大物
「そういえば最近あんまりこれっていう拾い物してないよね? 」
我が家のテレビの前に陣取りながらそんなことを言っているのはリナ。
「そうですよね〜〜、最近新人さんは来ないですもんね〜〜」
おにぎりを両手に持ってそんなことを言っているのは一ノ瀬君。
そんなに持たなくても君のおにぎりを取る人はいないから心配しないで。
「馬鹿だな〜〜、そんなこと言ってんとこいつはマジでヤバイの拾ってくんぞ」
なんだかカッコつけてそんなことを言いているのはおやっさん。
でも、今食べているケーキのクリームほっぺに付いてますよ。
それにしてもみんな言いたい放題だ。
別にそんなに拾ってないわけでもないのに。
昨日だって……。
ーー前日
はあ、なんで今日に限っていつもの道が水道管が破裂したとかで通行止めになってるのかな〜〜。
今日は楽しみにしていた新作ゲームをやり込もうと思って、買い出しも万全にしたのに。
私は両手にスーパーの袋を持って、いつもよりだいぶ遠回りで家を目指していた。
おかしいな今日のお兄ちゃん占いでは大当たりって言われていたのに……。
私の予想では新作ゲームで良いアイテムが出る! とかだと思っていたのに、まさかの水道管破裂だよ。
私がブツブツと軽く文句を言いながら歩いていると曲がり角から人が飛び出して来た。
「うわーー! 」
ぶつかった拍子に乙女にあるまじき声を上げて後ろに倒れそうになった私を、ぶつかって来た人が抱きとめてくれた。
「ダイジョウブ、デアリンスカ? 」
ありんすか?
なんかおかしい日本語が聞こえると思って顔を上げるとそこにはキラキラした人がいた。
おお、びゅーてぃふぉ〜〜。
私の英語もおかしくなるくらいのキラキラした外人さんがそこにはいた。
「ドコカ、イタイトコ、アリデスカ? 」
私が何も答えないのを悪く捉えたのか、その人は心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
美形には慣れているけど、だからといってこんなに近いのはちょっと恥ずかしい。
「あ、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」
そう言ってその人から離れようとしたところ
『グー〜〜〜』
コレは……もしかしてお腹の音?
わ、私じゃないよ。
ということは……私は目の前のキラキラさんを見上げた。
キラキラさんはちょっと顔を赤くしながら困った顔で
「チョット、ハラペコリン、ダッタヨ」
ふむ、お兄ちゃんの大当たり予想はもしかしなくてもこの人ですかな。
私は目の前のキラキラさんに聞いてみた。
「もし良かったらご飯食べますか? 」
まあ、もう目と鼻の先が我が家ですし、それに何よりこの人どこかで会ったことがあるような……っていうか誰かに似ているような気がするんだけど、気のせいかな?
「オオーー! トッテモ、オイシクミエルヨ! メシアガッテ、イイデアリマスカ? 」
なかなか面白い日本語……いや、全く話せなかったら困るから良いんだけど。
「はい、どうぞ。お口に合うかわかりませんが」
というのも、今すぐ出せるものが残り物ばかりだから。
昨日作ったひじきの煮物とか牛スジの煮込み、里芋の煮っころがしなど果たしてこのキラキラさんが食べられるものなのか……心配しながらも出してみちゃいました。
パクパク……ひとまず心配は杞憂だったようだ。
キラキラさんは勢いよく食べ進んでいる。
時折、「コウイウノガ、メシアガリタカッタンダヨ〜〜! 」と叫んでいるし。
私はキラキラさんの食いっぷりを見学しながらお茶を飲んで食べ終わるのを待っていた。
「フウ〜〜、オナカマンパイデス。トッテモ、オイシイ」
「それは良かったです」
キラキラさんはニコニコしながら食後のお茶を飲んでいる。
この人食べる勢いは凄かったけど、なんていうかとても上品な食べ方だった。
今も日本茶出しているけどどこかのお貴族様か? というような姿だ。
もしかしなくても、エライ人……ですか?
「ワタシハ、アル、イイマス。カワイイヒト、ナマエキク、アリデスカ? 」
キラキラさんはアルさんと言うらしい。
ところでカワイイヒトって……もしかしたら私でしょうか?
あ〜〜、盛大なお世辞をありがとうございます。
「私は橘瑞樹です。えーっと、瑞樹が名前ですよ」
「オオーー、ミーズキデスネ。カワイイナマエ」
何が楽しいのかニコニコしながら私に惜しみない笑顔を向けてくる。
おう、眩しいっす。
私がどう返して良いのか困っているとちょうど良いタイミングでチャイムがなった。
たぶん知り合いの誰かだろうからちょっと助けてもらおう。
私はアルさんにお客さんが来たみたい、と伝えて玄関に向かった。
「はーい、どなたですか? 」
私が玄関のドアを開けると呆れた顔をしたアレクが立っていた。
「瑞樹……いくらなんでも警戒心が足りないんじゃない?」
なんでカメラ確認していないのばれた?
私は、あはは〜〜と誤魔化しながらアレクを家の中に引き入れた。
さて、ちょうど英語が出来る人が来てくれたのはラッキーだね。
……あれ? でも、アレクとアルさんて似てる?
私は今になって気づいた事実にちょっと戸惑っている間に、勝手知ったる何とやらでアレクが居間に入っていった。
私も続いて入って行くと
「「アーーーー!!」」
二人の叫び声が響き渡った。
私がびっくりして二人を見ると、二人ともお互いを指差している。
ダメだよ、人に指差しちゃ。
「それで、まさかのアレクとアルさんは従兄弟さんなのね? 」
どうやら本当に二人には血の繋がりがあるらしい。
……さすが私、安定の拾いモノの成果だ。
「そうだよ。……っていうか、瑞樹の能力はいつも通り最強だね」
「ミーズキ、スゴイネ」
アレクは呆れたように、アルさんは尊敬の眼差しで私を見てきた。
「ところでアレクはアルさんが日本にいること知らなかったの? 」
「いや、知ってたよ。でも、普通に考えてここにいるわけないんだ」
まあ、そりゃ普通従兄弟が知り合いの家にいるわけないよね。
私がうんうんと頷いていると、そうじゃないとアレクが首を振った。
「別に瑞樹のことだから俺の家族がこの家にいても驚かないよ。ただアルは……違うんだ。この人がここにいるって奇跡なんだよ」
アレクの言葉にアルさんも困ったように首を傾げている。
一体どういうことかしら?
「アルはね、いや、アルフレッド様はね、俺の国の王位継承者第一位の方なんだ。まあ、あれだ。王族、王子様だね。さすが瑞樹、あり得ないよ……」
ほ! ほほ〜〜!
お兄ちゃん……ワタシ、こんな大当たりは望んでないよ。
てか、なんでアルさん……いや、アルフレッド様か。
こんなところを走っていたんだ?
「あの〜〜、どうしてその王子様がこんなところをウロウロしていたのかしら? 」
私の言葉にアルフレッド様は困ったような顔をしていたが、アレクが「瑞樹なら大丈夫だ。瑞樹は俺も認めているから。きっと今回のことも瑞樹に会えたことで好転する」と語りかけていた。
「ソウダネ。ミーズキハヨイヒトダ。アレク、ミーズキニオシエテクレテ」
「ああ、わかった。それにしてもその変な日本語相変わらずだな」
そして私は何故アルフレッド様がこの辺にいたのか理由を聞いた。
……うん、なんかすごい話になってきた。
話はある意味よく聞く話で、いわゆる御家争い。
継承権第一位のアルフレッド様を王位につけたくない一派が、この日本でアルフレッド様を亡き者にしようとしていたと。
だけどそれを事前に察知していたアルフレッド様がアレクの協力のもとそれを阻止しようとしていたんだけど、裏切り者が出たり、不測の事態とかで逃走することに。
……何コレ、ドラマなの? 映画なの?
そしてその逃走中に私にぶつかり今に至ると。
アレクは私から鴉さんかお兄ちゃんに連絡をとってほしかったらしく私の家に来たみたい。
「でも、よく私と会った後追っ手が来ませんでしたね? 」
本当、よく無事だったよ私。
よくわからないうちにスゴイことに巻き込まれている。
「ミーズキニアッタアト、キュウニケハイガキエタヨ」
アルフレッド様の言葉を聞いてアレクがその疑問に答えてくれた。
「瑞樹の側はある意味日本でも指折りの安全地帯だよ。瑞樹の近くには何故か怪しい奴は近づけないからね。まあ、見守ってる奴も中にはいるかもしれないけど」
なんか気になるセリフもあるけど怖くて深く聞けないわ。
平凡、平和が一番だからね。
知らないことが良いこともある。
その後アレクは、きっともう大丈夫だと思うと言ってアルフレッド様を連れて帰っていった。
まあ、帰るときにアルフレッド様が私に御礼と称して頬にキスしたり、それを見たアレクが王子様であるアルフレッド様の頭をど突いたりしていたけど。
アレクからはメールで、全部上手くいったから安心して、瑞樹のおかげだよ、ときたけど何が何やらである。
とにかく二人が無事なら良いけどね。
…………ということが昨日の出来事である。
コレって結構スゴイ拾いモノじゃないかな?
まあ、この話はなんかみんなに言うと怒られそうだから黙っているけどね。
私がそんなことを思っていたらテレビの画面が切り替わり、何やら女子アナが興奮しながら喋っている。
『……ということで、今回来日していましたアルフレッド王子が空港に到着いたしました! わぁ〜〜、本当にこれぞ王子様というカッコ良さですね。……え? あ、はい! なんと王子がこちらに近づいて来ます! 』
テレビの画面には昨日会ったアルフレッド様が満面の笑みで手を振っている。
もの凄くフレンドリーな王子様だね。
『チョット、ハナシテヨイデスカ? 』
アルフレッド様が女子アナにそう話しかけると、女子アナは物凄い勢いで首を縦に振っていた。
そしてマイクをアルフレッド様に向けると
『アリガトウ。 ミーズキノゴハントッテモイイヨ。マタ、キタラ、ヨロシクネ! 』
アルフレッド様の言葉に女子アナが「わぁ、どちらのゴハン屋さんですか? 」と問いかけていたがアルフレッド様はそれだけ言うと笑顔で去っていった。
おいおい、テレビで伝言するなよ。
もう、しょうがないな〜〜、なんて思っていたら三人が一気にこちらを見てきた。
「瑞樹、やったでしょう?」
「ミーズキって瑞樹さんですよね? 」
「おい、だから言っただろう? こいつはそういう奴だ」
あれ? なんかバレてる。
たったあれだけの言葉でバレるなんて不思議だと思っていたらみんなから、いや逆に何でバレないと思った? と疑問で返された。
おかしいね〜〜。
ちなみに拾いモノ仲間のみんなからもメールだったり、電話だったり、直接そのことについて言われた。
いやいや、アレだけで私だと決めつけるってどうよ。
みんな想像力が豊かなんだな〜〜と思う私でした。