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紫の願い  作者: 沢森ゆうな
第一章:術使校編
23/59

二十

 日々の積み重ねは大事だ――その言葉が実感できるようになったのは本当にこの頃だ。


「もー、いっぱいいっぱいで解んない!!」


「どれが重要なんだ?」


「実技って体力試験か?」


試験の日程が発表され、その日付は二週間をきっていた。

その短さにざわついた生徒達に「実技内容は当日まで秘密だ」と鉄紺が言って、教室内がより騒がしくなったのは先日のことだ。


「困るわね、実技試験っていうだけでも難しいのに。勉強どうする?」


「う〜ん、もう諦めてしないかなぁ。試験結果が悪いからって進級できないことはないみたいだよ〜」


「そうね。今回は見送るかしら……でも実技だし体力作りはしておいた方がいいかも」


「うう、嫌だなぁ。でもあんまり点数悪すぎても嫌だし、うん、走る〜」


「鳩羽はどうする?」


二人の話を聞いていた鳩羽は急に話を振られて、一瞬考えた後頷いた。


「二人が走るなら、走る」


「そう。じゃあ授業の最後が体力作りの日はそのまま練習しましょ?」


「そうだねー。それ以外はお休みにしよ〜」


ちょうど翌日は体力作りの授業が最後だ。じゃあ明日からという約束をして、それぞれ部屋に戻った。



「うわー、きつい。きつい〜!」


次の日、厳しい紅緋べにひの体力作り授業が終わり、三人はそのまま残って走った。運動場を五週走った所で蜜柑が地面に座り込む。


「もー駄目。ごめん、先に戻っていい〜?」


「全然運動してないじゃない」


足を止めて蜜柑に近付いた紅樺が非難の声をあげるも、蜜柑は既にやる気がない。鳩羽も蜜柑がいるところまで走るとその場で足踏みをしたまま喋る。


「まあ、体力は人それぞれだし、ちょっときついもんね。また明日一緒に走ろう」


鳩羽はそう言うとまた走り出す。


「鳩羽を見習いなさいよ。じゃあまた明日ね」


紅樺もそう言うとまた走り出した。


「へへっ。ごめんねー、今度はちゃんと走るから〜」


蜜柑は嬉しそうに手を振って走り出す二人を見送ると、寮に戻るために腰をあげた。一緒に走らなくて申し訳ないとは思ったが、元々運動は苦手だ。それに、試験のためとは言え、たかが二週間でそう体力はつかない。


早々に諦めた蜜柑は明日からも何かにつけて走るのは五週ぐらいにしておこうと決めた。


「さってと〜、お風呂入ってのんびり皆と話しでもしてよーっと」


黙々と走っている二人を振り返らず、蜜柑は足取り軽く運動場を去っていった。



「っ、疲れたわね」


「うんっ、もう、今日はいいかな」


あれから時々休憩を挟みながらも走り込み、日が暮れた時点で二人は足を止めた。


「ちょっと走り込みし過ぎたかしら。明日筋肉痛だわ」


「うん、足が震えてる」


急に走るのを止めるのは良くないので、二人は話しながら運動場をもう一週して地面に座った。


「他に誰かしら走るかと思ったんだけど、誰も来なかったわね」


「うん、皆違う勉強してるのかな」


「そうかも。それか、違う場所で体力作りしてるのか……この学校は広いもの」


「そうだね――戻ろっか」


「そうね。お風呂行きましょ」


 太陽が周りの雲を赤く染めて、沈んでいく。

走って汗だくになって疲れ果てたけれど、とても気持ちがいい。紅樺と話しながら歩いていると向かいから見知った人影が歩いてきた。


「二人とも偉い」


「紅緋先生」


紅緋の手には飲み物が入った筒が二つ。それを鳩羽と紅樺に差し出した。


「水分補給はしっかりしなさい。あと、足の揉みほぐしも」


「ありがとうございます」


喉がからからだった二人は「いただきます」と言うと早速飲み物を口にした。


「美味しい」


「本当。これ何て言う飲み物なんですか?」


「レータ」


「あっさりしてて美味しいです」


「運動した後なんかに飲むといいわ。術使にはもってこいよ」



「……これ、自分達で作れます?」


「できるわよ」


「教えて貰ってもいいですか?」


「いいわよ……あんた名前は?」


「鳩羽です」


そう言うと紅緋は「ああ」と理解した様に頷いた。それから紅樺に目をやる。


「紅樺はどうする?」


紅緋の代わりに鳩羽が問うと、紅樺は少し考えた後に首を横に振った。


「料理とかは苦手なの」


「そう」


「じゃあ鳩羽は来なさい。今から教えるから」


「はい。じゃあまた明日ね」


「うん、作ったら味見させてね」


紅樺はそのまま寮に戻り、鳩羽は汗をかいたまま紅緋に着いていく。


「ちょっと待ってなさい」


紅緋は教員室に一旦入ると何やら紙を持って出てきた。


「ちょうど材料が切れてるから外の山に取りに行くわよ」


渡された紙には『外出申請』と書かれている。


「名前書いて」


「あ、はい。外出申請ってできたんですね…知らなかった」


「だって聞かれてないからね。新入生は多分あんた以外知らないよ」


島の中だけの外出であるが、この用紙に名前を書けばある程度自由に出ていいそうだ。


「訓練に使うから山、湖、森とあるんだよ。で、今から行くのは山」


紅緋は大きい門を開けて、足早に歩いていく。

 日はあっという間に暮れて一気に辺りは闇に包まれた。

鳩羽は慌てて最初に覚えた光の球を作り出した。




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