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紫の願い  作者: 沢森ゆうな
第二章:中央校編
48/59

二の八

 試合は圧巻だった。

特に教師同士は経験豊かな為、次元が違う。

 両手に違う術式を描きながら走り、間合いをとる。片手の術式を放てば、空いたその手で即座に違う術式を描き始めていた。そんな動きをしながら、また術を放ち、もう片方の手は相手の術式を瞬時に判断して防御の術式を描き始める。


「すごい……」


そう思ったのは鳩羽だけではなかったようで、他の生徒達も教師同士の試合を食い入るように見ていた。

遂には試合をしていた生徒も戦うことを止め、木の上から二人の試合を眺めだした。


 息をつく暇もないぐらい二人の試合の展開は目まぐるしい。

威力は最小限にしつつ、的確に相手の急所を狙っていっている。爆音に水に……ありとあらゆる属性の術が網羅している。



 そんな状況が暫く続いたが、校長が二人の戦いに割って入った。


「三十分経ったよ。他が進まないからもう終わりにしよう」


「しかし…」

「でも!」


不服そうな態度をとる二人に校長は笑った。


「あとで存分に戦えばいいよ。試合が全部終わったらここ好きに使っていいから」


そう言うと術式を展開して「両者引き分け!」と試合を終了させた。

そして木の上に視線を向ける。


「待たせたね。君達は全然試合していないだろう。ちょっと手狭にはなるけど次は三組で試合をする。対戦相手を間違えないようにね」


「第二組目は準備を!」


今からの試合には教師と生徒がいる。しっかり見なければと鳩羽は土器を誘って眺めのいい木の上に移動した。


「不安そう。大丈夫?」


土器は鳩羽の頬に手を当てて優しく微笑む。ゆっくり小さな動きで撫でられると、それだけで勇気を貰ったような気がして、鳩羽はこくりと頷いた。


「鳩羽ちゃんなら大丈夫」

「うん」


手をぎゅっと握りしめる土器に微笑み、鳩羽は試合に集中した。少しでも観察して、自分の身になるようにしないといけない。自分が戦う八組目は最後の組だ。とてつもなく長い時間な気がする。教師相手に勝てはしないだろうが、少しでも頑張らないと、と他の人から学ぼうとじっと試合を見る。

その傍で土器が、時々解説をしてくれる。


 三組目が終わったところで土器が立ち上がった。


「次、私だから行ってくるね」


「土器ちゃん頑張って」


「ありがとう」


 土器は足取り軽く運動場の中央へと向かった。

土器や他の同級生の試合を見るのはこれが初めて。

鳩羽は目をしっかり見開いて試合見学に臨んだ。


「では、始め!」


言うと同時に巨乳の先輩は短刀を取り出し、土器の懐目掛けて走り出した。

大きく短刀を振り、お腹に叩きつけようとして……直前で飛び退いた。


「あれ? ばれちゃいました?」


いつの間にか土器は術式を描き終えて手から地面へと術式を線で結んでいる。


くすんだ黄褐色である土器の色で複雑に描かれた術式は、踏んだ瞬間発動するもので、踏んだ人を閉じ込め息をできなくするものだ。

上級の術で、拷問や暗殺に向いているもの。


「あんた大人しそうな顔して選ぶ術はえげつないわね」


巨乳の先輩が土器を睨むが、土器はきょとんとした表情で先輩を見つめ返した。


「そんなことないですよ。怪我をしないから一番安全な術じゃないですか。それより先輩、短刀を振りかぶる時の腕の振り幅が大きすぎます。隙がありすぎですよ」


それを聞いた先輩は肩をわなわなと震わせた。


「あんた! 後輩の癖に偉そうに!」


相手が術式を描いていく。しかし、土器はそれより速く両手で術式を描きあげ、放った。


「鞭撻雷だ」


土器が放った鞭撻雷は相手の両手、掌を覆うように巻きついた。これだと術式が描けない。

そして、土器は鞭を思いっきり引っ張った。


「きゃあっ!」


重心が崩れ、地面にうつ伏せに倒れた相手の背中を土器は力を込めて踏んづけた。


「終わりです」


「勝者、土器!!」


「ふふ」


汗を拭う土器は可愛くて、残酷に見えた。













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