インパクト
「はぁ〜〜〜〜」
人の家に来て大きなため息をついている。
「もう、リナ何でそんな大きなため息ついているの? 」
しょうがないから理由を聞いてみる。
というか、さっきからずっとこの状態だからついに質問してみたのだ。
人の家でそんなしみったれた顔をずっとするのは如何なものかと思いますよ。
まあ、でもまた兄の占いが当たったようだ。
兄に再会してから、兄は欠かさず毎日私へ占い結果を伝えてくれる。
電話だったり、メールだったり…………何故か伝書鳩ということもあったけど、アレは何だったんだろうね。
とりあえず何が言いたいかと言うと、兄からの今日の運勢はズバリ『女難の相』と伝えられていた。
このいかにも話を聞いてくれるまで帰らない感じがそうなんだろうか?
「……瑞樹、私の悩み解決してくれるの? 」
「いや、聞くだけだよ」
私の返答にテーブルに突っ伏すリナ。
お約束だね。
「とにかく聞いてみないと何とも言えないよ。話だけは聞くから、とりあえず言ってよ」
「はぁ〜〜〜〜。そうだよね〜、言わなきゃわかんないよね〜」
やっと話す気になったらしい。
家に来てから一時間も経っているんだけど。
「あのね、簡単に言うと衣装の準備が間に合わないの」
「そっか、じゃあ私には何も出来ないね」
「いやいや、そこはもう少し突っ込んで聞いてよ! 何で? とか何かあったの? とかあるでしょう! 」
リナが興奮気味に言ってきた。
でもね〜〜、正直ファッションセンスのカケラもない私がモデルのリナに助言なんて……ちゃんちゃら可笑しい話しだよ。
「うーん、じゃあ、何で衣装の準備が間に合わないの? 」
とりあえず無難な質問をしてみた。
「……なんかイヤイヤ聞かれているような気もするけど。まあ、イイか。えっとね、頼んでいたデザイナーが急に出来ないって言い始めて、契約違反だって言ったんだけど違約金は払うとか言ってさ、完全に仕事放棄したの」
「それって、かなりマズイんじゃない? 場合によってはそのデザイナー干されるでしょ。いや、むしろ干されるの決定だよね」
「……まあね。普通ならそうなんだけどさ」
うん?
もしかして干されないの?
こんなことする人なんて怖くて使えないでしょ。
「それが……違う人がもう雇ったんだよ。いや、もう雇ったっていうかその人が無理やり契約を結んだというか……とにかく取られちゃった」
「取られちゃったって……どうするの? 」
私の言葉にリナが、また大きなため息をついた。
「でも、何でわざわざリナが契約していた人を横から奪うようなことしたんだろうね? それだけ有名なデザイナーだったの? 」
本当、わざわざ違約金まで払ってって……リナに何か恨みでも?
「あーー、えっとね……たぶん逆恨み……かな? この間会った時に付き合えって言われたんだけど、断ったんだよね。どうやらそれが気に障ったみたい。たぶん自分に自信があるタイプの人だったし、プライドを傷つけられたとでも思ったんじゃない? 」
「それは面倒くさい人に絡まれたね」
ホント嫌になっちゃう、なんてリナはつぶやいている。
しかし、世の中いろんな人がいるもんだ。
そんなことで嫌がらせをするなんてさ。
…………あ、そういえば私にも一人だけデザイナーの知り合いがいたよ。
リナにその人を紹介しようかな。
「ねえ、リナ。私の知り合いに一人だけデザイナーの知り合いがいるんだけど紹介しようか? 」
私の言葉にリナが勢いよく私を見た。
その目はキラキラと輝いている。
……うっ、そ、そんな目で見られると、紹介しようとしている人を本当に紹介して良いのか迷う。
あの人ちょっと特殊だから。
「瑞樹の知り合い!? 本当に紹介してくれるの? 」
おう、テンションがめっちゃ上がってますね?
果たしてそのテンションのままいれるかな。
「うん。ただ忙しい人だから引き受けてくれるかわかんないけど。話しだけはしてみるよ」
私がデザイナーを紹介すると言ったことで、ようやく安心したのか今日のところは帰ってくれた。
私は今からそのデザイナーに電話する。
トュルルル
『もしもし、瑞樹? 』
忙しいはずなのにワンコールで出てくれた。
『もしもし、忙しいところにごめんねフーちゃん』
『何言ってるの。何かあったら、いえ何もなくても瑞樹なら何時でも歓迎よ。今回は……何かあったみたいね? 』
さすがフーちゃん、私の声で何かあったってわかるなんて。
『フーちゃんには敵わないな〜。あのね実は頼みたいことがあって…………』
フーちゃんは私の話しを最後まで聞いてくれた。
忙しいのに本当にごめんね。
『なるほどね、わかったわ。ホント、デザイナーの風上に置けない奴も腹が立つし、そのアホを金で雇うオトコも気に入らないわね。……良いわ、私が引き受ける。やるからには最高のものを用意するから、今からでも依頼人に会わせてちょうだい』
フーちゃんから良い返事がもらえた私は、早速リナに連絡を入れた。
リナも凄く喜んでくれて、すぐに会うことで話しがついた。
待ち合わせ場所はもちろん私の家。
二人とも目立つから外では会えないよ。
最初に到着したのはリナだった。
「瑞樹〜、本当にありがとね」
リナは家に来るなり私に抱きついてきた。
ちょ、く、苦しいであります!
私がジタバタ暴れると、少し力を弱めてくれた。
「リナ……なんでそんなに力強いの? 本気でヤバかったよ」
リナは私の言葉に可愛らしく舌を出してゴメンねって言っている。
……可愛いから許す。
そんなやり取りをしているうちにチャイムが聞こえた。
どうやらフーちゃんが来てくれたようだ。
リナにはここで待っててと言って玄関へ迎えに行く。
ガチャ
「ヤッホー!瑞樹久しぶり〜〜」
「フーちゃん、いらっしゃい。忙しいのにありがとね」
「いいの、いいの。偶には瑞樹に会ってリフレッシュしなきゃ。さあ、早速依頼人に会わせてちょうだい」
私はフーちゃんを連れてリナが待っている居間へと向かった。
「リナ、お待ちかねのデザイナー様だよ〜〜」
私の声に反応したリナが笑顔でこちらを振り向き、そして私の後に入ってきたフーちゃんを見て見事に固まった。
……ピクリとも動かないんだけど。
そんなリナにフーちゃんが笑いながら自己紹介した。
「初めまして。瑞樹の友達のフーちゃんことフランソワ金剛寺よ。ヨロシクね」
フーちゃんが軽くウインクしながらリナに話しかけた。
対するリナは、口を大きく開けたり閉じたり……鯉ですか?
あ、ちなみにフーちゃんはなかなか個性的なお姿をしている。
特に目をひくのはその髪型、ピンクのアフロだ。
絶対あの中にイロイロ入っていると思うんだよね、今度探らせてもらおう。
「な、な、な、な、な」
リナがようやく喋ったと思ったら『な』しか言わない。
だけどフーちゃんはリナが落ち着くまで待ってくれるようで優しくその場で微笑んでいる。
「ど、ど、ど、ど、ど」
おやおや今度は『ど』ですか。
このままだと話が続かないから強制再起動しかないね。
私はリナに近づくと思いっきりチョップした。
「っいったー! って、私は何を……」
「リナ、フーちゃんに挨拶してよ」
私の言葉に改めてリナはフーちゃんを見つめ、大きく息を吐いた。
「失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。初めまして、モデルのリナです。あの、本当に私の依頼を受けて下さるんですか? 」
リナは恐る恐るといった感じでフーちゃんに問いかけた。
フーちゃんはそんなリナに明るい声で
「もっちろん。あなたを裏切ったデザイナーもどきとそれを雇ったっていうアホ男がムカつくし、何より瑞樹の知り合いだもの。瑞樹の知り合いにそんなことしておいて無事に済むだなんて、ちゃんちゃらオカシイわ。まあ、もしもそれが瑞樹の拾いモノ仲間に知れ渡ったら私が何もしなくても破滅すると思うけどね。でも、その前に私がちょっとお仕置きしてあげる」
「良かったね、リナ。これでバッチリ解決だね」
私の言葉にリナが複雑そうな顔をしている。
「う、うん。ソウダネ。……これってたぶん子供の喧嘩に親が乗り込んでくるような……。サスガだよ、瑞樹。なんでここに世界で引っ張りだこのフランソワ様を呼べるのかな……。私、ダイジョウブかな……」
リナが珍しく遠くを見つめて燃え尽きている。
えーー、今からが勝負なのに。
「そうそう、瑞樹。私頑張るから蓮ちゃんと飲めるようにセッティングしてね」
フーちゃんがまたウインクしながらそう言ってきた。
フーちゃんは蓮さんがお気に入りなのである。
いつもなら一応蓮さんにお伺いを立てるが、この間朝早くから呼び出し受けたからその分を回収させてもらおう。
私は即オーケーを出した。
まあ、そこからは怒涛の勢いで進んだ。
基本フーちゃんは仕事が異常にはやい。
私にはわからない世界なので、かいつまんで聞いた話だがイロイロあったらしい。
まずフーちゃんがデザインし、リナがモデルとして着てみせたその衣装はかなりの話題になった。
リナを裏切ったデザイナーもどきはリナとアイディアを出し合ったモノを恥じらいもなく出してきたようだ。
だけどそれを予想していたフーちゃんはリナからそのアイディアを聞き、デザイナーもどきが作ったものとは格が違いすぎるモノを作り出したのだ。
そしてデザイナーもどきとリナに絡んできたアホは、リナにしたことがイロイロとバレていろんな人たちから総スカン。
裏では鴉さんが何やらやっていたみたいだけど……。
とにかくリナのお仕事は大成功。
フーちゃんもリナと仕事をして新しいアイディアが出てきたと喜んでいた。
…………まあ、一人だけ喜んでいない人がいるけど。
「瑞樹! なんで金剛寺が来ること言わなかったんだ! っく、心の準備がないときにこいつに会うのはキツイのに。……っておいコラ、何勝手に俺の服脱がせようとしてんだ?! 」
目の前では蓮さんが吠えている。
フーちゃんはそんな蓮さんを愛でている。
「もう、蓮ちゃんったらそんなに興奮して。いいわ、私がリラックスさせてア、ゲ、ル」
最後に完全にハートが付いているような感じでフーちゃんは蓮さんにくっついている。
まあ、フーちゃんはじゃれているだけ……のハズだけど、蓮さんは必死でそれから逃げようとしているんだよね。
フーちゃんへのご褒美として今日は行きつけのお店で飲み会なのである。
「だあぁぁ〜〜! 俺は『オトコ』に慰められたくない! 」
「もう、やあね〜〜。私は体は『オトコ』でもココロは『乙女』だって何回言えばわかるのかしら。ふふ、もっと接すればわかってもらえるわよね? 今日はお持ち帰りしちゃおうかしらん」
フーちゃんはノリノリだ。
フーちゃんは見た目はピンクのアフロでマッチョだがココロは乙女なのである。
なかなかのインパクトだが、慣れれば可愛いもの……だと思う。
「!! 瑞樹ーー! 俺の貞操の危機だぞ! 」
ダイジョウブだよ、きっと。
フーちゃんは蓮さんで遊んでいるだけ……のはず。
この日蓮さんが叫び過ぎて声をからしていたが、無事大事なモノは守れたらしい。




