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手紙

最終回です。

 西暦二一六九年、冬至、日本。

 心の底から凍えてしまいそうに寒く、しかも大雪の日だった。

 雪の降り積もった公園のベンチに十才ぐらいの少女が心細そうに座っている。迷子だろうか。

 今日の仕事を終え、肉まんやカフェオレまんが山と入った紙袋を抱えた冬雪美がそんな少女を見かけた時、激しい既知感が襲った。 御影の「血」が知っている光景だ。

 ならあそこに座っているのはきっと―。 気が付いた時にはもう走り出していた。

 あいつとは二度と会うことはないと思っていたのに。

 少し息を切らしながら冬雪美は少女の前に立つ。


「ねえ」


 呼吸を整えてから冬雪美は少女の前にしゃがみ込む。


「ねえ、あなたひょっとしてイタニ・オミスの皇女さま?」


 ほんの少しの期待を込めて冬雪美は問いかける。


「なんで分かるんですか?」


声をかけられてやっと少女は顔を上げた。

 やっぱり椎果しいかじゃなかった。

 あいつの眉はこんなに太くなかったし、福耳でもなかった。だけど。この耳たぶに輝くイヤリングは確かにあいつにあげたものだ。

 落胆はしなかった。今頃あいつは実家で仕事に追われているのだから。こんなところでぼんやりしていていいはずがないのだから。


「あたしは御影冬雪美、四十九才。お母さんから聞いてない?」


 少女は記憶の糸をたぐりよせ、


「あ、すこしは」


 これにはさすがに落胆した。


「そう。少し……。少しなんだ。あいつめ。覚えてろ」だがすぐさま気を取り直し、「あんたは、えぇっと、シヴァル・パティク=イウム・ハユル=カルュンの娘さんでいいのね? 名前は?」

「はい。名前は、さくらです」


 初めて椎果の本名を聞いた時とはまるで逆の驚きが、冬雪美の目をしばたかせた。


「短いわね。オミスのひとなのに」

「はい。本名は長いし、自分から名乗ることって滅多にないんで、友達と遊ぶときとかはこれで通してます」

 にやり、と冬雪美の唇が歪む。


  確かにあいつの娘だ。よし、決めた。


「あんたのお母さんはね、随分昔にこの星にやってきてあたしの家に居候してたのよ」


 思い出すうちに段々腹が立ってきた。


「それも、一五六年もの間ずうっと! なのに少ししか話してないなんて恩知らずにもほどがあるわ! 手紙も滅多によこさないくせに、また人ん家に厄介になろうっての!? 食費とか光熱費とか違約金とかあいつにかかったお金、全額請求してやるんだから!」


 ちなみに、椎果と雷夏らいかの努力によって地球とイタニ・オミス間に航路が確立したいま、人や文化の交流はかなり盛んに行われている。


「あの!」

「な、なに」

「母さんのこと、悪く言わないでください」 さくらの真っ直ぐな怒りが冬雪美の心をくすぐった。

「あはは、いいのよ。あんたのお母さんにはこれぐらい言っても。椎果だってこれぐらい言い返してくるんだから」


 それよりも、と冬雪美は少女につめより、「さくら。あんたは迷子? それとも家出してここまでやってきたの?」


「えっと、母さんに『これも修行のひとつです』って言われて」

「来たくなかった?」

「いえ。地球の話は母さんからたくさん聞いていたので嬉しいんです」


 こちらをまっすぐ見返す強い瞳の光は椎果以上かもしれない。冬雪美の身体を巡る商売人の血がざわついた。


「いいわ、あんたはあたしの家で面倒みてあげる。ただし! 働いてもらうわよ。あんたのお母さんにはいいところで逃げ出されて、そのあとすんごい苦労したのよ。……、あんた第一位じゃないわよね? 継承権の」


 また逃げ出されたら冬雪美は今度こそ立ち直れないだろう。


「は、はい。兄がいますから、あたしは二番目です」


 さくらはすっかり怯えながらも返事だけはきっちりした。


「よし! ストーンレコード大復活よ! 見てなさい、椎果! 今度はちゃんと儲けさせてもらうからね!」

 

 空に向かって吠える冬雪美の声が届いたのだろうか、この一週間後、椎果から手紙が届いた。


『前略。

冬雪美さん、娘をよろしくお願いします。 草々。

追伸。

あたしよりも歌はうまいと思います。

         御影椎果』

  


                    〈終〉


まだまだ未熟です。

でも楽しんで書けました。

読んで下さった方々に深い感謝を。

では。


「ひねくれ猫の変愛と次元の迷い子たち」も一読いただければ幸いです。

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