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水滸伝獣魔戦記  作者: 神 小龍
外伝
28/42

天翔龍の独白

 天上の星の化身、地下の魔獣の転生。ファイエル党に集う百八の戦士。

 様々な理由で山寨さんさいってきた彼等は、武勇の豪傑、知蔵の軍師、万能の魔法使い(マジックユーザー)、有徳の大人たいじん……皆一芸一能の士で、一癖も二癖もあるおとこ達である。

 その中でも更に異色と言っていい、異能の戦士が一人いる。

 漢の名はタッキー=アーサー=トレッド。一名を“喪門将そうもんしょう”と言う。


 正直に言って、私は、彼を好漢こうかんと呼ぶのには些か抵抗を憶える。

 何故ならその行動が衝動的に過ぎて、およそ理性と言うものが感じられないからだ。

 腹が減れば喰らい、気に入らなければ暴れ、むかっ腹を立てては殺し、女と見れば襲う。

 この山寨の婦女子は、ヴァルトローテやリンネと言ったファイエル党きっての女将じょしょうや、マリアやシロンのような男顔負けの武勇の士を除けば、ほとんどがか弱い者達である。野獣と化した、と言うより野獣そのものの彼に抗える筈がない。だからハルやチャバは時折、綺麗所きれいどころを彼にあてがって「欲望」を処理してやり、他の婦女子に被害が及ばないようにしているとも聞く。

 そんな彼だが、ただ一人、絶対服従している人物がいる。

 それは我が義妹いもうと、ヨシオリ=タイラーである。


「タッキー!」

 ヨシオリが彼を制止する声が飛ぶ。

「……がる」

 彼は渋々、本当に渋々と言った様子ではあるが、ヨシオリには決して逆らわない。

 そもそも、彼をこのファイエル党に引き入れたのはヨシオリだった。

 ケイを訪ねて、東に向かうジョイとチャールの護衛役を買って出た彼女は、道中で突如襲って来たタッキーと激しく闘い、遂にこれをくだした。ところが、それよりタッキーはヨシオリに始終くっついて廻るようになる。彼女の言う事だけは聞き入れ、彼女と共に闘い抜き、とうとうこの地まで付いて来たのである。

 今では自他共に、彼女の一の子分と認められている。


 しかし、彼は決してその他の者には屈服しない。

 山寨には、彼より武芸に優れた者は五虎将ごこしょう八驃騎はちひょうきを筆頭に十指じっしに余る。ヨシオリの目の届かないところでリンネやリムに襲い掛かって返り討ちにされたとか、ジャックスやアントニオに喧嘩けんかを売って逆にこてんぱんにされた(彼等は「いい武術鍛錬になった」と笑っていたが)、等と言う話は幾度となく耳にする。かく言う私も、彼を打ち負かしたのは一度や二度ではない。

 しかし、その後彼等の言う事を聞くようになった、と言う話は聞いた事がない。逆に今でも挑戦を繰り返している、らしい。ヨシオリ以外の相手には。

 彼にとっては、ヨシオリだけが特別、言わば親分なのだ。


 思うに彼は、「自分を初めて負かした」と言う、ただそれだけの、恐ろしく単純な思考で彼女に従い、尽くしているのであろう。

 それは野生の習性であって、「忠義」などと呼べる代物しろものでは到底ない。

 だが、それで良いと思う。

 恐らく彼は、人間としての理性を母の胎内たいないに忘れて生まれてきた。しかし同時に、或いはそれ故に、人間であるが故の醜く、複雑な部分も持たずに、この世に生を受ける事が出来たのであろう。

 その単純さ、言い換えれば純粋さを皆――私も含めて、そして誰よりもヨシオリは放っておけないのである。


「タッキー!」

 またヨシオリが彼を叱る声がする。

「……がる」

 彼は悄気しょげている。いつまで経っても懲りない奴である。

 その懲りない性分しょうぶんも、呆れる程の純粋さの裏返しなのだろう。

 厄介やっかいだが、捨て置けない。「好漢」とは呼びにくいが、「い奴」ではある。

 そう思わせるのが、彼の不思議なところなのだ。

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