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カメラ

「いつも悪いな。」


「いえいえこちらこそ、ご馳走様です。」


日曜日の今日、私はおやっさんこと大屋さんとお出かけしている。

2ヶ月に1回ぐらいの割合で、おやっさんが休みを取れる時にだ。

あ〜〜、でもデートって感じではない。

おやっさんは顔は強面だが、かなりの甘党なのである。

ただ、そんな強面なうえに眼光鋭いおやっさんが、女子がほとんどの甘味どころに1人で行けるわけもなく、私が駆り出されている次第でございます。


「いや〜〜、我ながら良い写真が撮れた。」


「一体何枚撮ったんですか……。」


おやっさんは出かけるたびに、自身のデジカメで撮影をしている。

その写真はおやっさんが密かにやっているブログにアップされているわけなのだが……一応、私は知らないことになっている。

いや、実際にこの間まで知らなかったんだけどさ、鴉さんが面白いブログがあるとか言って見せてくれたのだ。


『スイーツ大好き男子の集い……集まれおっさん!』


いや〜〜、なかなかインパクトのある名前だよね。

途中までおやっさんのブログとは知らずに見ていたのだが、鴉さんが一通り見た後で


「これ、おやっさんのブログだから。」


って言うんだもん。

あの、鴉さんの顔……絶対からかってやろうっていう気満々だった。

なんか笑いながら見てしまった手前、おやっさんに本当に申し訳なくて、大人げないと思ったけど鴉さんにはおとなしくしてもらうことにした。

付き合い長いから、鴉さんの弱みも握っているのですよ……。



「なあ、瑞樹。もう一軒行っても良いか?」


「ええ、良いですよ。でも、少しお腹が落ち着いてからにして下さいね。」


だいたいおやっさんと出かけると一軒ではすまないのである。

多い時で、最高五軒ハシゴしたことが……あの時はしょっぱいものが非常に恋しくなった。

せめて間にラーメンとか入れてほしかった。


「うーん、ちょっと喉乾いたかな。おやっさん、そこのコンビニ寄って良いですか?」


「ん?良いけど、コンビニで良いのか?」


「はい。ちょっとお茶買うだけなんで。」


私とおやっさんは揃ってコンビニへと入った。



「えーっと、無糖の紅茶がいいかなぁ〜〜。」


「んじゃ、俺もなんか飲むかな。」


そんなことを言いながらコンビニの新商品もチェックしているおやっさん。

知ってるよ、普段はお店回れないからコンビニスイーツに異常に詳しいこと。

こうなるとおやっさんは隅々まで見ないと気が済まないからな〜〜。

しょうがない、今日はトコトン付き合いますか。

ん〜〜、そうだ!

さっきおやっさんが撮っていた写真でも眺めていよう。


「おやっさん、じっくりとことん見てて大丈夫なので、さっきの店で撮っていたデジカメの写真見せて下さいな。」


「ん?ああ、悪い。じゃあ、コレ。」


おやっさんがデジカメを手渡してくれた。

えーっと、コレってどこを押したら良いのかな?

私がもたもたしていたら、おやっさんが気がついたようで笑いながら近寄って来た。


「はは、そういえば瑞樹はそういうのの扱い下手だったもんな。コレを押せば見られるぞ。」


「え?コレですか?」


私はおやっさんに言われたボタンを押した……つもりだった。


カシャカシャカシャカシャ


な、なんかカメラが動いている!

私がビックリしていると、おやっさんがまたもや笑っていた。


「瑞樹〜〜、それは連写だぞ。どうやったらそうなるんだ?ある意味奇跡だな。」


「うっ、だって……。はぁ〜〜、やっぱり文明の利器ってダメですね。」


「いや、今時そんなことを言う奴お前だけだと思うぞ。……そうか、だからガラケーから変えないのか。」


うう、だってスマホとかってよくわかんないし、みんなが言っているラインなんて意味不明だ。

良いんだ、私は電話とメールが出来る二つ折りのガラケーを愛しているんだから。


私がおやっさんに笑われている間に、何やらコンビニ内が騒がしくなってきた。

どうしたんだろう?

なんか大声で叫んでいる人がいるような……。



「ほら、これですよ!私、見ていたんです。この子がカバンにこの商品入れるところを!」


女子高生らしき子が、もう一人同じ制服を着た子のカバンを握って叫んでいる。

これは、いわゆる万引きってヤツですか?

カバンの持ち主の子は、顔が青ざめている。


「わ、私、知りません。」


「だけど入っていたじゃない!店員さん、早く警察に連絡して下さい。それから、私は『同じ学校』だから学校にも連絡しなきゃね……ふふ。」


うーん、あれってなんか様子がおかしいよね?

もしも同じ学校の子が、万が一万引きしていたとしてあそこまで騒ぎ立てるかな。

おやっさんもおかしいと感じたのか、その騒ぎの方へと近づいて行った。


「あ〜〜、ちょっといいですか?私は警察の者ですが……」


そう言って警察手帳を見せている。

おやっさんの登場にみんなビックリしていたが、最初に騒いでいた子がおやっさんに訴え始めた。


「ちょうどいいところに!お巡りさん、この子が万引きしたところバッチリ目撃したんです。だから早く捕まえて下さい。」


本当にグイグイくるな、この子。

ちなみに万引きの疑いをかけられている子は、どうしたらいいのかわからずに呆然としている。

よく見てみると小刻みに震えている。

うーん、この子は『やっていない』と思う。

だいたいなんで騒いでいる子はそんな決定的瞬間を目撃出来たんだろう?

私がそんなことを考えているうちに、コンビニの防犯カメラを見させてもらうことになったらしい。

このまま店内で騒ぐのは困るということで、奥の事務所に案内された。



防犯カメラを店長さんとおやっさんが見た結果、グレーとのこと。

ちょうど死角になっていて決定的瞬間が映っていないとか。


「でも、私は見たんです!」


「わ、私は、そんなことしません……」


「嘘よ!きっと身の丈に合わない学校に入ったせいね。いくら成績が良くったって、学費も払っていないんですもの。」


「そ、それは、奨学制度を利用しているからで……」


ふむふむ、目撃者の女子高生はもう片方の子を目の敵にしている様子。

こうなってくるとますます怪しい。

その時ふと私は思い出した。

この騒ぎが起こるちょっと前に起きた出来事を。



「ねえ、おやっさん。このおやっさんのデジカメの映像ちょっと見てくれないかな?」


「うん?こんな時にデザートの映像見るのか?」


「違うよ。いいから見て。さっき私が撮ったの。」


「ん?瑞樹が撮ったのなんてあったか?…………ああ!もしかしてさっきの失敗連写か。」


失敗連写って言うな。

おやっさんはさっき私が撮った写真を確認している。

そして写真を確認した後すぐに店長さんにも見せていた。

どうやら、良いモノが写っていたようだ。




写真にはバッチリ写っていた。

騒いでいた子が、万引き扱いした子のカバンに商品を入れるところが。

しかも、連写ですからね。

証拠としてはこれほどのモノは他にないでしょう。


「ありがとうございました。あ、私の名前は佐伯 翼と言います。」


佐伯さんが言うには二人は同じ学校に通っていたようで、佐伯さんは高校からで、騒いでいた子は中学の頃からその某有名私立学校に通っていたらしい。

佐伯さんが入るまでは成績トップの座は騒いでいた子だったらしく、しかも学校にも寄付を結構していたようで、奨学生の佐伯さんの存在を日頃から憎々しく思っていたようだ。

もちろん騒いでいた子のやったことは悪質なイタズラではなく、一人の人間の人生を変えてしまうかもしれなかった犯罪だ。

学校側も庇うことは難しかったらしく、その後学校を去って行ったらしい。


さて、この佐伯さんなのだが、本当に頭が良いらしい。

いわゆる『天才』ってヤツだ。

その後話しをしているうちに、佐伯さんが『はーさん』を尊敬しているということがわかった。

『はーさん』は今、某有名大学で若くして教授をしている。

まあ、そんな人をこの間呼び出してしまったが、海苔の佃煮でご機嫌になっていたから良いよね。


「佐伯さん、はーさん……春山教授に習いたいの?」


「あ、翼でいいですよ。春山教授に習う……そんなこと出来たら幸せです!」


ほうほう、幸せですか?

確か、はーさん優秀な助手候補が欲しいって言ってた。

まだ高校生だけど、たぶん、はーさんに相応しい。


「んじゃ、呼ぶね?」


翼ちゃんが何が何やらわかっていないうちに、はーさんに連絡してみた。

鉄は熱いうちに打てだよね。

はーさんは、速攻来てくれた……授業とか良いのかな?



「君が佐伯さん?あ〜〜、君アレでしょう、確か前にオープンキャンパスの時に来てたでしょう?確か、あの時凄く熱心に質問してきてた。うちの学生よりも鋭い質問に気になっていたんだよね〜〜。うんうん、しかも瑞樹に会っちゃったんでしょう?良いよ〜〜、うちに来なよ〜〜。」


おお、はーさんが覚えているってことは相当だね。

基本あまり人に興味ないから。


「あ、ありがとうございます!……でも、うちにあんまり余裕がないので、先生のいる大学に行くのは……残念ですが無理だと思います。」


「うん?試験は絶対合格出来るっしょ?なら大丈夫。私の研究室に来てくれれば学校側に出させるから。」


はーさん、こんなんだけど相当厚遇されている。

そのはーさんの助手になれそうな人材なら、先行投資してくれるはず。

はーさんの助手って、なんか長続きしないんだよね。

まあ、変わっているから。


「まあ、これで瑞樹の交友関係もまた異常になるね〜〜。たぶんこの子も化けるよ〜〜。」


翼ちゃんは何のことだかわかっていないようだが、近々理解する日が来る。

そして私の平凡じゃない交友関係も。

翼ちゃんも私の家に遊びに来るようになるからね。




「え?え?な、何でここに一ノ瀬さんと土方さんがいるんですか!?」


案の定、数日後遊びに来た翼ちゃんの叫び声が響き渡った。

うん、早い段階でわかって良かったね。






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