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そういう人もいる

その日私は珍しく家に1人でいた。

なんだかんだで最近、誰かが我が家にいたのだが今日は誰も来ない。

これはチャンスだとばかりに、撮り溜めていた歌番組を見ようか、それとも本でも見ようかと考えていたところ電話が鳴った。

……誰だ、邪魔したの。


『もしもし』


私が電話に出るとホッとした声が聞こえた。


『ああ、良かった瑞樹。悪い!ちょっと厄介なことに一ノ瀬が巻き込まれているんだ。力を貸してくれないか?今、事務所にいるんだが来られるか?』


電話は蓮さんからだった。

一ノ瀬君の危機……それならば出撃するしかあるまい。

拾ったモノには責任を持たねば。

それに、蓮さんがわざわざ私に連絡してくるってことは、私の交友関係が必要なんだろう。

日頃お世話になっているから、全力を出してお助けしますか……まあ、きっと私じゃない誰かの力だろうけどね。


『ラジャー!エマージェンシーコールですね。今から家出るから30分ぐらいかかるよ?』


『いや、大丈夫だ。迎えは向かわせている。瑞樹のマンションの玄関付近に桜庭が待っているから合流してこっちに来てくれ。』


『え?桜庭さんって、あの桜庭さん?』


『どの桜庭かわからんが、俺の知っている桜庭は1人だな。じゃあ、よろしくな。』


そう言うと蓮さんは電話を切ってしまった。

ふむ、桜庭さんが出てくるってことは本当に非常事態だね。

桜庭さんというのは蓮さんの事務所の人で、主に蓮さんの右腕的、マネージャーさんみたいな人だ。

いつもは事務所から出ない人で、蓮さんが本気でスカウトしたいと思っているほどイイ男なのである。

その人をアッシー代わりに使うなんて凄いね。

私は桜庭さんを待たせるわけにはいかんと思い、急いで準備をし3分でマンション前へと到着した。



「瑞樹さん、こちらです。」


呼ばれた方を見ると、全身真っ黒コーデの桜庭さんが立っていた。

何故か桜庭さんはいつも黒しか着ないんだよね〜〜。

まあ、似合っているから良いけど。


「ごめんなさい、お待たせしました。」


「いえ、大丈夫です。こちらこそご足労いただき申し訳ありません。さあ、説明は車の中でしますので、こちらにお乗りください。」


桜庭さんに案内され停めてある車に乗り込み、一ノ瀬君の危機に関して話を聞いた。



「すると、急に事務所にやって来たおじさんが、自分の孫を一ノ瀬君に会わせるように蓮さんに詰め寄っているということですか?」


「まあ、簡単に言えばそうです。」


「……アホですか?」


「まあ、簡単に言えばアホです。」


本当に世の中不思議な人もいるもんだ。

事務所に乗り込んで、そんな非常識なことを頼むなんて。


「ちなみにその会いたいって言っているお孫さんが、何か切羽詰まった理由で会いたいってことではないんですよね?」


「話を聞いていたところでは、とにかく可愛い孫のために自分が会わせてやると約束したって感じでしたね。ビックリですよね。」


「ええ、ビックリです。……で、何で私は呼ばれているんでしょうか?」


私は交渉人ではないですよ。

そんなわけのわからんことをするおじさんには関わりたくないんだけど。


「それが……今回のような方はたまにいるんですよ。」


あ、いるんだ。

本当、怖いわ。

でも、今回の人はいつもの人と違うところがあるってことか。


「今回困っているのはその人が、ちょっと厄介な人脈を持っているってことなんですよ。」


「厄介な人脈……ですか?」


「はい。どうやらその人どこぞの建設会社の重役だって言うんですが、ある政治家の方と知り合いらしくそこを使いながらうちの土方に不当な要求をしているんですよ。」


政治家……ねぇ。

それはある意味脅しだよね。

そう言えばこの間、真壁さんからもそういう人がいるって聞いたような……。

なんかそういう人に会ったら連絡しなさいって言ってた。

ということは、今がその時ですか?


「あの、桜庭さん。ちょっとだけ電話しても良いですか?」


「ええ。あともう少しで事務所に到着しますが。」


「いえ、すぐ済むと思います。ちなみにその困ったおじさんって、政治家さんのお名前は出していましたか?もし言っていたら教えてほしいのですが。」


「ああ、確か『小島 清』と言っていた気がします。その人の後援会にも入っているとか。」


「なるほど、わかりました。じゃあ、ちょっとだけ失礼しますね。」


私はそう言うと真壁さんに電話をかけた。

忙しい人だから出てくれればラッキーだけど……。

数回のコールで電話はつながった。



『もしもし、橘です。お忙しいところ申し訳ありません。』


『いや、君からの電話ならどんな用件よりも最優先にするから大丈夫だ。それで、電話してくるくらいだ、何かあったんだろう?言いなさい。』


いつもながら優しい人だ。

どんなに忙しくても話を聞いてくれる。


『実は先日話していた件だったんですが、知り合いがちょっと巻き込まれていまして。』


『ああ、もしかして政治家の名前を出して不当な要求をしてくるヤツか。……そうか、君のところに引っかかってくれたか。さすがだな。では、どの政治家の名前を出しているかもわかったのか?』


『はい。小島 清さんだそうです。私も今、現場に向かうところなんですが、ひとまず真壁さんに連絡しなければと思いまして。』


『そうか。正解だ。現場はどこだ?』


私は土方さんの事務所の住所を伝えた。


『ほほう、面白い偶然だ。今、私もそこから5分程のところに用事があっていたところだ。これが君の力なんだろうな。よし、私も今からそちらに向かう。もし、君が先に着いたなら先に入っていなさい。君がその場にいた方が良いだろう。』


『わかりました。ご協力ありがとうございます。』


ふう、これで解決するかな?

小島さんがどういう政治家か知らないけど、普通の精神をお持ちなら真壁さんに逆らおうなんて思わないはずだ。

っていうか一般常識持っているよね?きっと。



やっとこさ事務所に到着した。

さて、真壁さんに言われちゃったから先に中に入りますか。

私と桜庭さんは土方さんが待つであろう部屋へと向かった。


そこは事務所の一角を応接室として使用しているらしく、あまり大きな音だと事務所内にも聞こえてしまうようだ。

だって、入った途端怒鳴り声がするんだもん。


『だからなんで会わせられないんだ!こっちがこんなに頼んでいるんだろう?それに小島先生の方からも宜しくと言ってきているんだ。一芸能人に会わせるのに、何を出し惜しみしているんだね!他の事務所では快くOKしてくれたぞ。たまにキミのように出し惜しみした者が、最後には土下座をしてきたこともあったがね。キミもそうなりたいのか?』


…………あ、アホがいる。

私の考えていることが手に取るようにわかったのか、桜庭さんも


「お気持ちお察しします。」


と冷たい眼差しで言ってきた。

もちろん冷たい眼差しはアホなおじさんの方に向けてだよ。


応接室はブラインドも出来るようだが、今はあえてされていない。

やだもんね、閉じられた空間にあのおじさんといるの。

そのおかげか、蓮さんが私に気がついた。

視線を私に向けて、ホッとした表情をしている。

そしてそのことに気づいたおじさんがこちらに振り向き、私を見た途端また何か言っている。

というか、こちらに向かってきた。



「おい、なんでこんな娘がここに出入り出来て、うちの孫がダメなんだ?!そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ。小島先生にも協力してもらい、こんなところ活動出来なくしてやる。それが嫌ならとっとと土下座をして、一ノ瀬とかいう俳優を連れて来い!さあ、早くしろ。…………そうか、やらんか、待ってろ今、小島先生に電話をもう一度かけてやるからな……」


おじさんは悪い顔で電話をかけ始めた。


『おお、高橋です。さっきはどうも。先生はいらっしゃいますかな?…………はあ?何を言っているんだ。……もういい、あんたでは話しにならん。先生と代わってくれ。早くしろ!…………ああ、先生ですか?聞いて下さいよ…………え?いや、しかしさっきは……どういうことですかな?』


どうやら小島先生とやらと揉めているようだ。

もしかして真壁さんが何かやってくれたのかな?

電話をしているおじさんが何故か私のことを見た。


「おい、そこのお前。名前は?」


私の名前を聞きたいようだ。

ええ〜〜、知らない人に名乗りたくないんだけど。


「言いたくないです。」


私の返事におじさんの顔は真っ赤になっている。

アレはもはや茹で蛸だね。


「ふざけるな!いいから言え!」


一般ピープルに何してくれているんですかね。

というか、こういうところだから防犯ビデオだって設置されている。

このビデオだけで警察に行けるんじゃないか?

おやっさんにこの映像を見せたら嬉々としてヤッてくれるような気がする。


その時誰かが部屋に入って来た。

見てみると……あ、真壁さん、と秘書の飛田さんが来てくれた。

あ……あの顔はきっと外で会話を聞いていたな。



「おい、そこの電話をしているキミ。その電話の相手は小島さんだろう?代わりなさい。」


真壁さんがおじさんの元へ行き、電話を取ろうとした。


「な、なんなんだあんたは?いきなり来て……」


ビックリしてはいるが電話を離そうとしないおじさんを秘書の飛田さんが抑えた。

おじさんはまたもや暴れそうになったが、ガッチリ抑えられ動けないでいる。

真壁さんはそんなおじさんから電話を取り、どうやらハンズフリーにしたようだ。


「小島さん、さっきも電話しましたが真壁です。どういうことですかね、これは。今、私もこの現場にいて話を聞いていたんだが、非常に不愉快になりましたよ。」


おお、真壁さんの声が低い低い。

相手の小島さんがしきりに謝っている。


『ま、真壁さん!そ、その場にいらっしゃるんですか!?あ、ああ、も、申し訳ありません!わ、私も頼まれて仕方なく名前を貸していただけなんです!信じて下さい!』


小島さんのその言葉におじさんが吼えた。


「何を言っているんですか、小島先生!私とあなたの仲ではないですか?一体この人たちは誰なんですか。今も私は抑え込まれているんですよ!なんとかして下さいよ、小島先生!」


おじさんの叫びに小島さんは冷たく言い放った。


『高橋さん、あなたが今一緒にいるのはあの『真壁 善次郎』大先生ですよ!真壁さん、本当に申し訳ないです。あ、えー、い、今からそちらに向かいます!』


「いえ、来なくて結構です。では、切りますよ。」


真壁さんはそう言うと電話を切った。

おじさんはさっきまでの真っ赤な顔から今は真っ青になっている。

ことの重大さに今気づいたようだ。


「あ、あ、わ、わたしは……」


おじさんが何か言おうとしていたが、それを真壁さんが止めた。


「何も言い訳はいらない。……さあ、あとは君のお友達に連絡しなさい。こちらが集めていた資料も渡して、捜査に協力させてもらうよ。」



その後、おやっさんに頼んで動いてもらった。

あの小島さんという人はおじさんからお金をもらっていて、おじさんはそのおかげで大きな顔が出来ていたようだ。

真壁さんはそういう人が許せないからね〜〜。

かっこいいよ、本当に。

…………ただ、今は微妙だけど。


「瑞樹君!ずるいぞ、それは私が狙っていたモノだ!」


「早い者勝ちです。それに真壁さんだってさっき私の取ったじゃないですか!」


「どうやら戦わねばならんようだな……」


ただいま、我が家でゲームに興じる真壁さん。

確かとっくの昔に還暦も過ぎているんだけど。

ゲームが趣味とは周りには隠しているらしく、年に数回だけ我が家に来ては、はっちゃけていく。

真壁さんとの出会いはゲームがきっかけだ。

まさかこんな人とあんな風に出会うとは思わないよ。

今日もこんな風に過ぎていく……面白い。



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