五神の国―ギルド入局試験―
これは、企画『五神の国』の小説です。
読む前に、ユーザページのリンク先のホームページにある【世界観】を拝見願います。
とある山の奥。
木々の生い茂ったその場所に、大きな黒い影があった。その主は巨大な熊である。
しかし、それは大きさ以外にも普通のとは異なる所があった。
両の腕に鋭い、刀のような鉤爪が光沢を放っている。
名をグーズリーという。先程村を一つ滅ぼしてきた怪物だ。
何かが近づいてくる、とグーズリーは直感した。半径二キロにも及ぶ嗅覚の範囲に侵入した者がいるのだ。
グーズリーは侵入者の方向に頭を向けると、一直線に駆けだした。
その巨体からは想像もつかないほど速く、途中で遮る木々は全て薙ぎ倒し、岩はその鉤爪で砕いて強引に撤去する。
わずか二分で目的地に到着した。そこで一度止まり、足元に向かって拳を叩きつける。すると、その部分を中心に地面が抉られ、あたりの木々が次々と倒れていった。
遮蔽物がなくなり、明らかになった周囲を見渡すと、グーズリーを見つめる若い男がいた。
濁ったような灰色の長い髪を無造作に垂らし、サングラスをしていて顔の全景は見えない。不気味な男だった。
男の存在を確認したグーズリーは、殲滅すべく彼へ向かって駆けだす。
男はその光景を目にしつつ、懐から黒塗りの拳銃を抜きだした。
銃は怪物に対して効果的だとは言い難い。
大抵の脊椎動物が相手ならば、脳や心臓を撃ち抜けば直ぐに死んでしまう。だが、怪物はその限りではない。
体に数か所風穴が空いてもどうということはないし、ものによっては頭を潰されても動き続ける。
銃で撃ち抜くより剣で切り裂くほうが範囲面積が広く、より大きなダメージを与えることができる。故に、怪物を相手に銃を使う者は少ない。だが、男、いや、彼の持つ銃はその例から漏れていた。
男が手にする拳銃は通常の銃とは構造が異なる。銃身に込めた魔力を各属性に変換し、それを銃弾として打ち出す。魔銃『グリフォン』、それが男の持つ対怪物用の銃の名だ。
男はグーズリーに拳銃を向ける。引き金を引くと、魔銃は文字通り、火を吹いた。
男の様子を上空から見る者がいた。
水色の瞳に赤い髪。そして何より目立つのが、髪と同じ赤色の大きな翼である。
ロート・アラエル。大陸一のギルド『ライゼ・フォルク』の役員だと魔銃の男は記憶している。
男がグーズリーを仕留めたのを確認すると、鳥人は男の前へと降り立った。
「よ、お疲れさん。とりま、入局試験は合格だぜ。よかったなぁおい!」
と、赤い鳥人は軽薄な笑みを浮かべながら言う。
「スゲーなぁ。名持ちの怪物をこうもあっさり倒すたぁー。ウチのギルドにだってこいつを単独で倒せる奴は半分もいねーっつぅのに」
それは、裏を返せば半分近くがこのくらいの怪物は倒せるということだと男は気付いたが、特に気にはしなかった。男にとって、グーズリーなど倒せて当たり前の相手らしい。
「何の用だ、ロート・アラエル」
「何の用たぁー、酷いなぁ。俺はあんたの試験の監督をしてやってたんだぜ? そうそう、俺のことはローって呼んでくれ」
「そうか。で、ロート・アラエル、試験は合格か?」
つれねーなー、とローはまた軽薄な笑みを浮かべて呟くと、少し表情に真剣さを交えた。
「監督者の一存で合格の安否を決めるわけじゃねーからハッキリとは言えねーけど、まーまず合格だろうよ。あんだけできりゃー寧ろ、B級への飛び級もありえるな」
「そうか」
そう言って男は、踵を返して歩き始めた。
「おいおい、どこ行くんだよ」
「ライゼ・フォルクだ」
「そんなら、俺が運んでってやるぜ?」
「いらん」
ローの申し出を軽くあしらうと、再び男はその場を去ろうとした。が、ローはまたもや男の退場を妨げた。
「まー待てって。俺も魔銃士だからわかるんだがよ、あんたの銃はちぃーとばかり魔力を吸いすぎだぜ。特別製って言うには危険過ぎるくらいになぁ。それじゃああんた、本部に着く前に魔力がなくなるじゃねえか?」
「……心配には及ばん。特別製なのは銃だけではない」
「へぇ」
するとローは、興味深そうな、探るような目で見つめてきた。
そういえば、彼も魔銃を扱うらしい。だが、男にとっては、魔銃士としての実力がどちらが上であろうと、関係のないことだった。
「他に用があるのか?」
「……ま、あんたが一人で帰るのは諦めるとして、だ。もう一つ、監督者の仕事が残ってるんだなー、これが」
「……何だ?」
「なぁに、そんな面倒なことじゃねぇよ。ただ、ちょっと登録に名前が必要だから、教えてくれっつーことだ。偽名でもいいぜ?」
その質問に、男は数秒沈黙して、
「βだ」
と答えた。




