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五神の国―ギルド入局試験―

作者: 雪虫
掲載日:2011/10/07

これは、企画『五神の国』の小説です。

読む前に、ユーザページのリンク先のホームページにある【世界観】を拝見願います。


 とある山の奥。

 木々の生い茂ったその場所に、大きな黒い影があった。その主は巨大な熊である。

 しかし、それは大きさ以外にも普通のとは異なる所があった。

 両の腕に鋭い、刀のような鉤爪が光沢を放っている。

 名をグーズリーという。先程村を一つ滅ぼしてきた怪物エネミーだ。


 何かが近づいてくる、とグーズリーは直感した。半径二キロにも及ぶ嗅覚の範囲に侵入した者がいるのだ。

 グーズリーは侵入者の方向に頭を向けると、一直線に駆けだした。

 その巨体からは想像もつかないほど速く、途中で遮る木々は全て薙ぎ倒し、岩はその鉤爪で砕いて強引に撤去する。

 わずか二分で目的地に到着した。そこで一度止まり、足元に向かって拳を叩きつける。すると、その部分を中心に地面が抉られ、あたりの木々が次々と倒れていった。

 遮蔽物がなくなり、明らかになった周囲を見渡すと、グーズリーを見つめる若い男がいた。

 濁ったような灰色の長い髪を無造作に垂らし、サングラスをしていて顔の全景は見えない。不気味な男だった。

 男の存在を確認したグーズリーは、殲滅すべく彼へ向かって駆けだす。

 男はその光景を目にしつつ、懐から黒塗りの拳銃を抜きだした。


 銃は怪物エネミーに対して効果的だとは言い難い。

 大抵の脊椎動物が相手ならば、脳や心臓を撃ち抜けば直ぐに死んでしまう。だが、怪物エネミーはその限りではない。

 体に数か所風穴が空いてもどうということはないし、ものによっては頭を潰されても動き続ける。

 銃で撃ち抜くより剣で切り裂くほうが範囲面積が広く、より大きなダメージを与えることができる。故に、怪物エネミーを相手に銃を使う者は少ない。だが、男、いや、彼の持つ銃はその例から漏れていた。

 男が手にする拳銃は通常の銃とは構造が異なる。銃身に込めた魔力を各属性に変換し、それを銃弾として打ち出す。魔銃『グリフォン』、それが男の持つ対怪物エネミー用の銃の名だ。

 男はグーズリーに拳銃を向ける。引き金を引くと、魔銃は文字通り、火を吹いた。



 男の様子を上空から見る者がいた。

 水色の瞳に赤い髪。そして何より目立つのが、髪と同じ赤色の大きな翼である。

 ロート・アラエル。大陸一のギルド『ライゼ・フォルク』の役員だと魔銃の男は記憶している。

 男がグーズリーを仕留めたのを確認すると、鳥人は男の前へと降り立った。

「よ、お疲れさん。とりま、入局試験は合格だぜ。よかったなぁおい!」

 と、赤い鳥人は軽薄な笑みを浮かべながら言う。

「スゲーなぁ。名持ちの怪物エネミーをこうもあっさり倒すたぁー。ウチのギルドにだってこいつを単独で倒せる奴は半分もいねーっつぅのに」

 それは、裏を返せば半分近くがこのくらいの怪物エネミーは倒せるということだと男は気付いたが、特に気にはしなかった。男にとって、グーズリーなど倒せて当たり前の相手らしい。

「何の用だ、ロート・アラエル」

「何の用たぁー、酷いなぁ。俺はあんたの試験の監督をしてやってたんだぜ? そうそう、俺のことはローって呼んでくれ」

「そうか。で、ロート・アラエル、試験は合格か?」

 つれねーなー、とローはまた軽薄な笑みを浮かべて呟くと、少し表情に真剣さを交えた。

「監督者の一存で合格の安否を決めるわけじゃねーからハッキリとは言えねーけど、まーまず合格だろうよ。あんだけできりゃー寧ろ、B級への飛び級もありえるな」

「そうか」

 そう言って男は、踵を返して歩き始めた。

「おいおい、どこ行くんだよ」

「ライゼ・フォルクだ」

「そんなら、俺が運んでってやるぜ?」

「いらん」

 ローの申し出を軽くあしらうと、再び男はその場を去ろうとした。が、ローはまたもや男の退場を妨げた。

「まー待てって。俺も魔銃士だからわかるんだがよ、あんたの銃はちぃーとばかり魔力を吸いすぎだぜ。特別製って言うには危険過ぎるくらいになぁ。それじゃああんた、本部に着く前に魔力がなくなるじゃねえか?」

「……心配には及ばん。特別製なのは銃だけではない」

「へぇ」

 するとローは、興味深そうな、探るような目で見つめてきた。

 そういえば、彼も魔銃を扱うらしい。だが、男にとっては、魔銃士として(・・・・・・)の実力がどちらが上であろうと、関係のないことだった。

「他に用があるのか?」

「……ま、あんたが一人で帰るのは諦めるとして、だ。もう一つ、監督者の仕事が残ってるんだなー、これが」

「……何だ?」

「なぁに、そんな面倒なことじゃねぇよ。ただ、ちょっと登録に名前が必要だから、教えてくれっつーことだ。偽名でもいいぜ?」

 その質問に、男は数秒沈黙して、

β(ベータ)だ」

 と答えた。

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