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25:「式神」  作者: 郡山リオ
2/4

代償

それからだった。僕が彼女を召喚できるようになったのは。


彼女は現れるとすぐに僕を確認した。すっと僕に視線を投げ掛け、目が合うと微笑み、僕の頭に手を置き撫でてきた。そして、僕の震える手を、優しく包むように握った。そして、僕に言葉をこぼす。


「……良かった、ご無事で」

手を握ってくれるこの人は、僕のことを覚えている。

夢にまで現れる記憶があふれそうになる僕は、ただただ黙って、歯を食いしばり我慢していた。

あのときに重なる光景を前に、僕は震える。

「大丈夫ですよ、ここからは私がなんとかしますので」

僕は、涙を流しながら、大きく頷いているのだった。

急な発光、そして僕は彼女の背中で目が覚めるのだった。


「……良かった、ご無事で」


「あぁ、良かった、ご無事で」


「本当に良かった、ご無事で」

急な発光、そしてその度、僕は気を失うのだった。

「目が覚めましたか?」気が付くと、部屋のベットに横たわる僕に、彼女は、微笑んでいた。すぐ起き上がり僕は訪ねる。

「……やっつけた?」

「えぇ、また人が救われました」

そう笑顔を作った彼女は、少し目を伏せた。

「……ですから、もうそのくらいで、十分です」

「え?」僕は、彼女の顔をまじまじと見ていた。

「もう、あなたは十分頑張りました。これからは私とは関わらないで、人としての営みを大事にしてください。」

「それは、もう呼ぶなってこと?」突然の言葉に僕は混乱した。「どうして、そんなことをいうの?」

「いいえ、呼ぶなということではありません。私は、ただ……」

少し言葉を詰まらせ、一度呼吸を整えた後に、僕をしっかりと見つめた。

「私は、人ならざるものです。このように、人としての形はとどめておりますが、もともとはこの世に留まらざるべき存在。私がこの世に留まり続けるためには、代償が必要になります。」

「代償?」

「はい、代償です。」

彼女は、一切微笑みのない真剣な顔で僕を見ていた。

「代償……それは、私を使役する者のお命を頂くことです。この世に姿形をとどめる代わりに、今この瞬間にも、私はお命……寿命を頂いているのです。」

「寿命って、……どのくらい?」

「私がこの世に留まったのと同じだけの時間です。」

「それだけ、僕は長生きできなくなるってこと?」

「そうです。」そう言って、彼女は寂しそうに笑った。「私は決して、あなたを幸せにするための存在ではなく、幸せどころか不幸にしてしまう存在なのかもしれません」

そう言って、彼女はすっと僕から離れると、窓際に近づき窓を開けた。

「まって」届かないながらも、手を伸ばし僕は叫んでいた。「まだ行かないで!」

「私を引き止めないでください。あなたは進むべき道を見失っています。」

開けた窓から吹いた風が、彼女の髪をなびかせた。表情は見えない。

「どうして、そんなことをいうの?」

涙がこぼれた。その僕の言葉に返事が返ってくることは無かった。

彼女は星空に浮かぶ月を見上げたまま、何度か言葉を出そうとして、ため息を付き諦めたのか、こちらを振り向いて困ったように笑った。

「どうしてもっと器用に生きられないのでしょうか? あなたも、あなたのおじいさんも、……そして私も」

その言葉の終わりと同時に、浴衣姿の女性は、優しく吹き込んだ夏の風へと溶けるように淡く輝いて消えた。

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