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紫の願い  作者: 沢森ゆうな
第二章:中央校編
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二の六

暫く土器かわらけと術の見せ合いをしていたが、いつの間にか他の生徒達も運動場へ来ていて鳩羽の術を見ていた。好意的な視線ではなく、熱い眼差しに鳩羽は不安になり、助けを求めるように濃縹こきはなだを見たが、彼は表情を変えず、鳩羽を見ている。

視線に怖気づいて鳩羽は手を降ろした。


「どうしたの、鳩羽ちゃん?」


「あ、うん……」


ちらりと周りに視線を向ければ土器はそれで察してくれたようだ。濃縹に全員揃っていることを伝える。


「では今日は終わりにする」


「「ありがとうございました」」


濃縹の一言で皆がばらばらに歩き出した。


「あの、ありがとう」


土器にお礼を言うと、土器は人懐っこい笑みを浮かべて去っていった。容姿は全然似ていないが、土器は蜜柑に似ている。

仲良くなれそうな同級生がいたことに鳩羽は安堵し、改めて誰もいなくなった運動場で、術式を描いた。先程教わった本来の鞭撻雷の術式は浅縹から教わったものとは段違いに描きやすい。


「これなら両手でできそうかな」


描き慣れていない左手でも術式を描いてみたが、やはり利き手ではないので時間がかかる。

練習あるのみと鳩羽はひたすら左手で鞭撻雷を練習し始めた。



******



「おい」


職員室で書類に向き合っている浅縹に、珍しい人物から声がかかった。


「どうしたの、濃縹」


空いている右隣の椅子を勧めれば、濃縹はこれまた珍しく素直に座った。お互い無表情だが、それはいつものことなので気にしない。


「鳩羽に術を教えたのはお前だっただろう。基本を教えず、改術や上級術を教えたな」


「鳩羽って……編入の生徒ですよね? 上級の術まで使えるんですか?」


周りにいた幾人かの教師が顔をあげて二人の話に耳を傾けた。


「ええ。簡単に覚えるからどこまで出来るかなと思って。思った以上に覚えるからついつい」


「あと、鳩羽に術の名前教えてないだろう」


「いらないかと思って」


「どんな術が使える」


そう問われて浅縹は教えた術名を述べていく。「そんなのまで」と話を聞いていた教師が感嘆の溜息を吐いた。


「とんでもないのが入ってきたな」


「家系は? 術使の家系か?」


「いえ、それが違うんです。貧困層の家庭ですね。家庭を助けるために術使を志したそうです」


「何も知らずに入学した口か……大丈夫そうか?」


「家庭を恋しがってましたから、書く手紙の回数を校長に相談して増加させました。家族のことを引き合いに出すと彼女は頑張れるようですね」


浅縹が賭けをした試験の顛末を話すと、周りの教師はもちろん、濃縹までも驚いた表情をした。


「我々も油断できません……久しぶりに手合わせでもしませんか?」


「そうですね……生徒達に観てもらうのもいい刺激になるかもしれませんね」


「鳩羽の実力も見たいですね。どうですか? こけは一つ生徒と教師混合の試合を行うというのは」


「へえ、楽しそうだね」


「校長!」


いつの間にか職員室に来ていた校長が真っ白な紙を一枚浅縹の机の上に置いた。


「早速規則を決めよう。浅縹は書いていって」


「はい」


それからはあっという間だった。草案ができ、日にちが決まり、結局その日のうちに対戦相手まで決まった。


「鳩羽は紅鶸べにひわいとが妥当かな」


「はいっ」


校長に指名され、小柄な女性教師が手を挙げる。三十歳台後半の紅鶸は、少女のような外見をしているが、中央校の教師の中でも実力は上から数えた方が早い。


「手加減はしないでね」


「勿論ですっ」


「生徒にはどうします? 一週間後の当日まで黙っておきますか?」


「そうだね。当日に言おうかな。日頃の実力をみたいし。これは預かっておくよ」


そう言うと校長は対戦表と規則が書かれた紙を持って校長室へと戻っていった。

椅子に座り、机の上に対戦表を置いて眺めながら冷めたお茶を飲み干す。


「さてさて、誰が一番強いかな」


校長は楽しそうな笑みを浮かべて、その紙を引き出しに仕舞い、校長室を出た。








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