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暴走する少女

 そして翌日。


 俺は今日も自分の店を繁盛させる為に、必死に働いている訳だが――


「信也さ~ん、この子の餌ってどこにあるんですか?」


「あ~ここの引き出しの中だ、それと牧草もちゃんと上げてくれよ」


 ネイアがセッセとウサギの世話を手伝ってくれている。

 既に俺の事を名前で呼んでいるのは置いておいて、流石に生き物を世話した事のある奴は違うな、見た事無い生物でも、1回聞いたら直ぐに覚えてくれる。


 ネイアは、自分の研究の為に手伝わせてくれと申し出てきた。

 勿論、バイト代何て出せないからその事を伝えると、別に要らないと言う。住む所があれば、食べ物は何とでもなると言っていた。


 それは有難いんだが、結局居候が決定してしまったと言うか、朝出る時に大家に見つかったのが運の尽き。

 出会い頭に、あのトカゲのモンスターを出して脅すんだもん。絶対、まともな育ちしてないよこいつは……。


 結局、次の住処が見つかるまで特例として居ても良い事になった。大家は半泣きだったがな。

 トカゲのモンスターは、トリックだって誤魔化したが、果たして誤魔化せたかも微妙だわ。厄介事ばかり起こしやがって。


「信也さん!!」


「うぉ! あっ、すまん。ボ~としてた……」


「全く、しっかりして下さい。ウサギは終わったので、ハムスターの世話をして良いですか?」


「あ、あぁ。良いぞ、ただし餌はやり過ぎるなよ」


 俺はネイアにそう言うと、彼女は了解しハムスターの方に向かっていく。


 しかし、服も何着か持ってきていたなんてな。今ネイアは、チノパンにTシャツを着てエプロンを付けている。

 昨日のあの格好のままだったらどうしようかと思ったが、この格好なら問題は無いな。


 そんな事を言ってると、今日初めてのお客さんが入ってくる。


「いらっしゃいませ~!」


「いらっしゃいませ!」


 俺に続き、ネイアもしっかりと声を上げて応対する。

 異世界で店を持っていたから、接客は問題ない。まぁ、あるとすれば……。


「すいません、ハムスターが欲しいんですが」


「はい、ハムスターですね~普通のハムスターですか? それともこの新種のハムスターですか?」


「あっ、すいません。ハムスターはこちらになってまして」


「あの? い、今のは?」


 急いで、ネイアを引かせたが遅かった! 見た? 見たよね?

 お客さんが目を見開いて、一瞬姿を現したハムドラの正体を探ろうとしている。


「あ~、い、今のはフィギュアでして……」


 俺は苦しい言い訳をするしかなかった。


          ―― ―― ――


「いい加減にしてくれ! 隙あらば合成したモンスターを出そうとしやがって!」


 何とかハムスターを販売した俺は、終わった後にネイアに怒鳴りつけている。


「で、でも……せっかく可愛いのですし、この店にしか居ない新種としてしまえば、売り上げは……」


「その前に、研究機関の調査が入るわボケ!!」


 新種なんて言ってしまえば、研究者がやって来て、生態系だとかを調べ様としてくる。

 そんな事になれば隠し通せない。そうなると、ネイアの事とその技術を言わざるを得ない。


 下手したら俺は精神病院行きだ。合成を見せて信じさせても、今度はその技術の奪い合いだろうな。


 よく考えろ、人間は欲深い。この合成技術は兵器になりうる。今度は国が黙ってないだろうな。


「良いか! ここは魔法やモンスターの居ない世界だ! 火を吐くハムスターが何処に居る!」


「むっ、ならば火を吐かなければ良いんですね?」


 ちょっと待て、まさか反論されるとは思わなかった。そしてまた装置を出してきて、奥で様子を見ている体調の悪いハムスターを持って来たぞ。おい待て、止めろ。


「地属性のドラゴン、メタルドラゴンと合成~!! メタルハムドラ完成! これでどうですか?!」


 お~経験値が沢山貰えそう……じゃねぇ!! またやりやがった!


「どうですかじゃねぇ!! 容姿ハムドラと変わんね~じゃねぇか! 体がメタルになっただけだ、バカ野郎!」


「む~じゃあ、ゴールデンハムスターと合成して、キングメタルハムドラ!」


「止めろ~!!」


 何かでっかいハムドラが、メタルでキラキラ輝いて……って、この野郎! 経験値が3割増しになってそうだが、俺の怒りも3割増しだぞ!


          ―― ―― ――


「す、すいません。まさかこの世界が、生き物に対してそんな厳しい法律があったとは思いませんでした」


 俺は一旦冷静になり、もしかしたらと思って、こっちの世界に存在する、『動物の愛護及び、管理に関する法律』や『外来生物法』の説明をすると、顔を真っ青にして驚き、そしてまた平謝りである。


「まぁ、知らなかったんならしょうがねぇ、今度から気を付けろ。それこそ生態系とか、弱肉強食のサイクルがとか、色々とうるさい奴等がいる」


「う~ん、やりにくいんですね……こっちの世界は」


 ネイアは、唸りながらそんな事を呟く。と言うか、可愛いくて強いモンスターを作ろうとしているのは分かるが、俺の記憶だと、モンスターの中にも可愛いのは居たはずだぞ。


「なぁ、ネイア。お前の世界にも、可愛くて強いモンスターは居るだろう? ゲーム何かでよく見るぞ?」


「ゲーム? あ~、こっちの世界の妄想物でしたっけ? 残念ですが、私の世界はそんなのでは無いです。可愛いモンスターなんて居ません」


 こっちの世界のファンタジー系は、昨日の夜に見せてみたが、鼻で笑われた。そんなに違うのかね……。


「普通に考えて下さいよ。可愛いモンスターって、その体型からして攻撃力皆無でしょ? そんなの、モンスターの弱肉強食の中で生きていけると思います?」


 正論だ。だが、それでも特殊能力や魔法とかあるだろうが、それで身を守れば――


「それに、モンスターが人間の様に特殊能力や、魔法を使う訳無いでしょ。あくまで、生き物何ですから」


 覆された。マジか……そりゃ確かに人間以外の生命体は、生きる事だけを考えている。

 それこそ可愛い容姿にしたところで、何の為になるんだって話だよな。それで天敵を魅了する? いや、人間しか魅了できんぞ。それでは絶滅してしまう。


 しかし、こっちにも弱肉強食はある。その中で、ハムスターやウサギは偶々あの容姿になったに過ぎない。それはこの世界で、今の生態系の中で進化したからだ。

 もしもこの世界にモンスターが、いや恐竜が生き残っていたとしよう。ハムスターやウサギは別の進化を選び、容姿が違っていた事だろう。

 

「だから、私はこの世界に居る愛玩動物と言う物に驚いたのです。こんな進化を遂げるなんて、非常に興味深いんです」


 そう言うと、ネイアは今さっき合成させたハムドラを眺めている。


「ずっとずっと夢でした。こんな可愛い生き物達に囲まれて過ごす事が、私の夢だったんです」


 瞳を涙で滲ませ、嬉しそうにするネイアを見ると、それ以上強くは言えなかった。しかしだからと言って、見せびらかして良いと言えるわけにもいかない。

 俺は悩んだ挙げ句、最大の譲歩をする事にした。これ以上になると、正直俺では抱えきれん。だから、ネイアが満足するまでここで研究させる事にする。


「分かった。それならば、ここで満足するまで研究して行け。だけどこの世界の人達に、その合成したやつは見せるなよ! ネットにも晒すな!」


「あっ、は、はい! ありがとうございます!」


 俺のその言葉を聞き、ネイアは今まで以上の笑顔を見せる。それは反則だな、やっぱりこいつはかなりの美少女なんだよ。

 そんな笑顔を向けられたら、耐性の無い俺はひとたまりもない。だから、引っ付くな! 離れろ離れろ! 嬉しいのは分かったから!


「あの、所で……」


「な、何だ?」


「ねっとって、何ですか?」


 そっちの世界には無いのか……おい、惑星の事を調べる技術はあるんだろ! 何故、それが無いんだ?!

 魔法ってやつか? おいおい、訳が分からなくなってきたぞ。お前が居た異世界の姿が、分からなくなった。

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