二
「いってらっしゃい。本当に、本当に気をつけてね」
「大丈夫だって。綺羅まではお城にいる高位の術使に転移で送ってもらえるし、綺羅は寮があるからって何回も言ったのに」
綺羅に入れば最低三年、実力が認められ更に術使の中央校に入ることができればそれ以上に家に帰ることはできなくなる。
綺羅は西の真瓜国の西側に浮かぶ島に位置していて、転移術ではすぐ着くが、通常おいそれと行き来できる距離ではない。
「頑張って行ってこい」
父親も母親も昨日と今日は狩りを休み、ずっと家にいた。家族が終日勢揃いしていることは一体どれくらいぶりだろうと、とても嬉しかった。
普段は父か母、どちらかいないことが多い。夕食の時に揃うこともあるが、狩りで疲れている両親に甘えることは真白にはできなかった。それが昨日は一緒に朝御飯を食べ、兄の部屋で皆で話をし、夕食の買い出しに一緒に行き、川の字になって四人で寝た。髪を結ってもらったり、お風呂に一緒に入ったりと思う存分甘えて、幸せを噛みしめた分今日の別れは辛い。
「うん、手紙書くね」
まだ十二歳という子供の真白はその寂しさを懸命に堪えて、家族に笑顔で別れを告げた。
これも両親と兄に少しでも楽をさせるため。
今の生活がどれほど苦しいのか自分にだってはっきりと分かる。鞄の中に入っている洋服や日常品、勉強道具などを揃える為に両親が狩りをどれほど頑張って、どれだけ節約してくれたのかもわかっているつもりだ。
(綺羅を卒業すればいい仕事ができると先生は言っていた。たくさん働いて、お金をいっぱい貰って両親にはずっと家にいてもらって、昨日みたいに楽しく過ごすんだ)
「じゃあ行ってきます!!」
元気よく言って、真白は痩せっぽっちの小さな身体に大きな荷物を持ち、馬車へと乗り込んだ。