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鍛冶師さんは家出をする。

窓から外の様子を窺う...


まだ、日は出ていない。

明かりと言えるものは月だけ。家の前の道は暗闇に包まれていた。


しかし、夜明けは近いだろう。

中心街から離れた我が家にも聞こえてくるカーン、カーン、と言う音。


それは組合鉄工所から聞こえる鉄をたたく音だが、同時に夜の終わりを告げる音でもある。

静まり返っている夜明け前の街に、金属音だけが甲高く響いていた。




早く起きれてよかった...

しかし、もたついている暇も無さそうだな。


別に今日でなくったって支障は無い。

しかし前々から決めていた事だし、この日のために準備も進めてきた。


十五歳になる今日の日、成人になる今日の日こそ旅立ちには相応しいはずだ。

急がなければな。日の出に間に合うように。






散らかっている机の上で燻っているままの赤い火種を手に取り、カンテラに火をつける。


パっと辺りに布ごしの優しい光が広がった。

それに少し目をくらましながらもゆっくりと...音をたてない様にと、俺は立ち上がった。



ベットの下に器用に身体をすべり込ませ、大きな箱を外へと引きずり出す。

そして、それを覆っていた布を取り払ってしまうとカンテラを向けた。


淡い光が映し出したそれらは俺の努力の結晶。

冒険者に憧れてから欠かすことの無かった準備の賜物だった。


携帯寝具、衣服、保存食、装備品とそれらを手入れするための布と砥石、等々。

店に来る冒険者に訪ねては取り揃えた、冒険者には欠かせないものたちだ。



それらはかなりの量だった。

嵩張る装備品は先に着てしまった方が良いだろう。


擦れ合う音に気をつけながら、自分で造った皮鎧、ブーツを着ていく。

これを完成させるのにも大変な手間がかかったものだ。


造るの自体には日はさしてかからなかった。

しかし、父さんの目を欺いて素材を確保し、仕事の間にこれを秘密裏に造るのに骨を折ることとなった。

切れ端を使わざるをえなかったせいで皮鎧はつぎはぎだらけだ。



そして腰に鞘に入った手斧を提げる...これは俺が作った物ではないが。


これは、十歳の頃、父さんから譲り受けた物。

冒険者になるため使われるのは不本意だろうが、そんな事はどうでも良い。

これは見事な出来だしな。



装備品を着終えると、背嚢にどんどん荷物を詰め込んでいく。

最後に盾を入れ、背嚢の口を閉めた。



大分重くなった背嚢を背負込み、立ち上がった。

ふと外に目をやると、もう空は白み始めている。急がないと。



木が軋む音に家族は起きやしないかとひやひやしながら、部屋を出て、階段を降りていく。



一回の店に並べられた武具たち。

それらの中から一つの剥ぎ取り用のナイフを手に取り、腰にさす。


どうせ殆ど俺が造ったもの。一本ぐらい構わないだろう。


少しの罪悪感を覚えながら裏口の閂を外して外へと出た。




外に出て、今一度十五年間住んだ、家兼店を眺める。


燻んだ色の、文字の読み取りづらいこの看板も、もうお別れかと思うと少し寂しい気分になるなぁ…


…っと感傷に浸っている時間も無いのだ。

日が昇る前に街門まで辿り着かなければならない。


俺は振り返りもせずに、歩き始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


街門には日の出前に辿り着くことができた。


この街で買ったのだろう武具やらが、商人たちの手によって次々と馬車に積み込まれていく。

俺は馬車の出発を待つ冒険者達と一緒に火にあたりながらその一連の作業を眺めていた。


綺麗に箱詰めされた武具…それらは王都まで運ばれて行き、店先に並べられ、冒険者の目に止まり、買われていくのだろうか。



その中に我が家の武具は無い。

詰め込まれた武具の殆どは鉄工所で造られたものだ。我が家の様な小さな店に、商人達は買い付けには来ない。


父さんは、何故鉄工所を辞めてまで街の外れに店を出したのだろうか。


頭に、一心不乱に刀を打つ父さんの姿が浮かぶ。



やはり…怒るだろうな、父さんは。

俺無しにあの店が廻っていくとも思えないし。


しかし、父さんが鉄工所を辞めたように、俺も自分のやりたい事が有る。

たとえ、反対されようとも。



「王都行き、日の出便。乗り合いの方どうぞー」


どうやら荷は積み込みを終わったらしい。

大きな箱の間に身体を滑り込ませ座った。


少し時間が経ち、馬車は動き出した。

ゴトゴトと揺れる馬車。生まれ故郷は次第に離れていく。



暫く、街を眺めていた…別に寂しくは無い。

此れからはもっと楽しいことが起きる。

きっと、その筈だ。



そして、町が見えなくなる。

暫くボンヤリとしていたが、いつのまにか寝てしまった。




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