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勇者の剣  作者: 柴田盟
18/22

偉大なる勇者だからこそ起こりうる奇跡

私が瞳ちゃんの手を握りしめると、瞳ちゃんはおもむろにその瞳をあけて目覚めたみたいだ。

「ここはどこ?」

「そろそろ終点よ」

「ありがと亜希さん。うちなんかの為にこんな事に巻き込んでしまって」

「私は何度でも言うよ。だって私達は友達じゃない」

 やはり三度目の正直であり、胸が熱くなる。

「何か不思議だな。亜希さんって、テレビゲームに出てくる勇者みたいな人だね」

「そう?」

 なんて言って瞳ちゃんを安心させるために笑顔で答えた。

 そう言えば、私は玲奈さんに勇者と認められ、秘書としてスカウトされたのだった。

 私は勇者なんて思ってないし、でも玲奈さん、それに瞳ちゃんも私の事を勇者と言う。

 そこで私は気がついたことがある。

 私の勇気の根元は仲間がいるからだ。

 仲間が困っている時、力になりたいと思うから勇気がもてるのかな?

 いやでも私はそんなに勇猛な人間じゃない。

 でも私を勇者と呼ぶなら、それで良いし、悪い気はしない。

 とにかく今は瞳ちゃんを奴らの目から遠ざけないといけない。

 列車は終点にたどり着いて、宇都宮に到着した。

 列車から降りて、ずいぶんと遠くまで来た事に不安に苛まれそうだったが、瞳ちゃんがついている事に不安は解消とまで行かないが、ずいぶんと和らぐ。

 そんな時、瞳ちゃんが嗚咽を漏らして泣く。

「これからどうしよう」

 そんな瞳ちゃんを見ると、私まで不安に苛みそうになって泣きじゃくりたい気持ちになりそうになったが、ここは玲奈さんの秘書である私がしっかりしなきゃと思って瞳ちゃんを抱きしめる。

「私がついているから大丈夫」

 と瞳ちゃんの耳元で囁いた。

 歩いて改札口にたどり着いて、改札口には誰もいない無人の駅だった。

 お金も払わずにここまで来てしまった事に『申し訳ない』と心の中で呟き、改札口を通って外に出た。

 外は真っ暗で、辺りは林に囲まれ、人の気配が感じられないし視線も感じられない。

 駅で待機しようと思ったが、駅は閉鎖され、真っ暗で何も見えなくなっている。

 そんな時お腹が泣く音がして、瞳ちゃんが『お腹すいた』と言わんばかりに顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 私はカロリーメイトを一箱持っていたので、瞳ちゃんに譲ってあげた。

「ありがとう。朝から何も食べていなかったから」

 真っ暗だけど、駅前に設置されているボロいベンチに座って、瞳ちゃんが食べ終わるのを待っていた。

 とにかくお腹が好くことは良いことだ。

 きっと朝から恐怖に苛まれ、空腹を忘れていたのだろう。

 瞳ちゃんは涙を拭いながら、カロリーメイトを食べている。

 よっぽどお腹がすいていたのだろう。

 そんな瞳ちゃんを見て私は安心してしまう。

 安心した気持ちで瞳ちゃんを見ていると、目があって、私は玲奈さんの笑顔をイメージして笑った。すると瞳ちゃんは、

「信じてくれてありがと、亜希さん」

「私は信じるよ。だって・・・」

 私の言葉を瞳ちゃんは遮り、

「友達だから」

「その通りです」

 きっぱりとした口調でにっこりと笑って瞳ちゃんに言った。すると瞳ちゃんは私に自然とした笑顔で答えた。

「ありがと。本当にありがと」

「やっと笑ってくれたね」

 瞳ちゃんの笑顔を見て、私は一安心と言ったところだが、これからどうしよう。

 自然とため息をこぼして、空を見上げる。すると空は光の砂を地面にばらまいたかのような星が、輝いている。

「きれい」

 と自然と言葉がこぼれ、瞳ちゃんも夜空を見上げる。

「本当だ。きれい」

 そこでネットゲームであるギガンテスワールドをした時の事を思い出した。

 そう言えば、ヨミ事玲奈さんと星がこぼれそうな夜空を見に旅に出たっけ。

 ブラウン管の景色はそれはそれで美しく思えたが、実際見てみると、やはり臨場感があってすごい。

 こうして現実を旅すれば、このようなすばらしいものを見られる事に感動した。

 でも今は私達追われている身だ。

 そんな悠長な事を考えている場合ではない。

 これから本当にどうしようか考えて、隣にいる瞳ちゃんを見ると、星がこぼれ落ちそうな夜空を見上げ、その瞳に涙がこぼれ落ちそうになっていた。

 そんな瞳ちゃんに寄り添って、

「大丈夫だよ。瞳ちゃん」

 自分のセリフに根拠はないが、とにかく瞳ちゃんの涙が乾くことを祈るように言った。

 だがその効果はなく、瞳ちゃんは涙を流しながら言う。

「何が大丈夫なの?」

「・・・」

 そんな事を言われて私は言葉を失った。続けて瞳ちゃんは、

「どうしてうちがこんな目に会わなければいけないの?どうして?どうして?」

 瞳ちゃんがそんな事を言う気持ちは分かる。

 瞳ちゃんは理不尽にも集団ストーカーの的になってしまったのだ。

 触らぬ神にたたりなしって言うが、実際は触らなくたって神はたたってしまう理不尽な世の中なのだ。

 そんなふうに思うとあの時の事を思い出してしまう。

 だが私は一人じゃない。それに瞳ちゃんだって一人じゃない。そう思うと、瞳ちゃんは私に愚痴をはいただけでも少しは気持ちが楽になったに違いない。

 玲奈さんは言っていた。

 喜びも悲しみも誰かと分け会えば、強まると。

 だから私は歌った。

 歌はSMAPの世界に一つだけの花を。

 私が歌うと瞳ちゃんはそんな私を見てきょとんとしていた。

 だから私は瞳ちゃんも歌う用に視線を送り、瞳ちゃんも最初は渋々な感じで歌っていたが、次第に楽しくなって、このどうしようもない状況を忘れて、大きな声で歌った。

 そんな時である。

 何か強烈な視線を感じると共に、前方から林に囲まれた山道から黒いワゴンがこちらに向かっている。

 瞳ちゃんも気づいたのか?この世の終わりを見たかのような表情でうろたえていた。

 私も怖くて瞳ちゃんにすがりつき、瞳ちゃんも同じように怖いのか、私にしがみついた。

 そこで私の携帯に一通のメールが届いた。

 こんな夜中に何だろうと見てみると玲奈さんからだった、


『二人とも、車が来る反対側の山道に逃げて』


 と言うメールだった。

 何で玲奈さんが・・・?

 なんて考えている場合じゃない。

 私は瞳ちゃんの手を引き、

「瞳ちゃん。逃げるよ」

 だが瞳ちゃんは動こうともせず、

「やだよ怖いよ」

 怯えている。

 そんな事をしている間に山道から、車がやってくる。

 玲奈さんは逃げろと言っている。

 一刻も猶予もないので、私は、

「しっかりしろ」

 と言って瞳ちゃんの頬を叩いた。

 叩かれてきょとんとしている瞳ちゃんの手を引いて、

「逃げるよ」

 と言って私達は黒いワゴンが向かってくる反対側の山道へと逃げ込んだ。

 足で逃げるには車のスピードにはかなわないので、車の通れない林の中へと逃げ込んだ。

 真っ暗な林の中の木を目でかき分けながら私達は必死で逃げ込んだ。

 だが追いかけてくる車から、黒い覆面を被った集団ストーカーと思われる連中が降りて私達を追いかけてくる。

 私はその手を離さないと、瞳ちゃんを引きながら走っている。

 連中は目立たないように黒い服に身をまとっている。

 私達が着ている服は、暗闇に目立つ白だ。

 背後を見ながら、逃げているがこのままでは追いつかれてしまう。

 このまま追いつかれて、私達は集団ストーカーの餌食にされる事が思い浮かぶ。

 丁度林の中だ。捕まって、レイプされて私達は殺されて、ゴミのように遺体で見つかり・・・。

 嫌だ。そんなの嫌だ。

 そんな事を考えて走っていると、私が手を引いている瞳ちゃんが転んでしまった。

「瞳ちゃん」

「亜希さんだけでも逃げて」

 瞳ちゃんの言う通りにしようと一瞬考えたが、私は友達である瞳ちゃんを置いていけない。

「瞳ちゃん立って」

 と言うが瞳ちゃんは転んで膝を痛めて、もはや走れなくなってしまっている。

 そんな事をしている間にも集団ストーカーは私達と距離を縮めてくる。

 私は瞳ちゃんを見捨てて一人だけ逃げて自分だけ助かりたいと思った。

 集団ストーカーは私達がなすすべもなくなったから、現れたのだろう。そして私達は連中にレイプされて、殺される。

 嫌だ。

 瞳ちゃんが悪いのだ。そんな集団ストーカーに目を付けられ、私まで巻き込んだ。

 私は何を思っているのだろう?

 さっきまでは友達と思っていたのに・・・。

 でも私は一人で死なない。瞳ちゃんと一緒だ。

 そう思うと、殺されると思う恐怖心が少しだけ払拭された感じだ。

 私は瞳ちゃんを思い切り抱きしめながら、その目を閉じて覚悟を決めた。

 本当は瞳ちゃんを見捨てて、一人だけ逃げようと思ったが、私と瞳ちゃんは友達だ。そんな瞳ちゃんを見捨てて逃げるなんて格好悪いし、何か嫌だ。

 こんな状況にまで至っても格好つけるのかよ、何て思ったが、こうして瞳ちゃんを抱きしめているとさっきも思った通り、怖くないと言ったら嘘になるが、少しだけ安心した。

 もし天国があるなら、私達はきっとそこに誘われるのだと思うよ。

 私と瞳ちゃんは何も悪い事をしていない。

 むしろ天国に行かなければ、平等など言う奴はペテン師だと思うよ。

 何て考えている間に集団ストーカーに追いつかれてしまった。

 連中は顔に黒いマスクを装着して、誰か誰だか分からない。

 奴らは三人だった。

「二人とも上物じゃん」

「仲間をつけられたのは誤算だったが、最後までつけておいて正解だったな」

 何て言ってその汚れた手が私の肩に振れられて、

「触らないで」

 と手を振り払った。

「おいおい。自分の立場が分かっているのかよ」

 集団ストーカーと思われる男がナイフを取り出して、私に向けた。

 もはや私は絶望的な恐怖心にあおられ、抵抗する気力さえもない。

 そこで瞳ちゃんが、

「この人は関係ないでしょ。やるならうちだけにしてよ」

 私の前に塞がり、そう主張した。すると男の一人が、

「泣かせるねえ、自分を犠牲にしてまでこいつを助けたいか?」

「ふん。二人ともやっちゃおうぜ」

 三人の中の男の二人が一方が瞳ちゃん、もう一方が私に身を乗り出して来た。

 その汚れた手が私の胸に触れた。

 男は興奮している。

 私と瞳ちゃんにはもはやなすすべもない。

 怖い。助けて、涙姉さん。

 助けて、玲奈さん。

 その祈りが届く事何て、ありえない。

 そして男は私のスカートを巻く仕上げ、もはや私は抵抗するすべもなく、その私の目から、涙がこぼれた。

 私も瞳ちゃんも涙を流す事しか、できない。

 そんな時である。

 三人目の男と思われたが、明らかに女性の声だった。

「そこまでよ」

 そう言って、集団ストーカーの三人目の女性が背中から長い棒を取り出して、私たちに襲いかかっている男二人に脳天を直撃した。

 男二人は悲鳴もなく気絶したのか?死んでしまったのか?分からないがピクリとも動かなくなった。

 いったい何だろうと、三人目の人を見た。

 すると三人目の人がその覆面を脱いで、その顔を見たとき、今まで信じていなかった神様の存在を信じても良いと思えるほどの嬉しさに心満ちた。

「玲奈さん」

 と私は感極まって泣きながら、その名を呼んだ。

「よっ」

 その手を挙げ私と瞳ちゃんに笑顔で挨拶をする玲奈さん。

 まあ助かった事に胸をなで下ろしたのは良いが、

「どうして玲奈さんが」

「積もる話は後、その前にちょっとだけ、こいつらに言いたい事があるからね」

 そう言って玲奈さんは集団ストーカーの男二人のマスクをはぎ取って、その顔には何の面識もない中年の男の顔だった。

 男二人は気を取り戻して、

「何なんだよ」

「くそっ」

 と吐き捨てる。

 そして玲奈さんは男二人に言いかける。

「あんた達、こんな事をして楽しいの?」

 男二人の前で仁王立ちしてそう言う。

「お前俺たちを騙して」

「さっきも言ったかもしれないが俺たちにはもう失うものなんてないんだよ」

「そうやっていじけてれば、許してくれると思うの?」


 集団ストーカーの連中みたいに、この世には救えない人間がいる事を知った。

 でも玲奈さんはそんな男二人に真摯に訴えかけ、『人生考えなおしなさい』と言った。

 あんな連中に何を言ったって無駄だよ。

 と私は玲奈さんに言ったが、玲奈さんは、自分が言った事を思い出してまた新しい人生に立ち向かえるかもしれないと信じているみたいだ。

 私は黙ってその話を聞いていたが、そんな事をしたって無駄だと思っている。

 玲奈さんは本当に優しい人間だ。私はそんな玲奈さんに憧れているが、そこまでお人好しな人間にはなりたくもないと思っている。

 奴らのやった行為に私は殺したいとも思ってる。

 私は連中に法の裁きにかけるために、警察につきだした方が良いと言ったが、玲奈さんはそれをしなかった。

 また同じ事をするんじゃないかと言ったが、首を左右に振って、『私は信じるよ』と言った。

 こうしてこの事件の幕が下りたのだった。


 その後の話になるが、カウンセリング室に集まる人たちに、誤解が解けて、瞳ちゃんの笑顔が戻った。

 以前のように瞳ちゃんはそんな友達と打ち解けて、笑っている姿に安堵の吐息がこぼれ落ちる。

 そして玲奈さんは私に言った。

 誤解であったけどあそこまでひどいことをされたにも関わらずに、瞳ちゃんを助けようとする私は本物の勇者だと言って、私はますます玲奈さんに気に入られてしまったみたいだ。

 でも私は勇者でないと否定して、追いつめられた時に思った事を玲奈さんにぶっちゃけた。

 それはあの時瞳ちゃんを見捨てて一人で逃げようとも考えたことだった。

 その事を言ったら、玲奈さんはますます私を勇者とたたえたのだった。

 その訳とは、人間には良いところも悪いところもあって当然なのだと。

 それを認めることは大変勇気がなければ出来ないと。

 でも私はそれがどうして勇気につながるのか聞いて見たが、玲奈さんはそれは人に聞くものではなく自分で見いだしなさいと教えてくれなかった。

 その話はそれまでで、私が玲奈さんの秘書として一ヶ月が経過して、私はお給料をもらった。

 でも最初は私は断ったが、無理矢理って感じで受け取らされてしまった。

 金額は五万円。

 私はこのお金をどうしようか考えた結果、貯金する事に決めた。

 色々と考えて、以前横浜太郎と出会った繁華街の中央噴水広場のベンチから立ち上がり、その目を開けた。



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