表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の願い  作者: 沢森ゆうな
第一章:術使校編
38/59

三十五

 全ての試合が終わり、鉄紺を前に鳩羽達は地面に座っていた。


「さて、『言式≪ことしき≫』について説明しよう」

 

前に出てくるように鉄紺に言われて鳩羽は立ち上がった。明かりの術を発動させるよう言われて、光の球を造り出す。


「これが通常の明かりの術なのは皆わかるな」


その光の球は太陽のもとでもはっきりとわかるぐらい輝いている。


「ではさっきしたように『言式』を併せて明かりの術を発動しなさい」


鳩羽は明かりの術式を描く。光の球ができあがると空に軽く投げる。

そして一言。


「『錯乱』」


瞬間、光が大きな音を立て弾けた。

「このように術と言葉をかけあわせて威力を強化できる……って、ああ、すまない。感覚が戻るまで待とう」


 桔梗を除き、生徒達は目をつぶって耳を抑える。咄嗟のことで、感覚が一時的に麻痺してしまった。



******



 暫く待って、落ち着いた生徒達に鉄紺は説明を続けた。


「今のが『言式』だ。言式は術者や術によって違い、同じものはないと言われている。例えば……」


 鉄紺は鳩羽が先程したように明かりの術を発動させ、「錯乱」と言った。しかし、何も起きない。


「他者の言式を真似ても意味はない。自分だけの言式があるはずだが、それを探すのは簡単ではない」


「私達教師達でも言式を使える術があるのは一人だけよ」


「言式は意味を成さない言葉の組み合わせの場合もある。努力でどうにかなるものではない」


 言葉の組み合わせは、果てしなくある。その中からたった一つの組み合わせを探さないといけない。さらに術によって言式が違う。そのため、言式は一つ見つかれば奇跡だと言われる。


「だから鳩羽。今見つけた言式は大事にね」


 言われて鳩羽は神妙に頷いた。言式がそんなに凄いものだとは思わなかったのだ。


「皆も時間があるときは色々言いながら試してみるといい。だが、それよりも術式を速く描けるように練習する方が確実だ」


 その場で解散となったが、鳩羽は鉄紺に呼び止められた。

何だろうと緊張した面持ちで鉄紺を見上げると、鉄紺は一つ咳払いをして、鳩羽を見おろした。その瞳はいつになく揺れている。

「鉄紺」と紅緋に言われ、少しの躊躇いの後、鉄紺は口を開いた。


「鳩羽は術使中央校へ行ってもらう」


「え……?」


「中央校へ編入だ。帰って荷造りをしなさい」


その言葉に鳩羽は数度瞬きをした。


「本来なら一年間の成績や才能を吟味して、中央校へは選抜される。しかし、例外もある」


鉄紺はそこで言葉を切って、周りを見渡した。目を細めて、険しい表情になる。


「紅緋、鳩羽を護衛しろ。他の者は被害を最小限にしろ」


強い口調の鉄紺に他の教師達が跪く。


「「「はっ」」」


 短い返答と共に、教師達が一斉に動き出した。刀を抜いたり、術式を展開させながら走っていく。


「行け!!」


 その掛け声と共に、紅緋に強く腕を引っ張られ、鳩羽は走り出した。


「あ「話は後で。今は急ぐから――走るわよ!」


途端、横から短刀が飛んでくる。


「ちっ!」


紅緋が短刀を避け、術式を展開させる。

水の術が放たれた先には何も見えなかったが、どさり、と音がした。


「え、な…な……!!」


鳩羽は混乱した。


「落ち着きなさい! 学校に戻れば一先ず安心だから!」


紅緋は言いながら放たれる術に対抗しながら、鳩羽を引っ張って山をかけおりていく。近くで響き渡る轟音がとてつもなく怖い。


なんで。


状況を把握できないまま、鳩羽はひたすら走った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ