二の十
「勝者、檜皮!!」
これ以上は戦局がひっくり返らないと見たのだろう。校長が声をあげる。
梅染は納得がいかないようだったが、校長に逆らうと分が悪いと見たのだろう、渋々と引き下がった。
その顔にはありありと不満が現れていたが。
「どうして勝てたのかな」
「うーん」
二人が首を傾げていると「それはね」とすっと横に座った人物がいた。
「わ!!」
「紅鶸先生」
髪型を三つ編みからお団子に変えている紅鶸はまだところどころ出ている木の根を指差した。
「梅染が使ったのが、檜の根だったからいけなかったの」
「あ!」
「そ。檜皮は元々檜の樹皮から染められた色だから梅染よりも根との相性はよかったみたいね」
周りの木々は確かに杉や檜といった木々が多く、梅は見当たらない。
ここにはない木を術式で補い攻撃もできたが、実際に側にあるものを使った方が体力の消費は格段に抑えられ、威力は増す。
「他の木や梅の根だったら多分梅染が勝っていただろうけど、たまたま選んだ木が檜だったから負けた。それは梅染の知識、判断が足りなかったから。彼には良い経験になったでしょう」
「そうなんですね、教えていただいてありがとうございました」
「さて、次は私達の番だから行きましょう」
紅鶸はにっこりと微笑んで鳩羽の腕を引っ張った。
茶色の髪はきっちりまとまっており、後れ毛すら出ていない。先程の三つ編みの結び方ではそんなに几帳面な印象ではなかったが、どうやらその認識は訂正していた方が良さそうだと鳩羽は紅鶸を見ながら思った。
「鳩羽ちゃん、頑張って!」
「ありがとう」
手を振る土器に応えながら、土器から聞いた紅鶸の性格を思い出した。
『赤系統の先生で火の術が得意だよ。あと、戦いになると人が変わったように凶暴になるって噂だから気をつけて』
そう土器は言っていた。
火の術が得意で、凶暴になる。そして赤系統。
怖そうでしかない。
赤系はまっすぐな戦い方を好む。物語にでてきそうな拳と拳のやり取りといった正義の戦い系統が好きなのが赤系だ。
ただ、凶暴だと噂で流れていたのが気になる。
噂を丸呑みにするのは危険だが、煙のないところに噂は立たないという。赤系統でなければ、自分の戦い方を錯乱させないような意図でわざと噂を流しているかもしれないと思うが、それはないだろうと鳩羽は考えていた。
それならば挑発をかけて戦えばいい。挑発に弱いのは赤系統の特権というぐらい赤系統は挑発に弱い。凶暴というのなら尚更だ。冷静に戦いに挑めない凶暴な性格は更に挑発に弱いはずだ。
そう決めていたが鳩羽は紅鶸の表情が引っかかっていた。表情は豊かだが、目が笑っていないのは何故だろう。笑っていないというより光がない。この人が真っ直ぐな戦いをするだろうか。
「どうしたの?」
「あ…いえ、なんでもないです」
いつの間にか運動場の中央まで歩きついていた。
一緒に試合をするもう一組も位置についている。
もう考える時間はないようだ。
「では試合を始めるよ」
静まり返った運動場で校長の声が響く。
「試合開始!」