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勇者の剣  作者: 柴田盟
12/22

偉大なる勇者のかけがえのない友達

ベットの上に仰向けになりながら天井を見つめていた。

 あの後、小夜子ちゃんは初めて会った時のように暗い表情を浮かべていた。

 そんな小夜子ちゃんを見て、どうしてか私は辛くなった。

 きっと玲奈さんなら小夜子ちゃんに何が会ったのか?知っていると思う。

 でもそれはなぜだか聞いてはいけないような気がしてやめて置いたのだ。

 辛い事を思い出す苦しみを私は知っている。

 それは玲奈さんが言っていた悲しみを知る人間は人に優しくできると言う言葉は本当だったようだ。

 だから私は少しだけ自信を持って挑めば良いと思う。

 それはそれで良いとして、やはり小夜子ちゃんの事が心配だ。

 でもその心配は次の日に払拭された。

 それは小夜子ちゃんが昨日とは違って輝かしい笑顔で挨拶をしてくれて、私は嬉しかった。


 あれから一週間が経過して、私と生徒達の絆が強まっている。

 その証拠に私と小夜子ちゃんが弾くギターの音色に合わせて生徒達は幸せそうに笑って歌っていたからだ。

 改めて思うけど、歌は良い。すべての悲しみを吹き飛ばしてくれるような感じがして。

 一曲歌い終わって、生徒達は私と小夜子ちゃんに歌のリクエストを迫ってくる。

「じゃあ、次歌ったら終わりね」

 歌い終わって、私は鞄から漢字検定二級の参考書を取り出して勉学に励んだ。

 小夜子ちゃんも私に負けていられないようで、数学の参考書の問題を解いていた。

 とにかく私はいつまでも玲奈さんの秘書としていられるはずがない。

 いつかはここを離れる時が来るだろうと思って勉学に励むのだ。

 でも私には夢も希望もない。

 だから以前言っていた玲奈さんの言ったとおり、それを探す旅に出れば良いと思う。

 私は少しずつ勉学に励もうと思うのだ。

 誰かの為ではなく自分自身の為に。

 小夜子ちゃんと絵を描くこともギターを弾くことも玲奈さんは言っていたがそれは貴重な体験として一生残るものだと私に教えてくれた。

 小夜子ちゃんは絵描きを夢見ている。瞳ちゃんはシンガーソングライターに憧れている。

 そんな夢を抱きながら甘い夢を見ながら私は眠りたい。

 辛い事もある。悲しい事も苦しい時も、でもその代償は百万ドル払っても味わえない甘美な喜びへと変わる。

 つい前まではネットゲームにはまって、その甘美な喜びも知らないかわいそうな女だった。

 そして私はヨミこと玲奈さんに出会って、その事を知った。

 出会いとはまるで世の中の宝探しみたいな物だとも思える。


 この間、私は涙姉さんに携帯電話をプレゼントされた。

 その機能に組み込まれている時計を見ると、午後五時を示していた。

「今日はこれぐらいにするか」

 んーと手を伸ばした。

「亜希姉さんが終わりなら私も今日のところは終わりにしておくよ」

 辺りを見ると生徒達の憩いの場としているカウンセリング室は生徒達は帰ったみたいで、私と小夜子ちゃんと玲奈さんしかいなかった。

 帰りはいつものように玲奈さんにバイクで送ってもらうのだ。

 帰り支度をして小夜子ちゃんが帰ろうとしたときだった。

 急にドアが開いて、そこにいたのは満面な笑顔の瞳ちゃんだった。

「亜希さんに小夜子ちゃん。これから暇?」

「私は暇だけど・・・」

 そういって私が小夜子ちゃんの顔を見る。続けて私は、

「これから何かあるの?」

「うん、これから三人で夜の弾き語りに行かない?」

 楽しそうだと思って、玲奈さんの顔を見て、行って良いか確認する。

 すると玲奈さんは行ってらっしゃいと言わんばかりに笑顔の了承をしてくれた。

 小夜子ちゃんは私が行くなら行くと言うことで三人でそれぞれギターを持って瞳ちゃんが言う駅前まで歩いて行った。

 そこは広いバスロータリーのある場所だった。

 バスロータリーの中央に円形のイスがあり、それを囲むように二十人ぐらいの人たちが集まっていた。そんな人達に瞳ちゃんは、

「みんな」

 と手を振った。

 すると集まった人たちは『キャー』『うおー』と黄色い声を上げていた。

「あの人達みんなうちのファンなの」

 瞳ちゃんは自慢げに笑って私はすごいと思ったし、小夜子ちゃんも思ったみたいだ。

 それに小夜子ちゃんはどう思ったかわからないが何か私は嫉妬してしまう。

 でもそんな嫉妬した気持ちを余所に、瞳ちゃんと言う友達がファン達に囲まれてうれしそうな顔に何か私まで幸せになってしまう。

 まあ一瞬嫉妬の気持ちに苛んだが、友達として喜びを分かち合うことでその思いは強まって行くんだなと思った。

 そして瞳ちゃんはそんなファン達に囲まれ歌った。

 それは瞳ちゃんが作ったオリジナルの曲みたいだ。

 聞いていると、小夜子ちゃんが言っていた絵を描いた本人の心が描写されるように歌もやはり音でその気持ちは描写されると言うことがわかった気がした。

 その証拠に聞いているファン達も私達も気持ちの良く思ってしまう。

 次から次へと瞳ちゃんが作ったと思われる歌を歌う瞳ちゃん。

 そんな瞳ちゃんを見て嫉妬していても仕方がないと思って、私も負けていられないと思った。

 だから私も瞳ちゃんの側でギターを弾いた。私に続いて小夜子ちゃんも同じように弾いた。

 瞳ちゃんはそんな私と小夜子ちゃんにアイコンタクトで笑顔で了承してくれた。

 みんなに声援を送ってもらい、何か気持ちがいい。

 私も瞳ちゃん見たいなシンガーソングライターになりたいとも思った。

 涙姉さんの言うとおり、何か一つの事を成し遂げようとすれば色々な物が見えてくると。

 それが本当の事だと思ったとき、私の中で自信につながる何かが生まれた感じだった。


 時計が八時を回った頃、私は、

「瞳ちゃん。ありがとね。今日は本当に楽しかったよ」

「うん」

 と瞳ちゃんは何か苦笑いをして何か困った感じで返事をした。

「瞳ちゃん?」

 瞳ちゃんの機嫌を見るように再びその名を呼んだ。

「うんうん」

 と何か笑顔を取り繕っている感じだった。だから私は、

「どうしたの瞳ちゃん」

 笑ったまま黙り込んでしまい。私と小夜子ちゃんと瞳ちゃんの間に気まずい空気が漂った。

 そこで私は、

「そろそろ帰ろう」

「もう少し歌わない?」

 瞳ちゃんは何か帰ることを拒んでいるように思えた。


「ただいま」

 と元気良く言うと、涙姉さんが玄関まで駆けつけた。

「おかえり。どうしたのお友達?」

 涙姉さんは私が連れてきた瞳ちゃんと小夜子ちゃんをそれぞれ見た。

 瞳ちゃんはなぜかわからないけど、家に帰りたくないみたいだし、私を慕う小夜子ちゃんは『瞳ちゃんだけずるい。私も行く』と聞かなかったのでとりあえず、家族に了承させ連れてきたのだ。

「ゴメン。ちょっと訳あって友達連れてきちゃった」

「どうして謝るの?良いじゃない。思えば、亜希が友達をうちに連れてくるなんて初めてだよ」

 と涙姉さんは感激して私の友達を受け入れた。

 とりあえず中に入ってもらい、私の部屋に入ってもらった。

「ここが亜希姉さんの部屋か」

 何て感激している小夜子ちゃんに対して、

「別におもしろい部屋じゃないよ」

「いや、私実は友達とかの家に招かれた事ないんだよね」

 私と同じだ。

 それはさておいて、

「瞳ちゃんは家に連絡しなくても良いの?きっと親御さん達心配していると思うよ」

「・・・」

 瞳ちゃんは下唇をかみしめ悩ましげな感じで黙っていた。

 その様子を見て、瞳ちゃんは何か家族の間で何か合ったのか分からないがこのままにして置くわけにも行かない。

 小夜子ちゃんの方を見ると、私の部屋をもの珍しいように見ている。

 小夜子ちゃんは家族の了承を得て来たが、瞳ちゃんは家族の了承を得ていない。どうすれば良いのだろう。

 そんな時、私の部屋からノックの音がして、中に入ってきたのはおぼんにオムライスを乗せた涙姉さんだった。

「あなた達お腹すいているでしょ」

 そう言えば今日は瞳ちゃんの誘いで弾き語りで嬉しい事や瞳ちゃんが家に帰るのを拒んでいる事で気持ちがあたふたとしていて空腹を忘れていた。

「うわーおいしそう」

 と感激している小夜子ちゃん。

 涙姉さんはそれぞれオムライスをみんなに振る舞った。

「「「「いただきます」」」」

 そこには涙姉さんも一緒にオムライスを食べていた。どうやら私が初めて家に友達を招いた事が嬉しいようだ。

 私はオムライスを食べながら瞳ちゃんの方をちらちらと見ていた。

 小夜子ちゃんはオムライスをおいしそうに食べて、瞳ちゃんも食べているが、悩ましげな表情をしている。

 食べ終わって、時計は午後十時を示していた。

 涙姉さんは今日はもう遅いからと言って二人を泊めさせる事を促し、二人は賛成していた。

 涙姉さんを含む私達四人でトランプゲームをした。

 小夜子ちゃんは感激している様子で瞳ちゃんは悩ましげな表情をしていた。

 そんなゲームを楽しんでいる時私の携帯が鳴り出した。

 着信画面を見ると玲奈さんだった。

「ちょっと私外れるから」

 と立ち上がって、涙姉さんが、

「誰から?」

 と聞かれて、私はきっと瞳ちゃんの親御さんか玲奈さんに連絡したが行方は分からず、今日一緒にいた私のところに玲奈さんが瞳ちゃんは知らないかと聞きに来たのだろう。だから私は、

「ちょっと」

 と言ってごまかしたが、部屋から出るとき瞳ちゃんの目を見ると誰からか悟った様子だった。

「もしもし」

「亜希ちゃん?今日・・・」

 もう玲奈さんが言いたいことは分かっているので結論を言う。

「瞳ちゃんなら私の家にいますけど」

「本当に?じゃあどうして瞳ちゃんの親御さんにそれを伝えないの?」

 玲奈さんは少々怒気を感じた口調で私に言い迫った。続けて、

「瞳ちゃんの家族、心配しているのよ」

 叱咤する口調で玲奈さんは言う。

 思えば玲奈さんに叱られたことは初めてであった。だから私は、

「て言うか、私もそう思って親御さん達に連絡した方が良いと言っているのですが、瞳ちゃん連絡もしたがらないし帰りたくもない見たいなんですよ」

「そうなの?」

「はい。何か瞳ちゃん家庭で何かあった感じがするんですけど、玲奈さんは心当たりありませんか?」

「そうだね。瞳ちゃんカウンセリング室を憩いの場として利用しているだけだから、あの子から悩みの相談を受けた事はないわ」

「そうですか」

「まあとにかく亜希ちゃんのところにいるなら安心ね。この事はとりあえず瞳ちゃんの親御さん達に伝えておくわ」

「分かりました。今日のところは瞳ちゃんは私が預からせてもらいます」

「じゃあよろしくね」

 通話を切った。

 部屋に戻り、四人でトランプゲームの続きをした。

 涙姉さんと小夜子ちゃんは楽しそうにゲームを楽しんでいる。でも瞳ちゃんはその中で笑顔を取り繕っている感じだった。

 しばらくトランプゲームを楽しんで、小夜子ちゃんがうとうとしている様子を見て、

「そろそろ寝ない?」

 私が言うと涙姉さんは、

「じゃあ瞳ちゃんだっけ?私の部屋で寝る」

「はい」

 そこで私は申し出る。

「ごめん涙姉さん。小夜子ちゃんの方を頼むよ」

「そう。分かった」

 

 時計を見ると午後十一時を回ったところだ。

「明日学校でしょ。早く寝ないとね」

 瞳ちゃんにベットを譲って私は床に布団を敷いて寝ることにした。

「ねえ、さっきの電話誰だったの?もしかしてうちに関する事じゃないの?」

「うん。玲奈さんからだよ。玲奈さんの話によると、瞳ちゃんの家族が心配しているって」

「・・・」

 黙り込む瞳ちゃん。

「瞳ちゃん。何かあったなら私が力になるよ。いったいどうしたの?」

 すると瞳ちゃんは私の布団の中に入って私を抱きしめた。

「ゴメン。今は一人になりたくなかっただけ」

「一人になりたくないって、瞳ちゃんには私や小夜子ちゃんや今日瞳ちゃんに会いに来てくれたファン達がいるじゃん」

「ゴメンゴメン・・・」

 私を抱きしめながら涙を飾り連呼していた。

 私には瞳ちゃんが何に悩んで苛んでいるのか分からなかった。

 でも私に抱擁され悩みが解消されるならそれで良い。

 だから私は玲奈さんの秘書として瞳ちゃんの友達として出きることだけの事はしたい。


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