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流行り物

「ねえ、一ノ瀬君や、今って不倫が流行ってんの?」


ブホッ


私の質問に一ノ瀬君が食べていたおにぎりを変なところに入れたらしい。

その後も激しく咳き込んでいる。

すまんね。

私は背中をさすりながら、落ち着くのを待ってお茶を出した。

一ノ瀬君はお茶を飲んでようやく落ち着いたようだ。


「はあ〜はあ〜、ちょ、な、何で流行ってると思ったんですか?ま、まさか瑞樹さん!駄目ですよ!不倫なんて駄目ですからね!確かに結婚している男性は良く見えるらしいですが、もうパートナーがいるんですからね!」


今までにないくらいの必死さで、一ノ瀬君が私の両肩を持ち揺さぶってくる。

お〜〜い、それぐらいにしておくれ〜〜。

ちょっと、辛いですよ〜〜。

私がクラクラしていると、やっとこさ救いの手が入った。


「ストーップ。ほら和樹、瑞樹がダウン寸前よ。」


おにぎり大好き仲間の遼太郎君が助けてくれた。

ふう、危なくぶっ倒れるところだったわ。

遼太郎君に指摘されようやく自分が何をしていたか気づいたようだ。


「す、すいません。俺、ちょっと暴走してしまって。」


そう言うと一ノ瀬君は乱れた私の髪を撫でてくれた。

おお、やることが男前ですな。

これがモテる男のスキルか……。

私がアホなことを考えていると、遼太郎君が話しかけてきた。


「で、何でそんなことを言い出したの?」


「うん?何でって……ただテレビでやってたからそう思っただけだよ。」


私の軽い気持ちでの一言がこんなことになるとは。


「テレビ……ですか。そっか、テレビか。」


一ノ瀬君がテレビ、テレビとつぶやいている。

ごめんよ、なんか私の一言で混乱させて。




そんな会話をかわした数日後、私は見事にその現場に出くわした。


『……だから、………もう………でしょう。』


『イヤだ!』


私はその日、急に炭酸飲料が飲みたくなった。

普段、紅茶や日本茶ばかり飲んでいたから家に常備しておらず、だからと言って諦める気にもなれなかったので雨の中近所の自販機まで歩いて向かったのだが……。

その自販機に着いた途端、声が聞こえてきたのである。

ちょうど自販機の横側から聞こえる。

自販機のおかげで私からも、声のする方からも姿は見えない。


『ねえ、…………だって…………でしょう?』


『そんな……』


会話の感じからすると、何か揉めているらしい。

うーん、ここで私が炭酸飲料のボタンをポチッと押して商品がガタゴトと音を出して出てきたら何か気まずくないか?

しかし、この雨の中傘をさしているとはいえ、会話が終わるまで待つというのもアレだしな〜〜。

私は変なことで悩まされるハメになった。

まあ、普通に考えたらサクッとボタンを押して帰れば良いんだろうけど。

なんか妙に真剣な雰囲気に邪魔してはいけないんじゃないかと思ってしまって……。

なのに炭酸飲料を諦めきれない意地汚い私。

…………待つか。


「もう、いいじゃない。あなただって、いつかはこうなるってわかっていたでしょう?」


おや?

声が良く聞こえる。

どうやらこちらに近づいて来たようだ。


「だからって、何で今なんだよ。俺の大事な時に……」


「私も大事な時なの。夫が昇進してイギリスに行くことになったわ。もちろん私も一緒にね。」


「な!何だよそれ!あんなに旦那と別れるって言ってたくせに。」


「そうね。でも、夫は結果を出してくれたわ。私は勝ち組になりたいの。未来の可能性より、今現在の幸せをとるわ。だからあなたとは今日でお別れよ。あなた『大事な時期』なんでしょう?私のことをかまっている暇はないんじゃない。……ああ、それと夫は私の浮気のことは知っているわ。だからあなたが騒いでも夫は私とは別れないわよ。無駄なことはしないでね?」


「…………」


「話しはそれだけよ。じゃあ、これまで楽しかったわ。頑張ってね。」


カツッカツッ


女性の靴の音がやけに響いた。

どうやら話し合いは終わったようだ。

これが今流行っている例のアレですか……。

今回はどうやら女性の方が結婚しているパターンのようだ。

さて、私は炭酸飲料を買ってもいいのでしょうか?

まあ、話し合いは終わったようだし良いよね?

私はお金を入れて目当ての商品のボタンを押した。


ガタン

ガッターーン!!


「ひょっ!」


商品が出てくる音のすぐ後に、何かを思いっきり叩く音がした。

その為に私の口からは謎の音がもれてしまったのである。

私は恐る恐る音のした方を覗いてみた。

すると、自販機の横にはさっきの言い争いをしていた男性の姿が……。

コレはアレですな。

自販機に八つ当たりですね。

しかも覗いたらその人とバッチリ目が合ってしまった。


「「…………」」


気まずい。

しかもなんかアレだ……この人どこかで見たことあるような気がする。

うーん、最近このパターンで雨の日に拾いモノしたような……。

でも、コレは拾って良いのでしょうか?

ちょっと困ってしまうけど、この人雨に濡れてるし、しかも……泣いてるし。

とにかく見てしまったものはしょうがない。

私は持っていた大きめのタオル地のハンカチをその人に差し出した。


「あの、コレもし良かったら使って下さい。大きなお世話かもしれないけど、このままだと風邪引きますよ。それから、この傘も。私、家近いので大丈夫ですから。じゃあ、えーっと……元気出して。」


私はそう言うと、さしていた傘を男性の足元に置いてダッシュした。

私のカンが今は拾うべきじゃないと言っているような気がする。


私はダッシュで家までたどり着いた。

もちろんその手にはさっき買った炭酸飲料があるわけで……。

あんなに飲みたかったのに、振ったせいで飲めんわ!

ちょっと悲しい一日だった。



ーー数日後


相も変わらず、我が家にいる毎度のメンバー。

テレビを見ながらくだらないことで盛り上がっている。

本日はいつもの一ノ瀬君におやっさん、珍しく鴉さんもいた。

一ノ瀬君は毎度のおにぎり、おやっさんはクッキー、鴉さんはカリカリ梅を食べながらテレビ見ている。


「あ、ほら、俺今度この人と会うんですよ。」と一ノ瀬君。


「へえ、『黒岩 誠 』か。」とおやっさん。


「ふーん」と鴉さん。


テレビではどうやらボクシング中継が映し出されているようだ。

なるほど、一ノ瀬君は今度はボクシング選手と対談の予定でもあるのかな。

私は食器を片付けながらみんなの会話を聞いていた。


「わ〜〜、やっぱり強いですね。あっという間にKOですよ。これでこの階級制覇じゃないですか。」


ふむ、どうやらあっという間に試合は終わってしまったようだ。


「お、勝利者インタビューか。」


こんなに早く終わっちゃうとある意味テレビ局の人は大変だね。

なんて、勝手に思っているとテレビを見ていたみんなが一斉にこちらを見た。


「え?どうかした?」


「いや、いいからこっちに来てテレビ見てみろ。」


おやっさんがこっちに来いと手まねきしている。

なんなんだよ。

理由もわからず私はテレビの前へと移動する羽目になった。


「もう、どうしたの?」


「しーー、いいからテレビ見て。」


一ノ瀬君までそんなことを言う。

私はしょうがなくテレビを見てみた。

…………あ。

なるほど、そう言うことか。

テレビの中の勝利者インタビューを受けている人は数日前に会った、あの人だ。


『なるほど、ではこの傘とハンカチの女性を探しているんですね?』


『はい。傘には「MIZUKI」とありました。……あの日俺に元気をくれたキミ!どうしてもお礼がしたいのでもう一度会いたいです!』


は、はは。

そう来たか。


「…………瑞樹さん。正直に答えて下さいね。アレ、瑞樹さんのですよね?」


おや一ノ瀬君、何故断定なのかな?

疑問の余地は無い、そう言いたいのだね?

ならば私が言える言葉は一つ!


「はい、私のです。」


私の言葉に三人は揃って『やっぱり』と言っている。

でも、今回は拾ってないよ。

私の表情で何かを感じ取ったのか一ノ瀬君がこう言った。


「拾ってますよ。しかも一番大事な、恥ずかしい言葉で言えばたぶんあの人の『心』を。」


……マジですか。


「はあ〜〜、本当に瑞樹さんにはビックリです。とにかくテレビであんなこと言わせておくと大変なことになりそうなので、俺が今度会った時に言っておきますよ。今度会わせてあげますって。だって、拾ったモノの責任とっちゃうんですもんね?」


「うっ。わ、わかったよ。」


「大丈夫だ。もしこいつに会うときは人を集めておけば良い。」


鴉さんがそんなことを言っているけど、なんか騒ぎになりそうで怖いです。



まあ、結局会いましたよ。

会った途端抱きつかれましたよ。

そして次の瞬間、黒岩さんは何人かの手により私から引き剥がされましたよ。

みんなが言うには、完全に懐かれていると。

まるで生まれたての雛のようだとも。

私の平凡な生活にまた平凡じゃない人が加わった。




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