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紫の願い  作者: 沢森ゆうな
第二章:中央校編
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二の三

「う……ん」


カーテンの隙間から入る陽射しが眩しくて鳩羽は目が覚めた。


「あら、もう起きたのね」


ベッドの近くにある椅子に座っていた浅縹が鳩羽の顔を覗きこむ。


「暫く彫った場所が疼くと思うけど掻かないようにしておいてね」


自分の二の腕に触れようとした鳩羽の手を軽く抑えて、浅縹は飲み物を鳩羽に渡した。

ほんのりと温かい飲み物で喉を潤しながら、鳩羽は自分の二の腕を見る。

右腕には見慣れた術式。左腕には見たことのない術式。それらに紫色の色が入れられて、肌に彫られている。


「左腕にあるのは連絡術式よ」と浅縹は鳩羽に説明をして、星飴を渡した。


「あげるって言ったでしょ」


「こんなに……ありがとうございます」


小さい瓶いっぱいに詰められた星飴に鳩羽は目を輝かせた。鉄紺に初めて貰って以来、この飴は鳩羽の大好物だ。

他に甘い物を食べても感動はすれこそ、ここまで美味しいと思ったものはない。

 きらきらした飴を傾けて見ていると、浅縹が僅かに微笑んだ。


「明日からなんだけど、午前中効果を試してみて午後から組の皆と一緒に授業を受けてもらうわ」


浅縹は左脇に置いていた荷物を鳩羽に渡した。鳩羽が浅縹の部屋に置いていた荷物だ。

 組に入るに伴い、浅縹との共同生活が解消される。同じ部屋で暮らしていたとはいえ、浅縹は鳩羽が起きている時間に部屋にいることは殆どなかった。それでも一人部屋に少なからず寂しさを感じる。

 荷物を開けるように言われて、鳩羽は鞄の中をがさごそと漁った。


「服に下着に、鉛筆、覚書張に便箋?」


「ご家族に中央校に編入したことをお伝えする手紙を送るの。書きたいことがあれば明日までに私に渡して」


「!!」


その言葉に鳩羽はぱあっと表情を輝かせた。嬉しくてしっかりと便箋を握りしめる。


「どうする? もう動けそうなら部屋に案内するわ。手紙を書く時間もいるだろうし」


「はい!」


 さっきの寂しさはどこへやら。鳩羽はうきうきとした気分でベッドを降りた。

身体が前よりだいぶ軽い気がする。不思議がってくるくる腕をまわしてみると、肩が軽い。


「すごく楽です」


「そう、よかった。連絡の術式については貴女の部屋で説明するわ」


 与えられた部屋はベッドに机、椅子に本棚、浴室と一通り揃っている。術使校よりも豪勢な造りとなっていた。

ベッドの脇に荷物を置いて、浅縹は椅子に腰かけた。鳩羽はベッドの端に座る。


「さて。術式の説明をしておくわね。まず、肉体強化の術式は永久的に続くわ。若干五感が鈍くなってしまうけれどそれ以外、影響はないわ」


鳩羽は服の上からそっと刺青に触れた。


「もう一つある連絡用の刺青は連絡が入ると刺青の部分が少し熱くなるわ。連絡番号とその術式は中央校と貴女の国しか知らない。中央校から連絡するのは在籍中だけだから、ここを卒業したら連絡は国からだけよ。連絡があれば、国と決まったやりとりで詳しい内容は聞いてちょうだい」


連絡番号の刺青は声などを届けることはできない。用事がある、という合図しか送れないのだ。


「試しに私が連絡するわね」


そう言って浅縹は術を発動すると、刺青が一瞬だけ熱を帯びる。


「任務中でも連絡はあるから、気をとられないようにね。あと、この刺青は腕の奥まで彫られているから多少の傷が入っても発動するわ」


致命傷になるぐらいの傷は流石に駄目よ、と浅縹は付け足した。


「説明はそれぐらいかしら。食事は後で持ってこさせるからそれまでゆっくり休んで」


浅縹が出ていくと鳩羽は洋服を脱いで自分の二の腕を見た。

両腕に彫られた術式。


「あれ? この術式はなんだろう」


連絡用と肉体強化、それ以外に一つ小さい術式が彫られている。その中には複雑な模様が彫られており、彫られた術式のなかでは一番重要なものの気がする。しかし、何も説明はなかった。


「……明日にでも聞いてみよう」


ずっと寝ていたので眠くもない、かといって出歩く気にはなれない。何をしようかと部屋の中を見渡すと、本棚にいくつか本が並べられているのを見つけ、そのなかの一冊を手に取った。

表題は『術使の歴史』。

難しそうだったが、少し読んでみると読みやすい文章だったので鳩羽はどんどん読み進めていった。





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