鍛冶師さんは決着をつける。
長い...
飽きずに読んでください。
誰もいない、岩ばかりの峡谷。
そこに立ち、俺は今一度手に持つものを確認した。
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自壊の短剣
質:中級
素材:鋼、自爆の魔石
鋼で造られた小ぶりな剣。壊れる寸前に周りを巻き込み爆発する。
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自分で造ったんだけども。
何とも危なっかしいな...
ダンの剣も大体これと説明は一緒だろう。
俺の「武具目利き」のLV が低かったせいで断片的に、爆発するという情報だけが分かったのだ。
強力そうではある。
しかしどうやって使うかが問題だ。
先ほどの爆発を見ると、手元で爆発されたら確実にやばい、死ぬ。
あいつらの二の舞は御免だ。ましてや強化系のスキルもない俺。助けを待つ暇もなく一瞬で弾け飛んでしまうんじゃないか?
使うとしたら遠距離だ。
投擲か、弓。そして着弾と同時に壊れるように細工をしなければならない。
「鍛冶」を使う。短剣が光に包まれた。
光が消え、出てきた短剣は、前と全く違う。
素材は手元以外は青銅製。そして質も大きく下げている。
こんなものでは皮膚は裂けないし、一回で刃が駄目になるか、折れてしまうだろう。
だが、それで良い。
「振り投げ」、投擲スキルだ。
それを使い、勢いよく遠くの岩肌へと短剣を投げた。
爆発音だ。成功。
それと同時に土煙が舞い上がり、小さな石が辺りに飛び散った。
爆発でできた穴に近寄る。
短剣が刺さったであろう地点を中心に、一メートルほどの大きな穴が開いていた。
この辺りにはいっぱいある、特攻猪の自爆と同じ穴。
これが「自爆」の力か...
もう、俺のものだ。
ダンに...復讐のために、使うかどうかは別にして、大人一人を吹き飛ばせるあの爆発は魅力的だ。
数日ヘルトルに留まりダンに見つかるリスクよりは、その対価の方が大きい。
あれから、幾つか使い方は考え付いた。
そうだな...五十個ぐらいは確保しておきたいところだ。
早速、辺りを探す。
この場所には遮蔽物は少ない。大きな岩が幾つかあるだけだ。
最初の一匹はすぐに見つかった、いや鉢合わせた。
荒い息を吐き出し、後ろ脚で土を蹴る特攻猪。
知っている、あの動作。
あれの後に突進が来る。
吸収の盾を無造作に奴に向ける。
この盾なら、スキルも必要ない。
やがて、動かない俺に耐えかねたのか、奴は動きを見せた。
凄まじい勢いで突進を仕掛けてくる。
ガンっとぶつかる音。
隙はここだ。ここだけだ。
狙うのは急所。
瞬間で息の根を止められる、首か、頭。
俺なら、一発で頭を割れる。自信がある。
「兜割り」を使い、頭に斬撃を叩き込む。一瞬、ヒヤッとしたが爆発は無い。
倒れこむ特攻猪を見て、ふぅっと溜息を吐いた。
見る分には分からなかったけど...神経使うなあ、これ。
一回失敗したら、もう終わり。
バラバラだ。
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結局、昨日得られた魔石は十二個、これでも頑張った方だ。
殺すのに時間はかからない。だがやはり解体に時間を取られる。
一匹殺すごとに時間を割いて、胸のあたりを掻っ捌かなければいけないのだ。
面倒だし、辛い。
だがやった方が良い。
今日も、特攻猪を狩るつもりだ。
昨日で少しは慣れた。今日はもっと殺せる。魔石がとれる。
早朝の峡谷に立ち、特攻猪を探す。
見つけ次第盾を構える。そして斧を振りかざす。
単調な作業だ。スライムの時と同じ。
だが、油断は出来ない。殺し損なえば此方が死ぬのだ。
淡々と、正確に殺していく。
今ので...六匹目だったか。
ふと顔を上げた。
ダンがいた。
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只、恐怖を感じる。
今は、忘れていたが...あれからそう長い時間は経っていないのだ。
あの、地獄とも言える拷問。
永遠に思えた苦痛。
それらがまた俺の中で巡り、支配していた。
恐怖のあまり、言葉も出ない。
手斧を取り落す。
嫌に喉が渇き、唾液を飲み込んだ。
何故...?
何をしに来た?
まだ冒険者を続けている俺への報復か?
しかし、他の冒険者たちはこの問題に不干渉だったし、出会わないようにしてきた。
昨日までは...
「おい」
ダンが俺に声をかける。
その顔は笑顔。前も見た、偽りの笑顔だ。
「そう怖がるなって、俺は...そうだな。買い付けに来たってところだ」
買い付け?
ますます意味が分からない。
反応の無い俺に対して、笑顔のままダンは続ける。
「お前、聞いたぞ...武具のことだ。お前が造った武具には不思議な力があるらしいなあ。あの、俺の剣にも。武具目利きが使える職人に見てもらったんだよ。話を聞いてさあ、びっくりしたさ。やっぱ、お前は凄い鍛冶師だよ」
話を聞いた...?
誰に?いや分かっている。
あいつらしか居ない、ボルド達だ...!!
「そこでだよ」
は?
「寄こせ、俺に。全部だ。金はくれてやるから。そしてまた造って...それも寄こせ。ギルドには内密にな、俺と、お前。俺たちで助け合っていこうじゃないか」
その提案を聞いた瞬間、顔に熱が集まるのを感じた。
唐突に怒りが込み上げる。
こいつは何をぬかしているんだ?
金をやるから?
要らない。
俺を鍛冶師と勘違いしてるんじゃないのか?
金を貰っても売らない。そのつもりなど、微塵もない。
俺は鍛冶をしても、それでは生きていかない。
この武具は、俺の力だ。
お前は俺にスキルをくれるのか...?
絶対に渡さない。
絶対にだ。
俺の、俺だけの物なんだから。
「なあ。返事。勿論、はいだよな。鍛冶師さんよぉ。そうじゃないと...殺す」
また唾を飲み込む。
ダンがゆっくりと俺に近づいてきていた。
どう...しよう?
渡さないと殺す?有り得ない。こんなことは許されない。
「...」
「あ?聞こえねーよ。もっと大きな声で言え」
ダンがわざとらしく顔を近づけた時だった。
「嫌です、お前は死ね」
造りだした短剣で顔を裂いた。
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素早く距離をとる。
ダンが短剣の存在に気付いたのは俺が数歩離れてからだ。
狙ったのは致命傷と成り得る首筋だったが、短剣は少し肌を裂いただけで致命傷には至っていない様だ。
(化け物かよ...これも...)
スキルか?短剣に伝わってきた感触はまるで厚手の皮のようだった。何でこんなやつがここに...!!
「ぐぅっ...クソガキが!!」
繰り出される長剣による斬撃。
それを持ったままの盾で受け止めた。相変わらず衝撃は無い。
ダンの剣筋は大振りで、威力は高そうだが見極めることは難しくは無い。
軽々と攻撃を受け止める俺に、ダンは疑問を持ったようだ。
「それもスキルで造ったのかァ!!ハハ!頂きだな!しかし、こういうのはどうだ?」
瞬間ダンの剣が消える。
見覚えのある光の中から出てきたのは短剣だった。
「武器倉庫」だ。
それに気づいた瞬間、腹部に熱い感触が走った。
防ぐ間もない、それ程の速さ。
腹に抉りこんだ斬撃は易々と皮鎧を突き破り、俺を弾き飛ばす。
倒れながらも打ち根に手を伸ばした。
痛みで動きが鈍る前に治さなくては...
ダンの方も見ずに走り出す。
追いつかれはしないだろう。脚には自信があるのだ。
何よりあの巨体。スキルでもなければ素早い動きも出来ない。
(近づけはしないかそれなら)
遠距離だ。
あいつも「武器倉庫」、「武器の心得」がある以上、弓等を使える可能性もあるが、剣以外を使っているのは見たことが無い。
それに俺には「自爆」がある。
うまく使えば...
完全に傷が塞がった。
走りながら、後ろを振り返る。
ダンは、やはりそこまで足は速くない様だ。
強化系スキルでも、奴が持っているのはおそらく...「剛体」だとか「怪腕」だとかそんなとこだろう。近寄らなければどうということは無い。
弓、それに矢を造りだす。
一瞬立ち止まった。
「集中」を使い命中力を高め矢を放つ。
風切音の後に聞こえてきたのはベキっという矢が折られる音。
それと...
爆発音だ。
(ハハっ!成功...!!)
自爆の魔石。
高威力だが取り扱いは難しい。自分の周りで爆発させたらもうお終いだ。
考え付いた使い方の一つ。
敢えて脆い鏃を使い着弾と同時に壊れるように造り上げた。
これで離れた相手に爆発を食らわせることができる。
特攻猪と遜色ない爆発だ。
これではダンも...
(あっけないなあ。意外と)
その時、土煙の中で何かが動いた...いや辺りを切り裂きながら俺に迫ってきているのだ。
咄嗟に盾をその方向へと向ける。
響いたのは金属音だ。
金属音?
確かだ。甲高い音はまだ辺りに響いている。
しかし、金属音だと...?
迫ってきたものは見えない何かだった。
そして辺りを切り裂く。
あれは...「剣術スキル」か?
LV を上げれば人間業じゃないことだってできる。
斬撃を飛ばすことだって...!!
「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
突如上がる怒号。
間髪入れずに俺は盾を構えながら走り出した。
(まだ生きてるんだ...!)
あの爆発の中でどうして?
思えばあの時ダンに矢は刺さることは無かった。
鏃がダンへと到達する前に、奴は木ごとへし折ったのだ。
あのベキッという音間違いない。
しかし、それでも近距離だ。
やはり、スキルか。頑丈すぎる。
次々と飛んでくる見えない斬撃。
盾のお蔭で幾らかは防げる。
だが、確実に俺の身体には傷が刻まれてきていた。
(本気を出したって奴か、最早俺を捕える気もないな)
治せるけど、痛い。
いつ急所に当たるかも分からないし、そうしたら治しきれないかも知れない。
隙を見て矢を放つ。
自爆の矢だ。
次は剣に届くこともなく、斬撃によって数メートル先で破壊された。
何度も撃つ。
結果は変わらない。
残弾が爆発の度に減っていく。
(後、幾つだ?)
腰袋に手を突っ込み個数を把握する。
一、二、三、四...後五個。
爆発無しにあいつに対抗できるとは思えない。
魔石が無くなった時、俺は負ける。
また振り返り、矢を放つ。
どうしても奴の身体には届かない。
当たれ、当たれよ...
目の前に峡谷の淵が見えてきた。
どっかの物語のように谷底の川に逃れることなんて出来ない。
広がっているのは闇だけだ。底も見えない。
(最後の賭けだ)
立ち止まり、盾を構えながら振り返る。
ダンの姿が目に入った。
奴も、無敵とはいかないらしい、所々、皮膚が剥げている部分が目に入る。
血にまみれ、がむしゃらに剣を振りながら走ってくるその姿は恐ろしいが...
(怒ってんのかな、とんだ見当違いだ)
生かしてはおけない。
必ずここで殺してやる。
また斬撃が盾へと届く。
その瞬間盾を消した。
どうせこの攻撃が失敗したらお終いだ。もう、盾は要らないのだ。
「集中」「連投『弾き』」
一本目の短剣を空中に出現させた。
短剣の底を力一杯に弾く。
発射された短剣はまたしても斬撃で撃ち落とされた。
これも駄目か...しかし
(終わらない...!!)
出現させては弾く。
空中で、何本も。
自爆と普通の物を織り交ぜながら。
この技は成功率が低かった。
だが今は関係ない。短剣が、止まって見える。
大丈夫だ。
ダンにはまだ届かない。
構うものか。
また爆発。
残りは幾つだ...?
弾く、弾く、弾く、弾く...
届いてくれ...!!
腕が回らない、痛い。
これが最後、必ず当てる...
三本まとめて弾いた。
それができた。
だが、またしても届かないのか...
剣までは到達した。しかし、弾かれてしまった。
一際大きな爆発が起きる。
...?何が?
血しぶきが上がる。
ダンに、届いたのか?爆発は成功か?
血しぶきが晴れる。
ダンは右腕が無くなっていた。
斬撃を飛ばしていた、大振りの剣もない。
これは...
(自爆か...!!ダンの、剣が自爆したんだ!)
奴の剣も自爆持ちだ。
良かった、勝ったんだ。
ダンは大量の血を流していた。
まだ、やるつもりなのか。光に左腕が包まれる。
ダンは長剣を横に振るった。
盾を持ち、身構える。
斬撃は来なかった。
見当違いの方向に、深く、傷が刻まれる。
どうしたんだ...?
ダンは目が見えていないのか。
なおも歩き続けてはいるが、そっちに俺はいない。
至近距離での度重なる爆発、おまけに最後の直撃。
奴は、眼も、頭もやられてしまったらしい。
このままでは勝手に谷に落ちてしまう。
それでも死ぬが、
(それじゃ、面白くない)
奴にやられた事。数倍にして、新しい力で返してやる。
谷の淵まで来たダンの背後に近づく。
短剣を造りだした。
残り少ない、自爆の魔石でだ。
流石にこの距離じゃ外さない。
完全に、完璧に、これで終わりだ。俺の勝ちだ。
振りかぶって短剣を投げた...
ダンの身体に着弾後、爆発。
これで死んだだろ。
一応、確認。
血しぶきが晴れるのを待つ。
飛び込んできたのはダンの死体...では無かった。
...?
鎖鎌だ。
俺の脚に絡みつき、強く引っ張られる。
何だよ、おい?
すると身体に浮遊感を感じる。
脚がいつまでたっても地につかない。
俺はダンと一緒に谷を落ちていた。