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紫の願い  作者: 沢森ゆうな
第一章:術使校編
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「出来た子はいるか?」


 鉄紺てつこんがそう問うと何人かが席を立ち、彼の所へ向かった。真白もその列へと紛れ込む。

順番を待っている間、こっそりと再度円を描いてみた。


やはりよく分からない。

灰色に近い系統か薄い紫の系統だと思うが、真白には判断しかねた。もっと円を大きく描けばわかっただろうが目立ちたくはなかった。

 しかし、殆どの生徒が名前を貰って時間をもて余していたので自然と今並んでいる同級生に意識は向けられる。


前の生徒が緑系統の名を付けられ自己紹介をするのを、何処か遠い場所から聞いているような心地で耳を傾けていた。


「はい、次」


鉄紺の前に立ち、そっと円を描く。


「少し大きく描いて」


色見本を開いて、指をなぞりながら鉄紺は少し悩んだようにトントン、と指を叩いた。


鳩羽はとばだな」


鳩羽?名前を言われたってさっぱりと分からない。首をかしげると鉄紺は本を真白の方に向けてくれた。


「紫の系統だ。伝統的な服によく使われる色だな」


くすんだ様な青紫。


「紫だって……」


「すごい」


周りが少し騒がしくなる。それは妬みを含んだ羨望の声。


真白自身は驚いたものの、その周りの雰囲気に萎縮した。

家と小さな学校という狭い世間で今まで暮らしていた真白には、今の空気は味わったことのないものだ。


それに。


自身が想像していた紫とは程遠い。紫と言ったら綺麗な味わい深い色を考えていたのに自分の紫は霞んでいる。

 それがどこか劣等感をも生み出していた。


解っている、そう思うことはよくないことだと。それは真紫以外は紫色の系統ではないと言っているようなものだ。でも心の中がモヤモヤした。


「鳩羽で三人目だ。今年は豊作だな。さ、自己紹介をしなさい」


複雑な気持ちには蓋をして、真白は振り返って教室全体を見渡した。


「鳩羽です。趣味は……ないので、これから探したいと思います」


ぺこり、と頭を下げて真白は小走りに席に戻った。


「すごいね、紫系統って。あ、初めまして。私、紅樺べにかばっていうの。よろしくね」


席に戻って取り敢えず安心したところで、右隣から声をかけられた。反射的に右を向けば、素晴らしい体型の持ち主の少女がいる。

発育がいいその身体は痩せっぽっちの自分と同じ年齢とは思えないと鳩羽はまじまじと彼女を見つめてしまった。


「?どしたの?」


「ううん。私、えっと、鳩羽。よろしく」


「よろしくね。ね、もう一回色見せてくれない?紫系統って見るの初めてだから」


「え……でも」


「だって凄いんだもん。ね、そう思わない?」


紅樺はそう言って自分の後ろと鳩羽の後ろの席にいる同級生に声をかけた。


「うん、そーだねー」


「そうだな」


明るく笑いながら頷いた少女は蜜柑みかんと名乗り、あっさりと同意した少年は千草ちぐさと名乗った。蜜柑はだいだい系統、千草は青系統らしい。蜜柑は「こんな色だよー」と見せてくれた。


「私も見たいなあ。鳩羽ちゃんの色」


見せてもらった後は断りにくく、鳩羽は小さく円を描いた。

先程描けなかったのが嘘の様に、するりと色が出てくる。


「なんか落ち着く色だね」


「そうね。伝統的な服に使われるのもわかる気がするわ」


「そうかな…」


くるくると円を描いてみるけれど、鳩羽はやっぱりこの色があまり好きではなかった。

幸せそうな色ではないからだ。


「そういえば、紫系統他に二人いるって言ってたけど」


「えーっとね、一番前の真ん中にいる大人っぽい女の子が藤紫ふじむらさきちゃん。で、前から二列目の窓側にいる男の子が桔梗ききょうくん」


「二人とも目立ってるわね。雰囲気が違うっていうか……」


そこで紅樺は鳩羽を見た。

ちょっとムッとした鳩羽だが、わかっている、自分だけ目立たず地味だと。


「どうせ私は不細工ですよー」


それでも紅樺に文句を言えば、彼女は首を横に振った。


「違うわよ。確かにあの二人みたいに雰囲気はないけれど」


はっきり言う子だな!


鳩羽は笑ってしまった。


「あ、ごめん。違うの、何ていうかな、鳩羽の色の方が親しみがあるっていうか、ごめんね、私言い方が下手なの」


「紅樺は赤系統だから、飾り気がなくて真っ直ぐなんだ。鳩羽は、伝統色だから皆に根付いている色だし…人を警戒させず安心させるんじゃないかな」


「なるほど、そう言えばいいのね。千草はすごいわ」


「本当、すごいねー」


 蜜柑はのんびりと相槌をうつ。どうやら橙系統は物事をあまり深刻にとらえない性格のようだ。


 やがて全員が名前を付けられると鉄紺は紙を配りだした。


「これが一週間の授業表だ。授業表の下にあるのが、授業が行われる場所だ。実技場が多いが結構移動もあるから、今から校舎内を案内する」


 地図が載った冊子を国から貰ってた筈…と皆手荷物から冊子を取り出そうとしたら、鉄紺がそれを止めた。


「それは昨年の内容だ。安全上、毎年教室や寮は場所を変えているから当てにするな。規則や校則は変わっていないが、国によって冊子は違うから燃やしたり捨てたりしなさい」


 そう言われて、手荷物を漁っていた手を止める。既に冊子を出していた子も慌てて荷物の中にぐしゃぐしゃにしまいこんだ。

部屋を宛がわれ一人になって最初にすることは冊子の破棄。

忘れないように心に刻んでおく。


「移動がある際と授業には教科担当と私が必ず側にいるようになっているから安心していい。迷子にはならないだろう」


 最初に教室に移動したようにまた連れ立って歩くが、今度は先程みたいにきちんと列にはなっていなかった。

真白も先程話をした紅樺、蜜柑と一緒に後ろを歩く。千草は知らない男の子と一緒に少し前を歩いていた。


「思ったより広くないわよね、ここ」


「そう?ご飯美味しいといいね~」


蜜柑と紅樺は少しずれたやり取りをしながら歩いている。鳩羽は時折そんな会話に混ざりながらも前を歩く同級生達を見た。

 全員名前を覚えているわけではないけれど、同じ色系統同士が割と固まっているようだ。あと、綺麗な服を着ている子には仲がよさそうな子が数人一緒にいる。きっと同じ国の子なのだろう。取り巻き、と言い方は悪いが鳩羽の目にはそう見えた。蜜柑に教えて貰った紫系統の二人は誰と話すでもなく一人で歩いている。

けれど、雰囲気のある二人をちらちらと見る同級生は多い。特に桔梗は雰囲気といい、顔の造形も整っており女の子の注目の的だった。




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