鍛冶師さんはギルドに入る。
故郷から馬車に揺られること三日。
ようやく目的地が見えてきた。
鬱蒼とした森林地帯を抜け、今は整備された街道を馬車は走っている。
街にはここからも良く見えるほどの巨大な時計台が立っていて、そこを中心に市場や店が立ち並び大変繁盛しているらしい...というのも冒険者から聞いた話だが。
王都の近くにあるこの街-ヘルトル-は、冒険者志望の者たちが集まる街だ。
街の前の平原にはほぼ無害なスライムしか居らず、森にも、深入りしなければ出会うのはひ弱なゴブリンだけ。冒険者になったばかりの初心者には良い狩場らしい。
数多くの冒険者はここから冒険を始めたのだ。そして俺の冒険もここから始まる。
馬車が街門を通り抜け停車した。
降りていく数人の客達。そして最後に俺も降りる。
「金貨一枚、銀貨二枚、銅貨五枚だよ」
愛想なく袋を差し出す商人。
俺は、腰につけていた袋を探り金を入れる。
我が家で鍛冶を手伝って得られる金は、年に金貨二枚ぐらいのもの。
もう一枚が消えた...ああ、もったいない。
格安の宿に入ったとしても、銀貨三枚程度は必ず取られるだろう。
稼がなくては故郷に後戻りだ。
街に入って最初にすることは宿をとることだろうか?
宿をとることは大事だが、まだ昼前-時計台を見ると十時半といったところ-だ。
先にギルドにっても構わないだろう。
正直に言うとギルドに行く以外の選択肢は頭の中に無かった。
早くギルドに入りたい。冒険者になりたい。
その気持ちは高まるばかりで、胸は高鳴り、頬は緩みっぱなしだ。
(良し、行こう!)
俺は歩き出した。
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初めて見る自分の街以外の冒険者ギルド。
それはたいして故郷のものと変わらないものだった。
白い壁にかかった看板(そこにはギルドの印)。木組みの掲示板。
漏れてくる酒の香りと笑い声・・・うん、変わらないな。
深呼吸ひとつして、足を一歩踏み出す。
故郷のギルドには何度も足を運んだ。
それは、依頼を申し込むためだったり、話を聞くためだったりだったがギルドの空気には慣れている。
(緊張しない、落ち着いて)
ギルドに入る手続きも依頼をするときと同じように受付だよな。
一歩踏み出したまま立ちすくんでいたが、このまま突っ立てていても仕方がない。
ゆっくりと受付のほうに向かって行く。
「すっすみません」
緊張している俺に受付嬢さんは優しく微笑んでくれた。
少し緊張がほぐれる。
「冒険者登録お願いできますか?」
俺の言葉を聞いた彼女は一瞬、何故か言葉に詰まった。
そして俺に笑顔を向け話し掛ける。
「あのね、僕。冒険者には大人にならないとなれないんだよ。僕ならそうだなぁ。あと五年ぐらいだね!」
え?・・・
冒険者は大人にならなきゃなれない?知っているとも。
冒険者に憧れて以来、どれだけ十五歳になるのを待ちわびたか!
俺は立派な大人だ...
「…なんで小さいだけです」
「え?何か言った?」
「ドワーフなんで小さいだけです...」
一瞬の沈黙。流れる気まずい空気。
彼女は何も言わなかった。代わりに俺の体を一通り見てから…
「冒険者登録ですよね!少しお待ちください!」
と言い残し、逃げるように去って行った。
小さいからって子ども扱いかよ...
しかし、彼女は悪くない。
背が低い俺が悪いのだ。
俺の身長は人族の子供ほどしかない。
見分けがつかなくても仕方がない。仕方がないのだ。
これもすべて、ドワーフの血のせいだ。
「これをどうぞ...」
いつに間にか受付嬢は戻ってきていて、落ち込む俺におずおずと金属のタグを差し出してきた。
これはギルドタグだろう。見たことがある。
受付嬢から受け取ったが...どうすればいいんだろう?
「やり方知りませんよね?こう、ギュッと念じてください。そうしたら貴方のクラスとスキルが分かりますから」
なんか適当だ…
取り敢えず俺はタグを握りしめ、念じてみることにした。
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名前:レギン・エイゲン
歳:15
種族:ドワーフ
種族適正:鍛冶の一族:武具を造る際に補正がかかる、槌を扱うのが得意。
クラス:鍛冶の申し子
スキル
鍛冶LV1
武具素材強化LV1
武具修繕LV1
武具目利きLV1
素材目利きLV1
固有スキル
武具の心得LV1
武具庫LV1
神の素材庫LV1
武具魔石強化LV1
魔石目利きLV1
加護
鍛冶神の加護
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頭に流れ込んでくる情報。その中で俺は混乱していた。
俺は、戦闘系クラスじゃない? バリバリの生産系クラス?
嘘だろ? 俺は生産系クラスの人に会ったことはない。
殆どの人たちは、戦士だったり、剣士だったり、魔導士だったりと戦闘系クラスだけだった。
生産系クラスになるのは、その方面に対して類い稀な才能を持つものだけと聞く。
俺に鍛冶の才能があるとでも?
「え~と、それは仮のギルドタグとなります。ギルドタグを手に入れるためにはゴブリンを討伐する必要があり、その後でまた受付に~」
受付嬢さんは説明を続ける。
しかし、俺の頭には半分も入ってきてはいなかった。
良いクラスにつくため、時間の合間を縫って鍛錬を積んできた。
全部無駄だったっていうのか...鍛冶師でも冒険者になれるのか?
受付嬢さんに問い掛ける。
「僕のクラス、鍛冶師だったんですけど...冒険者にはなれますよね?」
すると彼女は驚き、答えた。
「鍛冶師ですか...残念ですけど、鍛冶師なんかが冒険者になれるわけないじゃありませんか」
と...