鍛冶師さんは延々とスライム狩り。
一日見てなかったらブックマークがいっぱい増えてる...!!
嬉しいなあ。
斧をゆっくりと、高く構える。
焦る必要は無い。
「振り下ろし」を使い放たれた斬撃はスライムの核を真っ二つにした。
まるで手ごたえが無く、勢いで転びそうだ。
もうこれで百数匹めか...?数える意味もないが。
粘土状の核を失ったスライム。
周りの粘液は形を崩し、土へと染み込んでいく。
右手に持つ斧を見る。
これは青銅で俺が造ったものだが...やはり駄目だ。一回で表面が溶けてしまっている。
なまくらの斧を「武具倉庫」でしまい、次の斧を造りだす。
一スライムにつきこの作業、いい加減飽きてきていた。
ふと辺りを見渡す...
草原には誰もいない。
ただ緑色のスライムとその残骸があるだけ。
たいていの冒険者はここはスルーだ。
ゴブリン、オーク等を狩るため森へと進んでいく。
スライムの粘液は武器を溶かす。戦うたびに武器が無くなる。
しかも、残るものは無し。討伐証明もできない...
どんな馬鹿がスライムを狩ると言うのだろうか?
俺はなんでスライムを延々と切り刻んでいるんだろう?
惨めだなあ...
こんなの、冒険者がすることじゃない。
冒険者ってのはもっと...激しい、楽しい、かっこいい!っって感じだ。
また、数人の冒険者が話しながら森へと歩いていく。
ダンもここを通るのかも?
俺はちらりと目をやると、人目につかないよう、移動を始めた。
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(誰か組んでくれる人がいれば良いんだけどなあ...)
歩きながら思う。
自分で言うのもなんだが、俺、かなり使えると思う。
戦うたび、すぐに武器のメンテナンスができる。
これは重要だ。剣は斬るごとに血脂で切れ味が落ちていく。俺さえいれば修繕に一秒もいらない。
それに、いざって時、替えの武器を出せる。
これも便利。
集団に混じればゴブリンだって怖くない...かも?
しかし...
(無理だろうなあ...)
昨日、ダンにやられた後。
傷は一つもなかったが、服は切れ目だらけで、所々血がにじんでいた。
そんな状態で気絶していたにも関わらず俺を起こした奴の態度は冷たいものだった。
何が起こったのかも聞かない、早く行けよと眼で促す。
まるで、俺と関わりたくはないといった感じだ。
そいつに限らず、周りの奴ら、みんなそうだった。
視線を送りながらも、身体を引きずりながら歩く俺に手も貸してくれない。
きっと、皆わかっているのだ。
何があったのかを。今まで何度も繰り返されてきたのだろう。
そして、自分は巻き込まれたくないと思っている。
俺だってそうだ。あんなイカレ野郎近づきたくもない。
近づきたくはないが...いつか頭をかち割ってやる。
あいつが言った、目の前に現れるな。
あれは冒険者をやめろと言うことに違いないだろうが、そんな真似は出来ない。
絶対に復讐してやる...冒険者を続けてやる。
しかし、そのためにはまず力が必要だった。
(ここらで良いか...)
立ち止まり、スライムを探す...奴らはどこにでもいた。
草の周りをはい回る緑色の物体。
数百匹は確かに殺した筈なのに一向に減らない、次々に分裂する。
またもや「振り下ろし」を使い核を切断する。
明らかにやりすぎだ。
こいつらを殺すのにスキルはいらない。
眼なんてもんは備わってないから襲われる心配は無いし。
しかし、スキルを使って殺さなければならない。
延々とスライムを殺し続ける...その時は来た。
前と同じだ。
頭に流れ込んでくるものは経験則。
低い位置から斧を振り上げる動作...「振り上げ」斧術スキルLV2だ。
数百匹殺してやっと一つ上がった...それでもまだ初めて一日だ。
驚異的な速さではある。
スキルは実戦で使う程に上がっていく。
一つ上げるのに一年何てのはざらだ。
やはり、スライムはスキル上げにはぴったりだ。
直ぐ湧いてくるしな。
次々にスライムを狩っていく。
斧を振り回していると、俺の中で燻っていた怒りが幾何か治まるようだった...
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まだ、日が昇る前。
色づいていく草原の上に俺はいつも通りいた。
冒険者たちが起きだすには相当に早く、ダンに会う危険性もないからだ。
(今日は弓術だけでやってみるか)
斧術スキルはもうLV6...中々に上がった。
まだ一週間ほどしか経っていない事を考えると凄い成長だ。
これも休まずスライムを狩り続けたお蔭だ。
しかし少し飽きが出てきていた。
スライムの動きは単調、かつ緩慢だ。
戦っていて刺激が無い。
なので色んな武器を使っていくことにする。
これなら少しは気が紛らわせるだろう。
それに、俺はスキルのおかげで全ての武器が持てるし、使えるのだ。
重点的にスキルを上げるのも大事だが、遠距離ぐらいは押さえておきたい。
足を肩幅に開き、矢を胸に当てる...気を整え矢を撃った。
使い方を知らない俺でも矢は吸い込まれるように核に刺さり、スライムは絶命した。
これは「精神統一」だ。
うん...大分気分が変わるな。
今日は三百を目標にしようか。
次の獲物に目をつけ、矢を造りだした。
そこからはまた単調な作業。
まあ、スキルが上がっていくので楽しみはあるが...
意味の無いように思えるスライム狩り...
やっていると、頭には不安ばかりが浮かんでくる。
スライムを狩って、もらえる報酬は無い。
無害だし、殺したらすべて溶けて消えてしまうから。
でこの町に来てから、ずっと赤字だ。
見つけた宿屋は朝夜ご飯付で一日銀貨二枚に銅貨五枚。
収入の無い俺からはゆっくりとではあるが金は消えていく。
このままでは一か月かそこらしか持たないんじゃないんだろうか?
まだ、冒険者らしい事もしてないと言うのに...故郷に逆戻りか?
そして、鍛冶師をする?
冗談じゃない。
かと言ってゴブリンを狩るわけにも行かない。
斧術スキルが上がって、俺にも人間離れしたことの一つぐらいは出来るようになった。
もう、ゴブリン相手にはひけは取らないだろう。
しかし、森に入って、ダンに会ったらそこでお終いだ。
もう一度、あの拷問とも言える「稽古」をされるだろう。
それは御免だった。
結局は、奴に勝てるぐらいまで俺が強くなるしかないのだ。
なれるかは...わかんないけど。
心の中に渦巻く不安。
それを忘れるために、夢中で弓を弾き続けた。