり着いて、私は小夜子ちゃんの事がすごく心配でいても立ってもいられなかった。

 いったい小夜子ちゃんに何があったのだろうか?

 その真実は玲奈さんが知っている。

 でも真実を確かめようと玲奈さんに聞いて見ようと思うが、玲奈さんの顔を見ると、私に『おちつけ』と言っているような表情をしていた。

 だから私はとりあえず、気持ちを落ち着かせるために、深呼吸をして気持ちを整えた。

 早速玲奈さんの部屋に入ると、以前と同じようにいくつものパソコンが敷き詰められていた。

 その中の中央にある、すべてのパソコンを統括するパソコンか?そこだけが電源が入ったままであった。

 玲奈さんが早速、そのパソコンの前に座った。

 私も玲奈さんの後を追ってそのパソコンの画面を見てみると、私が以前引きこもっていた時にやっていたネットゲームであるギガンテスワールドであった。

「これって」

「見ての通り、私の統括するネットゲームであるギガンテスワールドよ」

 良くモニターを見てみると、展覧会のように絵が飾られてある。その絵は一目見て分かったが小夜子ちゃんの絵だ。

「小夜子ちゃん?」

 と私が言うと、

「やっぱりいつも河川敷で小夜子ちゃんと絵を描いている仲だけあるわね。あなたに協力をしてもらう私の目は節穴ではなかったみたいね」

 と言って玲奈さんは、展覧会の中を徘徊する。

 そのキャラクターは玲奈さん事、以前私を勇者にしたヨミであった。

 どうやら玲奈さんは私の知らないところで、ギガンテスワールドで引きこもった人に救いの手をさしのべようと寝る間も惜しんでいるようだ。

 それはともかくどうして小夜子ちゃんが・・・。

 そこで私は絵に注目して見る。

 さっき瞳ちゃんと絵を描きに行ったときに語り合ったが絵には描いた本人の心を描写すると言った。 

 展覧会に飾られた絵は、コンピューターであるソフトで描かれているのではなく、画用紙で描かれているものだと分かった。

 その絵は相変わらずに手腕な芸術家が描いたような物だと言う事が分かる。

 でも何を表現したいのか分からなかった。

 確かに先ほども絵には描いた本人の心が描写されると言ったが、私にはこのギガンテスワールドの展覧会に展示されてある小夜子ちゃんの絵を見ても、心を見る事は出来なかった。

 そんな事を考えていると、玲奈さんが、

「亜希ちゃんはこの絵を見てどう思う?」

 ここは答えなきゃいけないのかと思ったが、私は正直に言う。

「分かりません」

 と。

「そう。私にも分からないのよ。私も臨床医になって絵のカウンセラーを勤めた事もあったけど、小夜子ちゃんは何を表現したいのか分からない」

「別に小夜子ちゃんが好きな絵を描く事に何か問題でもあるんですか?」

「そこなのよ」

 横にいる私に玲奈さんは鋭い視線を向けてきた。

 私と玲奈さんの間に何か得体の知れない殺伐とした空気に変わり、私は言葉も出ないほど、怖くなった。

「私もね、小夜子ちゃんの事は絵も含めて以前から見てきたんだけど、この絵は小夜子ちゃんの絵って言うことは分かるんだけど、何を表現したいのか私にも分からないんだ。それに小夜子ちゃんはこの二週間学校にも来ていないみたいなの」

 玲奈さんの話を聞いて小夜子ちゃんの事がますます心配になってきた。

 この展覧会に展示されている小夜子ちゃんの絵を改めて見てみる。

 確かに手腕な芸術家が描くような小夜子ちゃんの絵だ。

 でも玲奈さんも私も思うとおり何を表現したいのか分からない。

 そう。それが答えなのだ。

 もっと深く答えが出ないかその絵をじっと見つめると、何か私の記憶を蘇らせる得体の知れない物が・・・吹き出そうな感じがして・・・それは思い出してはいけない記憶のような気がしたが・・・小夜子ちゃんの絵を見て、何か答えが出てきそうな感じ共・・・・  

に・・・・呼吸が困難な状況に陥り、苦しくなってきた。

 そんな私を心配して、玲奈さんは私の事を優しく抱きしめてくれた。

「大丈夫?亜希ちゃん」

 そこで私は自分に言い聞かせるように、玲奈さんの包容の中『私は一人じゃない』と言い聞かせ、気持ちが落ち着いてきた。

 過呼吸の中、次第に呼吸が整ってきて、大分楽になった。


 何だろう?この魂の壊されたような感覚は?


 そんな私の前に幼い頃の涙姉さんが必死に私を守ろうとしている。


「亜希に乱暴しないで、おと・・・う・・・さん」

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・

「キャー」

 と叫びながら、私は起きあがる。

 私は何をしていたのだろう?

 辺りを見渡してみると、ここは玲奈さんの部屋だった。 それに私はベットの上で眠っていたみたいだ。

「亜希ちゃん」

 と心配そうに駆けつけて来たのが玲奈さんだった。

「玲奈さん?」

 と私はきょとんとした感じで玲奈さんの心配のまなざしで見る瞳を見た。

 私が無事であった事に玲奈さんはホッと胸をなで下ろした。

「大丈夫だとは思ったけど、亜希ちゃんが倒れて、いても立ってもいられなかったな」

「それより、小夜子ちゃんは?」

 私がベットから出て、小夜子ちゃんの様子って言うか絵を見に玲奈さんの家のパソコンに身を乗り出そうとすると、玲奈さんが、

「亜希ちゃん」

 にっこり笑って、

「小夜子ちゃん大丈夫だって」

「エッ?」

 と疑問の言葉が自然とこぼれ落ちた。続けて私は、

「大丈夫なんですか?」

 玲奈さんはにっこりと笑ったまま、その首を縦に振って、私の心配の糸が切れ始めて来て、気持ちが楽になったが、そこで一つ気になることを私は、

「じゃあ、あの絵は?」

「小夜子ちゃん最近、ちょっと私が統括する、ギガンテスワールドにはまっているだけだったんだって。そこで私が作った展覧会の場に絵を出しているんだって」 

「そう何ですか?」

「だから安心して」

 と玲奈さんは私を抱きしめてくれた。

 気がつけば、窓の外を見ると、誰にでも平等に訪れる朝日が昇っていた。

 そうか。大丈夫だったんだ。

 きっと玲奈さんが小夜子ちゃんを何とかしてくれたんだ。

 じゃあまた小夜子ちゃんと一緒に河川敷で絵を描けるんだな。

 でも一つ気になる事がある。

 それはあの小夜子ちゃんの絵だ。

 どうして、私はあんな・・・。やめよう。これ以上考えると私まで壊れそうになる。


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