生命の秘宝
人間が住む界とは,また違う世界において偉大なる2つの存在の決戦が永久の時を経て幕を下ろした
偉大なる存在の決戦により,交わるはずのない人間の世界へと敗れし存在の魂が砕け散り降り注いだ
その魂は,様々な形に姿を変えて人間界に散らばった
それらは,相応しい担い手を待ち続けた
それを人はOパーツと呼んだ
それは唐突な事故だった
横断歩道を渡ろうと信号待ちをしているときに居眠り運転の大型トラックに弾かれたのだ
イヤホンで音楽を聴きながら情報端末に目を落としていた俺は全く気付かず,撥ねられた後に薬局の壁に叩きつけられた後,そのトラックが壁にめり込むほど突っ込んできた
即死だった
辺りには,俺の血とトラックの燃料がこぼれおちていた
その液体になんらかの火花が落ち,一気に周囲を炎が飲み込んだ
火はすぐに消し止められたが,俺の体は丸こげに成り目も当てられない状態になっていた
それを俺は半透明な体で脚もなく空中から眺めることしかできなかった
これからどうすればいいのか・・・
そんなことを悩んでいると世界が唐突に真っ白へと変貌した
「さて,不幸なる少年・・・こちらを向きなさい」
この体になって初めて声らしい声を聞いた気がする
俺はその声の方向へ振り向いた
その声の主は,見上げきれないほどの巨大で白が有色と思えるほどの純白な存在だった
「少年,君はついている
現在の君は死という状態にあり,この問答の後にその姿・・・魂が分解された後に新しい存在へと書き換えられる
しかし,君にはもう一つの選択肢がある」
その存在は,中性の声で体全体をしびれさせるような声だった
「この世に散らばりし,偉大なる魂のかけらを集めよ
その100個のかけらを集めきれたならば,私の力をもって君を蘇らせよう」
生き代え・・・る?
「さよう
もし,君が望むのならば・・・だが
残念なことに君に選択の時間はあまりない
この金貨が地面に落ちる前までに決定せよ
でなければ,この世界が君の分解を開始するだろう」
その金貨は天から降ってきていた
それはとても高く,高く・・・高く!?
「蘇りたいならば,その金貨を掴め!
落とせば死に,拾えば戦いに身を投じる
君の答えをそこに示せ!!」
天空から落下してきた金貨は次第に加速していく
死ぬか戦うか
今までの人生ではなかった選択肢だった
だが,でも・・・
答えは決まっていたのかもしれない
俺は,その金貨目掛けて手を伸ばしていた
「・・・君の選択,確かに受け取った
その褒美と言ってはなんだが,君に戦う力を授けよう」
俺の握りしめた金貨が熱を帯び始めていた
「我が力の1つ『意志の炎』を君に譲り渡す」
体に熱が戻っていく
脚がなかった体に脚が生えていく
「さて,これから君は・・・おっと,時間が来てしまったようだ
申し訳ないが,君には私の使いを残していく
残りのことはそれから聞いてくれ・・・では,武運を祈る」
そう響く声を最後に世界は元に戻った
「・・・ここは・・・」
気がつくともとの世界に戻っていた
服装も体も元通り・・・
「の,はずないでしょ?」
「うわっ!」
俺の耳元で声がした
「あら,驚かせるつもりなかったんだけど
私はマリィ,これから長い付き合いになると思うけどよろしくね
そういえば,あなたの名前は?」
マリィという女の声の存在は,俗に言う妖精のような両手の中に納まりそうなサイズの羽根の生えた女の子だった
「巧真だ,大木琢磨
まだ,さっきの意味を理解してないんだが・・・」
「タクマね
話すと長いんだけど,こことは違う世界で2つの偉大なる存在が戦ったの
私の主は,もう1つの存在に勝ったんだけど深手負ってしまい,相手の魂がこの世界に落ちるのを防ぐことができなかった
でも,この世界に主のような存在は居続けることができない
だから,あなたに白羽の矢がったの」
「なんで俺なんだ?
それに集めなくっても分解されるのでは?」
「あら,意外と対応力があるのね
まず,たいていの死んだ人間はすぐに分解が開始されるか,強い思いが呪いとなって呪縛霊となるかが大半なんだけど,稀にあなたみたいに純粋な魂の状態を保てる人間がいるの
さっきに主から1つの力をいただいたわよね?
それの受け渡しには,その純粋な魂の状態でないと行えないの
今,脚はあるわよね?
それは主の力をいただいた恩恵の1つよ
でも,今のあなたはこの世界の普通に生きている人間や生物には干渉できない
ほら,試しに壁に手を触れてごらんなさい」
言われた通り,壁に手を当てると感覚がなかった
スゥ・・・
それどころか手を押すとそのまま手が中まで入って行ってしまった
「今のあなたは半魂の状態
なんのイメージもなければなにも感じないけど,強いイメージがあれば空も飛べるようになるわ」
「空も・・・」
「先にもう1つの質問に答えるわね
偉大なる魂は,この世界では分解できないの
それに魂が悪しきものの手によって集められた時,その存在は蘇りこの世界を無に変貌させるでしょう
それは主にも止めることのできない,全ての終焉をもたらしてしまうことになる
それを防ぐために,あなたは選ばれたの」
「・・・なんか,話が大仰だな」
「まぁ,あなたは自分のために頑張ればいいのよ
じゃぁ,あなたが与えてもらった力をレクチャーしていくわ・・・」
ドォォォォオオオオオンン・・・・・・・
遠くのほうで何かが慄いた
「やばいわ・・・」
それは世界に衝撃を轟かせる力強い音だった
「一先ず離れましょう
このままだとみつかっちゃう・・・」
「―――転界」
先ほどの景色から一変し、人やその他のものの動きが停止し、色彩を色あせた
「おやおや~、なんか変な気配がしたかと思えば・・・」
細身の体に丸型のメガネをかけた男だけが通常の色彩を保っていた
「見つかった!?
走って!早く!!」
意味がわからなかった
マリィの言うとおり踵返して走り出す
「はっはっはっ、転界の境界に穴でも開ける気か?
逃がすと・・・思うか?」
ピィーン・・・
甲高い金属音が響いた
「目覚めろ、ゲオルギウス」
ドォォォォオオオオオンン!!
男の声に従い、何かが慄いた
バキバキバキバキ!!!!!
コンクリートの地面が砕けた
その下から大地が隆起し、男の周りに地柱が数本立つ
「Oパーツ、現象型・・・」
「これが僕の・・・俺の力だ・・・・逃がさないぞ!」
ザザザザザ!!!!!
隆起した地柱の1本が倒れながら砕け、無数の杭となって降り注ぐ
「避けて!
半霊体のあなたでも、あれをまともにくらえば消滅するわ!」
「先に言え・・!!」
全力で走った
速く・・・もっと速く!
地面を強く蹴り、速く足を回した
ドサァァァァァァアアッ・・・・
派手な土煙を巻き起こしながら、無数の杭が大地に突き刺さった
「死んだ・・・か?」
「はぁはぁはぁ・・・」
間一髪だった・・・
少しでも遅ければ飲み込まれていた・・・
「・・・・・・・いきだ」
男の目が充血していた
「生意気だ!!生意気だぞ!!!」
ブンッ!
男の片腕が動いた
バキバキバキバキ!!!
その動きに従って俺の左右を地柱が逃げ場をなくすように隆起する
「落ちろ!!!」
男の周りの地柱が砕けることなく、俺に向かって倒れてきた
「!!?」
俺はさらに後方へ逃げようと走り出した
バキバキバキ!!
それを阻むように地柱が隆起し、脱出経路が塞がれる
あとは、正面しか残っていないが地柱は目の前まで迫っていた
「イメージするものは炎!
生きたいという意志が力になる!!」
マリィの叫びが耳に、心に、魂に・・・響いた
生きたいという意志
それが俺の中で弾け、体に熱を生み出した
生きたい・・・生きたい・・・生きたい!
純粋な意志がその火種となり、拳に宿る
その間にも地柱は迫り、もはや動く余裕はなくなっていた
「どけぇぇぇえ!」
それは生きるための障害に向けた意志の発露
その意志に力が応え、拳から赤く輝く炎が地柱へと突き刺さった
みしっ・・・ペキペキペキ・・・
倒れ来る地柱が炎によってその勢いを止められていた
「ああぁぁぁぁああああああ!!」
バァァキィッッッ!!!
拳を振りぬくとともにその炎は地柱を叩き折った
「なっ・・・」
男の声が詰まった
「!?」
マリィにもそれと同様の衝撃が走る
剣が持つ力は『炎』であり、相手の力は『地』
このように自然の力を操る者同士の場合、属性の理が大きく関与する
火は風によりその存在を広げ
地は火によって力を強め
金は土から生まれ
水は金から恵みを受け
風は水より始まりを生む
実力が拮抗している場合、その属性の相性によって勝負が決まることも少なくない
「ぐっ・・・」
相手もそれを理解していたのであろう
自分にとって相性がいいはずの火属性の相手によって自分の力が粉砕された
その衝撃は、今後の力の仕様に何らかの影響をもたらしてくるだろう
おそらく相手は動揺している・・・これなら勝てる
マリィの頭にそれがよぎるが、相手の決断が早かった
「・・・」
バキバキバキ!!!
残りの地柱が倒れ土煙が立ち込める
ドサァァァァァァアアッ・・・・
土煙が視界を隠すと同時に世界に色が戻った