異世界は一人でも生きて行けるものなのか
ねらってやったわけじゃないが、どうやらそう思われたらしい
「ありがとう、助かったわ」
まただ、またやっちまった
「あなたどこの人?見かけない格好ね」
こっちに来てけっこう経つんだが未だに慣れない
「あ、待って、まだお礼もしてないのにどこ行くのよ!」
ふう~、ほっときゃいいのについつい助けちまうお人好しな性格だよな
さっきの女の子が獣に襲われていたんでスキルを使って助けたわけだ
元々が人嫌いな俺は関わりを持ちたくない、助けたからといってもそれは変わらない、要は他人が怖いのだ
対人スキルが無さすぎて良好な人間関係を作れない
それは地球じゃないこの世界に来ても変わることはなかったよ
おかげで世捨て人としてこの山中でひっそりと暮らしている
さ、寂しくなんてない、ホントだぜ?(泣き声)
「ねえ、どこに行ったのよ!
ねえ、出てきてくれない?
わたし、帰り道がわからないの!!」
おっと、回想中にデカイ声で割り込みかけてきたよ面倒だな
あー、ワケわからんと思うがスキルを紹介しとく
【ケルナグール】読んで字のごとく、雑魚ならこれでこと足りる
【ブットバスタード】ボス級だって一撃必殺
【トンズラ】逃げおおせる
【クーキ】気づかれない
他にも如何にもチートくさいのがわんさとあるが今はこれくらいでいいだろ?
さっきも割と珍しい大きな熊?(そういや【鑑定】してなかったっけ)を潰したんで家で調べようと【袋】にしまった
あの女の子が帰れば今まで通り静かになるんだがなあ
「聞いてる!!?
わたし、困ってるの!!
町まで送ってくれないかしら!!」
あんな大きな声を出したら肉食獣が寄ってくるってのに気がつかないのか、ないんだろうなあ、仕方ない、ほっとけないし、少しの辛抱だ
「うわっ!!急に現れた!?」
「気のせいだ、それより町まで案内するからついてこい」
俺は思ったことがすぐに顔に出るためフードを深く被り口許も隠している、はっきり言って不審者だ、うんいろいろ諦めてるさ
ほら、女の子もキョドってる
「さ、さっきはどうもありがとうございました
お、おかげで、た、助かりました
それでえーとエーと、ウーとですね、町まで送ってくれないかしら?」
おい、口調が崩壊してるぞ、なんだよ「ウーと」って!
「ほら着いてきな、こっちこっち」
少し間を開けて着いてくる女の子、あんまり離れると緊急時に対処できないんですけど!
あーもう!スキル使うぞ
【ヒトバライ】
半径10m圏内には圏外から入ることができない、獣避けにもなりますよ?
こうして人嫌いな俺は町まで出向くことになった
不安しかないんですけど
そもそも俺がこの世界に叩き込まれたのは数年前のこと
勤め帰りでアパート前の角を曲がったら、いきなりこの地にいた
なんの違和感もなかったよ?
あの角曲がったら異世界
なんか小説のタイトルっぽくない?
その時の服がジャージとシューズ、動きやすいからこれが定番なんだ
他には財布と携帯、家の鍵に、カバン
カバンの中には書類しか入れてなかったさ
さあ、辺りには誰もいない、俺一人だけが深い森にいる
どうしようって、どうしようかねえ
ときどき木々の間から見える空には超巨大な月が見えていた
おいい!!潮汐力が半端ないんじゃね!?とか言わないけど地球じゃないことは確定だね
道理で漫画みたいな蠢く草が生えてるわけだよな
あれ?自分で言ってて何だけど俺って順応性高くない?パニックを通り越して冷静になっちゃってんのかな?
こんな所でパニクったら遭難確実だよ、まずは人里に向かおう
食べ物も水もなくこのままで良いわけがない、パニックまでの猶予は僅かかもしれない、今のうちにできることはしておかなきゃだな
小一時間も歩いたか、小高い丘の頂上に出た
幸いまだ日は高く、辺りが一望できるそこは町を見つけるのに役立った
町じゃなかった、規模からすると村だと思うが、住人が言うには町らしい
あれ?言葉が通じてる?ご都合主義?
まあ、通じるんだからいいじゃない
どうやら相手は町の警察署長にあたる人らしい
身元保証人はこの町にいるかとか聞いてきたから正直にいないと答えた
これがダメだった
どこの馬の骨か分からない人間を町におくわけには行かないと町から追い出されたのだ
嘘をついたところで同じだっただろうけどね
せめて腹に何か入れたかったんだが、先立つものも交換できる対価も持ち合わせていないので叶うことはなかった
何度も町に入れてくれと泣きついたが無駄だった
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!
オラオラオラララララララ!!
とりつく島もない
結局は空きっ腹でサバイバル開始だぜ?
すぐに動けなくなった
目が回る、喉がひりつく、灼けるようだ
回りには川もない、町では水を地下から汲み上げているのだろう
水、せめて一口の水さえあれば
水よ出ろ
強く強く、それこそ人生で一番じゃないか、それくらい強く願った
そしたら
頭の中に声が響いた
【飲み放題】望みのものを望みのままに
ああ…幻聴か…もうダメか…なら最期にコーラが飲みたかったなあああ!?
ブゴホッゲハアァアッごほげほ
いきなり口にコーラが溢れだし気管に入ってむせた、知ってる?ツライよこれ
プッはあああああアア何なんだよ一体!
願いが叶った!?
もう一度できるかな、できるといいな
今度は用心して水が少しだけ出ますようにと念じると…口中に程よい量の真水が湧き出てきたではないですかっ!
ふうう
そして生き返った俺はひらめいた
ひょっとしたら食い物も出せるんじゃないか?
よーし!やって損することなど何もない、念じろ俺!強くだ、もっと強く念じるんだ!
【食べ放題】望みのものを望むままに
頭の中に声が響いた!
やった、思った通りだ、ご都合主義バンザイだぜ!
べちゃ
目の前にカレーパンが落ちていた
ペパキャッ
今度は器入りの焼きそば
ガタガタッ
いつもの朝定食まで出せるようになった俺は
当然喉に詰め込み過ぎてむせていた
地獄を見たぜ…
腹がふくれたんで次はサバイバルに必要な物品が出せるか試してみた
どうだろう(ドキドキ)
出たあ!!出せるじゃないの!やったね!
もうここまで来たら自分のこの能力が携帯小説でよく見るスキルだと理解した俺は図々しくなり、もっともっと都合の良いスキルを開発することにした
攻撃力に防御力、身体能力や精神力に知力に幸運、ついには人間力にまで手を出した
結論
人間力獲得は無理だった、
コミュ障改善は自力解決しか道はないらしい、ひたすら残念ですたい
獲得した主なスキルを紹介しとく
名前は気分で決めた、今は後悔してる
攻撃力
【ケルナグール】近接微弱~強
【ブットバスタード】近接必殺
【スーパーブラスター】遠距離広範囲殲滅必殺遠隔非連続反則卑怯技
防御力
【クロガネ】身体のみ強化
【バリア】自分の周囲に不可視な絶対防壁を作る
隠密
【クーキ】空気は空気
【ヒトバライ】人避け獣避け
治癒
【ナオール】状態異常全回復・予約可
【モトドーリ】心身欠損全回復・予約可
回復
【フッカツ】体力魔力等全回復・予約可
【ヨミガエリ】蘇生・予約可
魔法
【ムセイゲン】無制限青天井
称号
【コミュショー】仲間ができにくい
コミュなんだこれ?こんなもんイラン!!
え…削除できないんですけど?もしもし?
そんなこんなで開発したスキルを頼りに異世界生活を余儀なくされた俺は町から離れた山中で暮らし始めた
なぜ完全な秘境に行かなかったかと言うと、俺も人の子、人の声が聞こえる町から離れられなかったのさ
はい、ツンデレと言われても仕方ありません
あんな仕打ちをされたけど、森で獣に襲われている町の住人をちょくちょく助けている
だって目の前で死なれでもしたら夢見が悪いじゃん?
そうこれは自己満足なのだ
自己満足のためにやってるんだからこれでいいのだ
いいったらいいのだ
さあもうすぐ町に着く
そしたらこの女の子ともサヨナラだ
気まずい雰囲気からも解放されるぜイエイ
でもなんとなく
いや
寂しくなんかない
ないったらない
とうとう町に着いた
門番のおっさんに事情を話して山に帰ることにする
女の子は安心したのか話しかけてきた
「わたしエミリって言うの、改めてお礼を言うわ、助けてくれてありがとう」
「それはもう聞いたが?」
あちゃー、なぜそこで不機嫌そうな声を出すかな、俺よ…
「名前を教えてくれる?」
「…」
喉が動かない、さすがポンコツな俺だ
「どうして黙ってるの?
名前よ、貴方の名前が知りたいの」
「ゴホン、あー、嬢ちゃん嬢ちゃん、そいつな、悪い奴じゃないんだが少々と言うかかなりの口下手でな、代わりにワシがコイツの名前を教えとくよ、アマリだ、アマリってのがコイツの名だ」
ナイスだぜ、おっさん、無駄に長生きしてないね
「ん?何故かムカつくんじゃが…」
「門番さんありがとう、ふーん、アマリって言うんだ、フフ」
笑われた!?
そ、そんなに変なのか?まあ異世界だしなあ
フードの下は百面相状態の俺だったが奇跡的に再起動することができた
「…じゃあな」
「あ、待って!お礼がしたいの!待ってってば!」
「嬢ちゃん、諦めな、ああなったらもう誰の言うことも聞かんよ」
「もう何なのよ、あの男!」
「あいつは物凄い人見知りでな、俺も知り合ってからだいぶ経つが話すと言っても一言二言くらいで、未だにあいつが何処から来たのかすら知らんのさ、でもこれだけは言える、あいつはお人好しだ」
「ええ、そうね…もう何人もの人が命を救われてるもの…何の見返りも無しに…普通なら考えられないわ」
「全くだ、俺だったらデートの約束の一つや二つ取り付けてる所だぜ?それ所か何も求めようとしないなんてナニ考えてんだあいつ」
「おじさん何気に下衆ね」
「何だよ褒めるなよ」
「…あんな人、いるのね」
「…ああ、そうだな」