十一
「授業内容で不思議に思って。これは必要なのかなって思うのが多かったんです」
「で、調べようとしたの?」
「はい。だって接術の授業って後方攻撃に要らないですよね……?」
授業を受けていけば、必要性が解るかもしれない。でも、明確な理由が解らないまま授業を受けても勉強には励めない。
「貴女、名前は?」
「鳩羽です」
「色は?見せて」
言われて円を描いて見せると銀鼠は納得したかのように頷いた。
「紫系統なのね。いいわ、術使の仕事については私が説明するわ」
「ありがとうございます」
「長くなるから、そうね、ちょっとここに居てくれる?受付を誰かと代わってもらってくるから」
「あ、なら明日にでも…」
「遠慮して一日もやもやする?」
「……やっぱり今日お願いします」
その言葉を聞くと銀鼠は「じゃあ待ってて」と言い、部屋から出ていった。
「鉄紺」
銀鼠は教員室に入ると、麻の担任である鉄紺に声をかけた。
「貴方の組の鳩羽っていう子に話をしたいから、今から図書館の受付代わって」
それを聞いて鉄紺は今出てきた鳩羽と言う名の生徒を思い出そうとした。
「痩せすぎて顔色があんまり良くない子よ」
「お前、もうちょっと言葉を考えて言えよ。で、何をお前が何で話すんだ?」
銀鼠の言葉で思い出した。紫系統の生徒で貧しい身なりをしている子だ。生活をよくするために術使を目指したのだろう。そういう生徒は今まで何十人もいたし、今もいる。
そうしてそういう子ほど、術使には向いていない。
「術使の仕事を詳しく知りたいって。自分の知ってる術使に必要な知識と今日受けた授業内容がそぐわないから気になったらしいわよ」
「……そうか。なら俺が話そう」
今までこういう質問をしてくる生徒はいた。しかし、殆どの生徒は時間割のまま授業を受け、最初の模擬試験の時に本当の『術使』というものを知る。
模擬試験までの四ヶ月間、気になって質問してきた生徒と流されたままの生徒の差は大きく開く。
『今年は豊作だな』
そう言ったが、本当に豊作だったようだ。
(可哀想に)
鉄紺は悲しみを含んだまま笑った。