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紫の願い  作者: 沢森ゆうな
第一章:術使校編
32/59

二十九

 空気の悪い休憩時間も終わり、鉄紺が戻ってきた。

「さて、全員揃ったから、今日は先日あった試験と同じ内容を復習として行う。三人以外は初めてだから、しっかりついていきなさい――白橡」

「はい」

 教室の中から返事がして、ばっと後ろを振り返ると一番後ろに白橡が静かに立っていた。近くの席の生徒ですらその存在に気付かなかったようで、返事をした教師を見て驚いている。そんなことは気にも留めず、足音もなく白橡は教室を出て行く。

どうすべきなのか鉄紺を見ると、顎で白橡が出て行った扉を示した。

 真っ先に動いたのは桔梗だった。慌てて鳩羽も紅樺と視線を交わし教室を出て行く。

三人が出て行った後、鉄紺が「白橡についていけ」と言って、他の生徒達も慌てて教室を出て、走り出した。その間にも、白橡は階段を降り、少しずつ歩む速度を速めていた。

「……っ」

「鳩羽、傷口痛む?」

 後ろも振り返らず、白橡は尋ねる。その言葉に追いついた同級生からの視線が集中したのが分かった。傷口ってなに? と聞きたそうな好奇心の視線だ。

「どうなの?」

どう言おうかと思って黙っていたら再度尋ねられたので、鳩羽は「はい」と素直に返事をした。

「じゃあ特別なことをしてあげる」

そう言って、白橡は鳩羽を横抱きにした。

「あの……っ!」

恥ずかしいから降ろしてほしい。そう続けようとしたが、「無理すると、体内で傷口開くかも」と言われてしまってはどうしようもない。洞窟の前まで大人しく抱えられたままだった。

 洞窟に着くと、白橡はそっと鳩羽を地面に降ろした。視線がまだ痛かったが、白橡は全く気にせずに説明を始める。

「今から洞窟に入る。試験を受けた三人は試験内容を知っているから来なくていい。近くでのんびりしていて。試験を受けていない子は行くよ」

そう言って白橡と他の生徒は洞窟の中へと消えて行った。


 鳩羽は助かったと言わんばかりにすぐ地面へとへたり込んだ。

「大丈夫か?」

「うん……走っていないから」

「桔梗、くんは試験受かったんだね」

「あぁ。あれぐらいなら慣れているからな」

『あれ』がどのことを指すのかわからないぐらい全てが鳩羽には非日常だったのに、桔梗にはそうではなかったらしい。紅樺も首を傾げて「どうやって試験を合格したのか教えてくれる?」と尋ねる。

「ああ。夜中に気配がして起きたら白橡先生がいて……」と桔梗は洞窟を出るまでの経緯を詳しく教えてくれたが、内容を聞くにつれ、彼は別格なんだと知らされる。

「出口で待ち構えていた上級生の武器を奪ってなんて……普通は無理よ」

紅樺は桔梗に対する感嘆の溜め息を溜め息をついた。

「私も無理だな……」

鳩羽もその隣で同意する。桔梗も「そうだろうな」と言う。

「言っただろう? 俺は慣れているからって。鳩羽達は初めての経験だろうから失敗して当たり前だ」

「そうかもだけど――」

あんな怖い思いはもうしたくない。

「桔梗くんは、その、どうやって慣れていったの?」

「そうだな……一番早いのは経験を積むことだけど、普段から周りを観察する癖をつけたり、体力をつけることは今もしている」

「やっぱり努力ねぇ。鳩羽、私達も頑張りましょう」

「うん」


 やがて白橡が戻ってきたが、彼は一人だった。

「あれ?皆は?」

紅樺が尋ねると白橡は事も無げに「置いてきた」と言った。

「え?」

鳩羽、桔梗たち三人は顔を合わせる。

「大丈夫、罠は仕掛けていないから。ただ洞窟から出てくるだけ。人数多いし、そのうち出てくるよ」

 そう言うと、白橡は地面に布を広げて寝転がった。「のんびりしてて。今日は自習だよ」なんて言った次の瞬間にはもう寝息を立てていた。

「……どうする?」

「いいんじゃないか、たまにはこんな日も」

桔梗も白橡の隣にころりと寝転がった。「じゃあ私も」と紅樺も横になる。

「鳩羽も寝ろよ。最近色々あって疲れただろ?」

桔梗のその言葉に苦笑いしつつ、首を横に振った。

「皆が出てくるの座って待ってるね」

「そう」

 それきり沈黙が落ちた。そっと見れば、桔梗も紅樺も目を閉じている。寝つきがいいんだな、と妙に感心して、鳩羽は空を見ながら、洞窟を見て、同級生が出てくるのを待った。




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