迷宮創造士、暇つぶしを見つける。
二話目。
後一話。
...暇だ。
暇。暇暇。暇すぎる。退屈だ。
刺激が圧倒的に足りない...面白いことなぞありゃしない。
ほら...あいつも今にやられるぞ...ほら...死んだ。ありゃ回復は間に合わない。
お手製の下僕の牙がその体に食い込む瞬間を眺めても、ほんの少しの快感しか得られない。男が倒れる瞬間の他の仲間の顔...それは少し、見ものだったが。
もっと、こう...ねえ?
刺激的に、究極的に面白いことして欲しいんだよねえ。こいつらは見てても楽しくないなぁ...違うのにしよ。
マンネリだよ、ここ最近さあ冒険者共。
幾ら見ても飽きはしない。僕が創った迷宮の中で死んでいく奴らを見るのは。そう創ったんだから。
でも、只死んでいくんじゃあ駄目じゃないか...生き抜き、攻略してみろよお。僕を驚かせろ。
魔族も、人も、何か考えてるみたいだけどさあ。知ったこっちゃない。迷宮の外のことなどどうでもいい。
...今日も踏破者無しか。これで何日目だよ、おい。
...?
やっと...やっとかかったか。感じるぞ。触れている。
逃がしはしない。
こいつは強いだろうか、それとも...どちらにしろすぐに返してはやれない。
楽しくなりそうだ、久しぶりに。
それも、かなり面白いぞ、冒険者。お前は当たりを引いた。
期待大、だな...どれ、挨拶しに行こうか。
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ふぅむ、迷宮か...
(何でこんなところに?どちらにせよこれで帰れそうかな?)
迷宮。知らないものはいないだろう。特に冒険者の中には。
亜種の巣窟。外にはいない、特殊な魔物。それに、なんといっても...宝具。
戦って、富を得る。何とも冒険者らしい。
...と言っても、一回帰りたいなあ。
興味はそそられる。すっごく。しかし、何の準備も情報もない。ギルドに報告を入れて、捜索を頼もう。謝礼は弾むだろうしな。迷宮が見つかるなんてことは滅多にない。
先遣隊がある程度地形を調べてからだ。もう一度来るのならな。
...もう一度来れるか?この高さだ。何でこんなところに...
さて、迷宮には帰り道がある。
抜け道、上り階段、魔法陣。そのため、踏破する気がなくとも迷宮に入れるわけだ...聞いた話だけどね。
ここにもその類のものがあるだろう。兎に角、扉、入ってみるか...
と言っても取っ手も何もないんだけど。どうやって入ろう?
取り敢えず、押してみる...動かない。
押してみる...動かない。
(うおりゃあぁぁー!!)
動かない。
ビクともしないんだけど...
この扉が重要なものであることは間違いないんだがなあ...
...よし、仕方ない。爆破しよう。
此処でもたついているばかりなのも嫌だ、扉は開かない、運よく「自爆」はある。決まりだ。
早速、袋のうちの一つ、黒光りするそれを掴み取ると、矢と合成。同時に弓を倉庫から出した。
爆風が届かないと思われる場所まで退避。
しっかりと狙いをつけて...そう、そこ。大扉のど真ん中。
...発射。
真っ直ぐに標的へと飛んでいく矢。扉へと到達した瞬間、勢いよく爆ぜる。
耳を劈く爆発音、共に粉塵が巻き上がる。
(...やったか!?)
むむ、よく見えない...
威力が強いのはいいが標的が見えなくなるのがなー...お、何かが動いた?
うごめく粉塵。
(わっ!!魔物!)
だ、第二射用意!
ウッドゴーレム?それにしては、小さい。俺の半分くらいしかないぞ。
いや、そんなことはどうでもいい。
早く、早く...!!まだ距離が開いてるうちに打ち込め!
焦りながらも袋に手を突っ込み、即座に魔石と矢を合成。
...射る。
(あ、生きてる)
やばい。近い。防御?
盾、盾、盾。無造作に作り出した盾を前へと構える。何も考えずに...
伝わってきたものは、明らかに受け止められないほどの衝撃。そらすことも出来ずにただ押し倒される。
スキル...使ってなかった。盾術スキル。あの盾を使うことに慣れていたから...
右手に剣を創り出す。
ウッドゴーレムの木の身体に刃を立てた。僅かに切れ目を刻むことしか適わない。
振り下ろされる木の、小さな腕。
何故か、それには人の動きが見て取れる様な気がした。
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硬い何かが、頭を叩いている。
朦朧としていた意識が段々と覚醒し、頭が回りだした。
...薄らと目を開く、映ったものは、興味深そうに俺の頭を小突くゴーレム。
(魔物...!!)
戦うか、逃げるか。
どちらの選択も取れそうには無かった。意識は戻ったものの、身体が上手く動かせない。こいつが新たに何かした訳ではないだろう。まだ、衝撃が頭に残っているということだ。
...何故か、追い打ちは無い。
相変わらずゴーレムは俺を光の無い目で見つめている。
(賢い種族か、亜種なのか?)
そういった話は聞いたことがあった。
人間を奴隷として飼う魔物も居ると。それかただの非常食か、そっちの可能性が高いだろうが...死にたくない。
身体が動くようになるまで、待つ。気絶したふり。そしたら相手の隙を見て...幸い、今のこいつは隙だらけだ。
「...久々に驚いた」
...!!喋った...よな?今、こいつ。
何故、喋れる。そこまでの知能があるのか?まさか、魔族だったのか、このゴーレム。
思わず、目を見開き、ゴーレムを凝視した。
「...!!起きたな、冒険者。ようこそ、えーと、第五百六十七迷宮へ。お前が初めてのお客さんだ。お前、一人か。仲間は?ここはかなり面白いぞー...そういや、さっきの凄かったな、爆発。どうやった?詠唱もなかったから火魔法ではないんだろう?お前はなかなか楽しめそうだ。失望させてくれるなよ。さて、準備はいいよな?扉は開いてる。いつでもな。さあ、行くぞ。頑張るんだぞー」
(待て、待て、待て!!)
凄いぐいぐい来るというか、話が急すぎないか!?
首根っこを掴まれ、扉の方へと引きずられる。こいつの言う通り、扉は開いていた。
あまりの展開に、言葉が出てこない。
「ま、ま...て。ま、もの?」
頭への衝撃は思った以上に大きい様だ。舌が回らない。抵抗もできない。
ただただ引きずられる。段々と、近づいていく。
ふと、ゴーレムの歩みが止まった。
目を見上げ顔を見つめるも、表情の変化は見られない。
「ちょっと、違うな。魔物とは違う」
...?
「俺は、迷宮創造士。そして迷宮そのものでも有る。ま、俺の話はいいだろ?それより...ほら、お楽しみだ」
魔物じゃない?
このちんちくりんが、あの有名な迷宮創造士?
ゴーレムの姿で現れるとは...噂は本当だったのか。冒険者の酔っぱらいの話はあまり信用してなかったんだけど...
俺が何か言う前に、何か言えるまで回復する前に、ゴーレムは再度歩き始めた。
扉はもう、目の前だ。
ゴーレムが俺を掴む手に、より一層の力を籠めるのが分かった。
瞬間、身体が浮き上がる。
「じゃ、気ぃ張れよお」
何故か、何故だか...戻れない気がする。扉を越えると、取り返しがつかない気がする。そうは思えど、身体は動かない。
ゴーレムがこっちを見ていた。
無機質な樹の顔が、少しゆがんだような気がした。
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...ふぅー。
久々に相手をしたな。今度の奴は、中々かも知れない...スキルは雑魚だったけど。
中々ってのは楽しめるって意味だ。
しかし、この迷宮を創ったのはもう、何百年も前か...一人目が来るのが遅すぎねーか?
地の底に迷宮出現!!かっこいいけど、浪漫を求めすぎたか。
あいつ、返しとくんだったかな?この迷宮、まさか誰にも知られてない?
素晴らしい出来なのに。地の底の迷宮。素晴らしい!
なんといっても最高なのは...迷宮の入り方だ。
谷から落ちる。斬新だろう?落ちたものは気づかぬうちに迷宮入りするのだ。
安全に減速させるのにはかなり魔力がかかったけど...そういえば
(あー、やっべ)
あれ...補給いるんだっけ...?
最後に魔力を補填したのは何時だ...?
来ない筈だよ。落ちてきた奴、皆普通に死んでたのか。
あいつ、どうやってきたのさ?