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海辺のフカフカ

作者: テン

 私は海に来ていた。別に、遊びにでも、ロマンチシズムにひたるために来たわけでもない。ただ車で走っていたら海が綺麗に見えた。もっと近くで見たかった、それだけだ。だが近づくにつれてそれは幻想だと気づかされた。海辺は夏に海水浴に来ていた人間による廃棄物や、日本語以外の文字で書かれた漂流物によって汚されていた。

 そのゴミどもを、バカップルや異国人によるものだと決めつけて、靴に砂が入るのも気にせず蹴り飛ばした。そう決めつけたのは、微笑ましい親子が残していったものと考えると苛立ちよりも哀しさが勝るからだ。ゴミを蹴り、虚しさが増していく中で、私は奇異なものを見つけた。

 それは白く、フワフワしているように見えた。大きさは大人用のマクラぐらい。綿かと思いしばらく見つめていると、微妙に内陸側にむかって移動しているように見えた。

 興味を抱いたので、流木を手に取り軽く小突く。すると目ん玉を突かれたカタツムリのように縮こまった。少なくとも私はそう感じた。

 触れても大丈夫だろうか。カエルも触れない私が微妙な勇気をもって触れることを決意した。そして私は、最後の一押しとして、エイヤッと掛け声を出すと同時にそれに触れた。

 訂正する。フワフワではないフカフカである。フワフワと言うには、適度な弾力もとい反発力を感じた。フワフワだと手でつかんでも消え行ってしまいそうな響きがあるが、この物体は私の手で掴まれている。たしかにここにある。故にフカフカなのだ。僭越ながら命名しようフカフカと。

 フカフカを抱きあげ、そっと顔に近づけてみる。フカフカから漂う磯の香が、この物体が海から来たことを物語っていた。ああ、母なる海から来たりし我が兄弟よ、そなたは柔らかい。顔を埋めたい、そんな誘惑にも駆られたが、少し理性を取り戻した私はフカフカを元の位置に置いた。

 そして私は車に向かって歩き出した。途中、振り返りフカフカを見つめる。夕日に照らされたフカフカは純白の身体を赤く染めていた。哀愁漂うその姿に、私はひたるはずではなかったロマンにひたった。

 エンジンをかける際、フカフカが少しこちら側に向かって動いたように見えたが、私は気にせず車を走らせた。


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