表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

横暴戦士、鍛冶師さんをぶちのめす。

なんか後半少し重くなったな...

翌日、俺は顔面蒼白になりながらギルドの前に立っていた。

何故なら...呼ばれたからだ。ダン、あの人に...



あの後意外にも彼は怒らなかった。


あなたの剣は爆発します、なんていう馬鹿げたことを言ったにも関わらずだ。

だからこそ、恐ろしい。


いかつい風貌に見合った行動、つまり逆上して殴りつけるとか、そんなことは無かった。

代わりに...


剣の事には触れず、彼は俺に笑顔を向けた。それは怒りを噛み殺すために見えたが...

そして、


「明日、ギルドまで来いよぉ、稽古つけてやっから。絶対来いよ?な?来た方が良いと思うな、俺は」


と嫌にニコニコしながら言った。





(行っても死、行かなくても死だ...)

俺は恐怖のあまり無言で頷き、深く一礼して足早にギルドを去り、ふらふらと宿に向かった。






一晩中あの言葉を悔やんだ。

彼には「武具目利き」など無いのだから、出鱈目を言ってしまえば良かったのだ。

ちょっと頑丈になったみたいですねぇとか。それで済んだ話だ。


もしもスキルの説明通りに彼が剣と一緒に爆発したとして、多少の罪悪感はあれど、俺の仕業とばれる恐れは無い。


違う街のギルドに行くことも考えたが、出来ない。

俺はゴブリンでさえ安全に倒せないのだ。ここ以下の狩場は無い。




馬鹿正直に答えるんじゃなかった...俺は気が動転していたのかもしれない。

武器が爆発するなんて、予想もつかないじゃないか。



魔石と武具を合成する、そんな話は聞いたことが無い。

あれはきっと、俺のスキルだから起こったこと。俺だけの技術。


しかし、嬉しく思う余裕は無かった。

どんな仕打ちが待っているのか、ありありと想像できたからだ。







ギルドの入り口で足踏みしていた俺を彼は目敏く見つけた。

大声で俺を呼ぶ。


行きたくはないが、覚悟を決めなければならない。

それに、本当に怒ってないのかも?そう考えておこう...



小走り気味に近づき、話し掛ける。


「昨日はすいません。稽古、お願いします!」


その言葉が一番良いように思えた。

兎に角早く終わらしてしまいたい。


「おお、やる気満々ってところだな...このギルドには訓練場があるから、そこでやるぞ。ついて来い。バーン!やるぞ、お前も来るんだ」


バーンと呼ばれたその人。

若く(多分同い年ぐらいだ)、ローブに身を包んだ男。


審判の役割だろうか...それなら安心できそうだが。


一度彼に頭を下げる。

彼が返したのは挨拶では無く、意味ありげなしかめっ面だった。嫌な予感だ。




ダンとバーンの後に黙ってついて行く。

訓練場はギルドに併設されているようだ。長い廊下を一つ二つ曲がるとついた。



硬く固められた土。壁に立てかけられた多様な武器。

ダンに指定された時間が朝早くだったということもあり、人はいない。


「良し、空いてる。丁度良いな。お前は何の武器を使うんだ。言ってみろ」


彼は丁度良いと言ったが、俺にとっては逆だ。

不運、咄嗟に助けを求めることは出来ない。


「手斧です、あと盾も」


「じゃあ、取れ。俺は長剣使うから、ほら今だよ」


急かされ、立てかけられた武具へと向かう。

手斧は刃引きされたものだったが、鉄だ。力を籠めれば容易く骨は砕ける。


横に置いてあった分厚い皮で造られた鎧を見る。

これを着れば直撃しても骨を折ることは無いだろう..いや、わかんないけど。


宿に装備品は置いてきていた。


「あの~皮鎧も着て良いですかね。慣れてないんで」


「何でもいいから早くしろ。時間が惜しい」


ダンは早くも苛ついていた。

直ぐに鎧を着こみ彼の前に立つ。


「準備は良いな、じゃ、始めるぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





お願いします...その時間すらなかった。

違う、言えなかったのだ。


気づくと同時に跳ね飛ばされていた。

首に熱い感触、次に鋭い痛みが走った。内側に抉りこんでいるような痛みだ。


悲鳴すら出ない。

完全に喉が潰れた。これは...度を越えている。



あまりの痛みにうずくまる俺に追撃は無い。

咄嗟にダンを睨み付ける。そこには笑顔が張り付いていた。


「これで声は出ない。立てよ、出来るだろ。骨は折れてないはず。そうやった」


その声に途轍もない恐怖を覚えた。

バーンを見る。彼はまるで無関係だというように何処か、一点を見つめていた。


「立てっつってんだろ!!立たないのなら眼だ!」


ダンの怒号。

ゆっくりと起き上がる。口の中に血の味が広がり始めていた。


立ち上がった瞬間剣が飛んでくる。

比喩では無い、まさに飛んできたのだ。


俺とダンとの間には数メートルの間があった。

なのに奴はもう、俺の腹に剣を叩き込んでいる。人間業じゃあない。きっとスキルだ。強化系の。


皮鎧はほとんど意味をなさなかった。

前より派手に吹っ飛ばされる。手斧も盾も吹き飛ばされる。ゴブリンの時と一緒だ。それよりひどく思えたが。


もはや、立つこともできない。

それはダンも分かっているようだった。笑みを一段と深くする。


「バーン!回復だ!身体だけ、喉はするなよ」


バーンが俺に駆け寄る。


「光よ、我は癒しを求む、淡光となれ。[治癒]...すまん」


彼は俺の腹に手を置き、そう詠唱した。

だんだんと痛みが引いていく。これは光魔法だ。


「立ち上がれ、もう一度だ」


バーンの役割がつかめてきた。

彼は決して審判等ではない。ダンは延々と俺をいたぶるつもりなんだ。


何故それ程に恨みをかられたのか。

確かに、俺は剣に奇妙な真似をした。だがこの仕打ちは異常だ。


他に何かしたか...?





俺が立ち上がると、彼は剣を大きく構えた。


そして、また例の速攻。同じように腹に入ると思われた剣だったが...


しかし、場に響いたのは皮鎧が出す鈍い音ではない。





()()()だ。

剣と青銅のぶつかり合う、低いながらもけたたましい音。


()()。俺が出した。


青銅の大盾、それがダンの攻撃を防いだのだ。


ゴブリンの時とは違い意図して造れた。造ることことができた。


「それ、今造ったのか?あのスキルと加護で。それとも武具庫か?」


ダンは驚き、問い掛ける。俺は答えない...

お構いなしに話は続いた。



「そうだ、そうだよ。お前は鍛冶師だ...なのに!」


一層強い斬撃が繰り出される。

それに一度に二度も。剣術スキル「二連撃」だ。


「武具庫」を使いしまった大盾を再度前に出す。

しかし、ダンの二度の斬撃は盾ごと俺を弾き飛ばした。



這いつくばる俺に立つ間は与えられない。

喚き散らしながら執拗に俺を剣で殴りつける。


「お前はっ、鍛冶師のくせに!」


左腕。

骨の折れる音が聞こえた。初めてのことだった。


「何で俺より良いスキルをっ!」


右目の傍。

治してもらえなければ一週間はまともに前が見えないだろう。


「持ってやがる!!!」


鼻。

薄い皮膚は鈍い剣先で引き裂かれた。




興奮して、息を切らすダン。

やっと攻撃が治まる。


もう身じろぎ一つ俺はできそうになかった。



身体中に走る痛みの中思う。

良いスキルだと...何を言っているんだ。


こいつはそれで怒っているのか?

ふざけるんじゃない!!!




声を上げようとするが、呻き声しか出すことはかなわなかった。


「武具の心得、武具庫。良いスキルだよなぁ。とっても」


ダンは声を出せない俺に話し掛ける。


「俺のクラスは「万能戦士」でなぁ。俺の持っている二つのスキルがあってなぁ」


「それは武器の心得、武器庫だ。差し詰めお前のは完全版ってとこかな」


黙るダン。場に沈黙が流れる。


ダンの身体は震えていた。

顔が見えず、笑っているのか怒っているのか、それすらも分からない。



「鍛冶師風情が俺を超えるなんてことはあっちゃあならないんだよ!」


ダンは切っ先を俺の太腿に突き刺した。

暖かい血が、衣服を濡らしていく。


「バーン!」


俺の傷が時間をかけて治されていく。

ああ、まだ終わらないのか。


「立ちあがれ、もう一度だ」


ダンは言う。


「ここにあるすべての武器を使ってお前をぶちのめしてやるよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



目が覚めた時、二人の姿は無かった。



訓練場を使用しに訪れた冒険者に起こされたのだ。

もう昼頃になると言う。



ダンは宣言通り、訓練所の多様な武器で俺をぶちのめしてくれた。

途方もない痛みで、意識を失えば指を潰されて起こされた。


そしてバーン!と叫び次にこう言うのだ。


立ち上がれ、もう一度だ、と





連続して続いた痛みのせいで今も痙攣している身体を引きづりながら歩く。


「もう、二度と俺の前に姿を見せるなよ、鍛冶師さん...」


ぼんやりとした記憶の中で、最後にダンはそういっていたように思える。




だが、それは約束できそうに無い。

このままで終われるわけが無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ