紙飛行機
その日、私は有給消化の為、平日に休んでいた。
久しぶりに散歩でもしようと、たまの平日、いつもは使わない道を歩いていたんだけど。
コツン
うん?
私の頭に何かが当たった。
当たったであろう物体が、私の足元にある。
何だろう?
コレは……紙飛行機?
どこから飛んできたんだろう。
私は周りをキョロキョロ見渡してみたが、誰も見当たらない。
とりあえず拾い上げてみる。
よく見てみると何かが書いてあるようだ。
紙飛行機を広げてみると、どうやらテストの答案用紙のようだ。
おやおや、テストの答案用紙を紙飛行機にして飛ばしてしまうとは……。
私はその紙を綺麗に四つ折りにし、ひとまずカバンにしまうことにした。
このままここに放置してしまっては誰かに拾われてその子が何か言われてしまうかもしれないし。
後で『鴉』さんに頼んでポストにでも入れてもらおう。
こんなモノでも『鴉』さんなら持ち主を調べられるだろうからね。
名前だけでも確認しようともう一度答案用紙を見てみた。
『 アリサ クランベール』
あら、もしかしなくても外人さんですか。
書いてある字や問題を見る感じ、たぶん小学生の低学年の子かな?
アリサだから女の子だよね。
だけど勝手なイメージだけど、女の子が答案用紙を紙飛行機にするかな。
もしかしたら誰かに飛ばされちゃったとか?
とにかく『鴉』さんに連絡入れてみますか。
私は散歩を途中で切り上げることにした。
帰ろうと歩いていると目の前にある公園でちびっ子達が集まっているのが見えた。
普段なら通り過ぎてしまうところだが、妙に気になる。
私は公園に入って行った。
「これ、やっぱりアリサちゃんのだよ〜〜。」
「そうだね、でも何でこんなところにあるんだろう?」
「どうやって帰ったんだろうね?」
「いつもは車で帰ってるよ。」
「うんうん。」
ちびっ子達の会話を聞き、落ちているモノを見た。
落ちていたのは片方だけの靴だ。
……嫌な予感がする。
私はちびっ子達を驚かせないように優しく声をかけてみた。
「あのね、これってアリサちゃんのかな?」
私は四つ折りにしていた答案用紙をちびっ子達に見せた。
さっき見たところ点数は100点と、とってもよろしかったからいいよね。
「うん?どれ?……あ、今日返されたのだ!えーっと、うん、これアリサちゃんのだよ。でも、何でお姉ちゃんが持ってるの?」
「ああ、えーっとね、そこを歩いていたら拾ったの。それで、この靴もアリサちゃんのなの?」
ちびっ子達は顔を見合わせながら口々に言った。
「そうだよ〜〜。」
「だってこんな靴履いてるのアリサちゃんしかいないもん。」
「アリサちゃんお金持ちなんだよ〜〜。」
靴を見てみると、確かに小学生が履くには高そうなモノだった。
ということは、お金持ちというのも正解か。
えーっと、いつもは車で送り迎え、なのにこんなところに片方の靴、そして私の頭に当たった紙飛行機。
これから導き出される結論は……。
「おやっさん!急用です!今すぐ来て下さい!……私の拾いモノが大変です。うん、はい。」
次。
「鴉さん!急用です!ヘルプミーです!え?……はい。了解です。」
そして
「アレク!クランベールって名前のお金持ちに心当たりない?……ある!?その人知り合い?うん、うん、良し、ラッキー!じゃあ、急いでその人に連絡取って!急用だよ、私、拾いモノしたの。うん、よろしくね。後で連絡ちょうだい。」
よし、あとは連絡待ちだ。
あ、でも、あと1人。
「はーさん!ちょっと力貸して!はーさんの頭脳が必要なのですよ。……わかりました、今度差し入れ持っていきます。はい、……わかってます、ちゃんと大好物の海苔の佃煮持っていくから、だからお願いします。……そうです、拾いモノ関係です。えーっと、ここは……虹の丘公園に来て下さい。急ぎです。」
ーー30分後
みんなさすがだ。
あっという間に集まってくれた。
「瑞樹が拾ったってことは決まりだな。」
「まあ、そうだな。」
「相変わらずのミラクルだね。」
「ふい〜〜、久しぶりに外に出たから溶けそうだよ〜〜。早く終わらせようよ〜〜。」
そこからはそれこそ怒涛の勢いだった。
アレクとおやっさんに協力してもらい、クランベールさんのところに友人を装って行ってもらったところ、やっぱり身代金を要求する電話がかかってきていたようだ。
どうやら送り迎えの車が来る前に、1人で帰ってしまったようなのである。
それがわかればやることをヤルだけだ。
はーさんに協力してもらい、私が紙飛行機を頭に受けた時の風向き、周りの立地からどこから飛ばされたものか調べてもらい、目星をつけたマンションを鴉さんに調べてもらった。
個人情報って何なんだろうね。
鴉さんはすぐに住んでいる人を割り出し、イロイロな情報を元にある部屋に絞り込んでくれた。
そして『偶然』隣の部屋に住んでいる人が鴉さんのお知り合いということで、……うん、そこは『偶然』ということにしておいて下さい。
その『偶然』お知り合いの人に協力してもらい、隣の部屋の様子を調べていただいたところ……うん、どうやって調べたかは、お察し下さい。
住んでいるはずのない、小さい女の子の声が聞こえたとのこと。
ならやるっきゃない。
その後はプロに任せることにした。
おやっさんがイロイロ手を回して、その部屋に突撃したのだ。
あっ、でもアリサちゃんの安全は事前に確保していたんだよ。
鴉さんのお知り合いの隣の部屋の方が、ベランダ越しに部屋に侵入をしていたのだ……うん、ナイショだけどね。
結果、アリサちゃんは無事救出された。
いや、良かった、良かった。
これで安心して家に帰れる。
私は解決した報告をおやっさんから聞き、みんなにもお礼を言ってすぐに帰ろうとした……したのだが、それは阻止された。
「アレクから聞きました!あなたのおかげでアリサが無事救出されたと、本当にありがとうございました。ほら、アリサ、お前もお礼を言いなさい。」
クランベールさんの背に隠れるように、金髪が見える。
クランベールさんによって私の前に出されたアリサちゃんはまるで天使のような外見だった。
アレだ、えーっと、ビスクドールだっけ?
アレの怖くないバージョン。
「……あり…が……とう。」
アリサちゃんはたどたどしくお礼を言ってくれた。
私は安心させるように「どういたしまして」と笑顔で言ってみた。
すると今までクランベールさんにくっ付いていたアリサちゃんが、私の方にトテトテと歩いて来て、そのまま私のお腹のあたりにくっ付いたのだ。
私はちょっとビックリしたが、その見事な金髪が気になってしまってつい頭をナデナデしてしまった。
するとますますギュッと抱きついてくる。
か、カワイイ!
その後わかったことだが、クランベールさんは貿易関係のお仕事をしている人で、日本にはアリサちゃんが生まれた時から住んでいるらしい。
奥さんはアリサちゃんがまだ赤ちゃんの頃に亡くなってしまったらしく、家にはクランベールさんの母親とアリサちゃん、使用人の人たちが何人かいるとのこと。
お金持ちということは結構有名らしく、アリサちゃんの登下校は必ず誰かが迎えに来ていたようだったが、この時はアリサちゃんが友達から聞いた『駄菓子屋』に行ってみたくなってしまい、1人で帰ってしまったようなのだ。
そこを狙われたようで、その後は部屋に連れて行かれたアリサちゃんはたまたまポケットに入れていたテストの答案用紙を紙飛行機にして、部屋の窓から飛ばしたそうな。
それが私の頭に当たったのは、まあ、『いつものこと』なんだろうね。
アリサちゃんはその後私に非常に懐いてくれた。
たまにクランベールさんと一緒に私の部屋にも遊びに来たりしている。
もちろんその逆もある。
そのおかげでクランベールさんやアリサちゃんのお祖母さんのマリアさんとも仲良くさせてもらっている。
そして今日もお邪魔させていただいていたりして。
「瑞樹お姉ちゃん、いつここに一緒に住んでくれる?」
おやおや、アリサちゃんは寂しがり屋さんだね。
「おやおや、アリサったら。でも、そうね〜、瑞樹さんが来てくれたらどんなに良いか……うちの息子の頑張り次第かしら?」
マリアさんまで何を言っているのやら。
そして忙しいはずのクランベールさんは遊びに行くと必ず家にいる。
不思議だ。
「……わかってますよ。あの、瑞樹さん、もうそろそろ私のことも『クランベールさん』ではなく、アロンと呼んでいただけませんか?」
ああ、1人だけ名前じゃなかったから仲間はずれだと思ったんですね?
わかりましたよ、善処します。