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紫の願い  作者: 沢森ゆうな
第二章:中央校編
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二の十五


 鳩羽はその日から更に貪欲に知識を高めようとひたすら勉強に、自主練に励んだ。

 最初は肉体強化に頼っていた身体だったが、少しずつ筋肉がつき始めてから全体の運動能力が上がり、知識もじわじわと身になっていることを実感し始めた。


「うん、今日はここまでにしましょう」

浅縹あさはなだ先生、ありがとうございました」

「いいのよ、私もいい勉強になるわ」


 浅縹は少し汗ばんだ身体を布で拭き、レータ水を飲むと鳩羽をちらりとみた。

 以前は痩せて暗い印象の鳩羽だったが、ここ数ヶ月でだいぶ変わった。それを見て、何かを思案する濃縹がとても珍しかったのを覚えている。


 人と距離を置くようにもなった。置くようになったというよりも自主学習や自主訓練に時間を割いていて皆と話していない。

最初は気にかけていた周りも鳩羽の様子を見て焦り出したのか自分達も自ずと勉強や訓練をするようになっていった。

 皆静かな緊張感を出すようになり、自然と前みたいに話すこともなくなっていく。良くも悪くも鳩羽が皆の空気を変えた、と教師の一人が言った。


 中央校に編入して数ヶ月が経ち、鳩羽の身体つきはだいぶ変わった。

筋肉がつき、しなやかになり、表情は大人びたものになった。子供の成長は早いものだ。

 誰かが鷹のようだと最近の鳩羽を評した。最早もはや平和の象徴の鳩ではない、と。






●●●●●




ーー術使校にてーー



「そういえば、あれから鳩羽のこと何か聞いた?」


 書類を整理していた鉄紺は声の主を振り返った。


紅緋べにひ

「そろそろ様子を聞いているかと思って」


 分校にいる紅緋は鉄紺の横の椅子に腰掛ける。紅緋は言わないが、命を助けられたのをとても恩に感じている。鳩羽のせいで死にかけたのだが、それよりも助けられたということが紅緋の中では大きいらしい。時々様子を聞きにくる。


「そう、気軽に様子を聞けるものではないからな」

「そうよね」


 分校と中央校には大きな力の差がある。おいそれと気軽に行き来も連絡もできるものではない。


「今度、選抜の話し合いも兼ねて中央校の校長がこっちに来るから聞けそうだったら聞いてみよう」

「宜しく。そういえば今年は推薦者どうすんの?」

「そうだな。今のところ三名を予定しているが、一人が思案ものだな」

「あぁ……」


 紅緋は分かったと言わんばかりで頷いた。

 実力は正直たりない。本人はしっかりしているつもりだし、この学校ではできる部類には入る。ただ、中央校に行かせるとなると物足りないのだ。


「運がいい子だからね」

「そうだな……運も実力のうちというがそれが中央校で通じるのか」

「無理でしょうね」

「そうだよな」


 選抜試験を受けさせることができるのはできるが、今の状態で受けさせるとこの学校の評価が下がる。

質が落ちたと言われては今後に響く。


「今回は見送る」


そう決定して鉄紺はその生徒の名前を消した。


紅樺と書かれた女生徒の名前を。




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