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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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裏切られ勇者は復讐をすることにした。

掲載日:2026/08/13


 空は、あんなにも透き通った青だったのに。


「ごめんね、カイト。君の力はもう、この国にとって強すぎるんだ」


 そう言って微笑んだ聖女リリアンの瞳に、かつての慈しみはない。あるのは、厄介な粗大ゴミを片付け終えた後のような、清々しいまでの充足感だった。


 勇者カイト。魔王を討ち、世界に平穏をもたらしたはずの男。今、彼は王城の地下深く、魔力封じの鎖に繋がれていた。四肢の腱は切られ、舌は魔法で焼かれている。声を出すことすら許されない。


 目の前では、かつての仲間たちが談笑していた。重騎士ボルドはカイトの聖剣を腰に下げ、魔導師セレナはカイトが命懸けで拾い集めた秘宝を「これ、売ったらいくらになるかしら」と品定めしている。


そして、リリアン。


 彼女の隣には、戦いには一度も参加せず、後方でふんぞり返っていただけの第一王子・エドワードがいた。エドワードの手は、当然のようにリリアンの腰を抱き、彼女もまた、うっとりとその胸に顔を寄せている。


「カイト、安心して。君の『伝説』は、私たちが綺麗に書き換えてあげる。君は魔王との激戦で死んだ、悲劇の英雄になるの」


 リリアンが唇を寄せる。それはかつて、戦場で見せた祈りの仕草。だが、その口から漏れたのは、愛の言葉ではなく、どろりとした毒だった。


「……本当はね、ずっと気持ち悪かったの。正義だの希望だの、暑苦しいのよ。エドワード様のような、血筋も品位もある方に抱かれている方が、女としてずっと幸せだわ」


カイトの視界が赤く染まる。


怒り? 悲しみ? 違う。


それは、あまりにも巨大な「理解」だった。


────────────────────

 ──────────────────


 三年が経過した。


 カイトは生きていた。いや、生かされていた。王国の地下、実験体として、「魔王の呪いを浄化する」という名目の、リリアンの「性」の捌け口として。


 エドワード王子との婚姻後、リリアンの聖女としての力は衰え始めていた。民衆の支持を繋ぎ止めるには、どうしても「元勇者」という生贄が必要だったのだ。


カイトの瞳からは光が消えていた。


 彼は従順だった。リリアンがどれほど彼を辱め、エドワードの前で犬のように扱っても、ただ静かにそれを受け入れた。


「あはは! 見てよリリアン、このかつての英雄を。今じゃ、僕たちの愛の営みを特等席で見守る、ただの肉塊だ」


エドワードの嘲笑。リリアンの嬌声。


 カイトは、ただ、床に落ちたパンの屑を拾い、口に運ぶ。だが、その胃の中には、パン以外のものが溜まっていた。


「復讐」。


 彼は密かに、魔力封じの鎖を「自らの血」で腐食させていた。焼かれた舌の裏で、禁忌の呪呪を練り上げていた。


 リリアンが彼に触れるたび、彼は彼女の体内に、微細な「種」を植え付けていた。


ある夜。


 リリアンは、カイトの首輪を掴み、耳元で囁いた。


「ねえ、カイト。最近、お腹が熱いの。エドワード様との愛の結晶かしら?」


 カイトは、三年間で初めて、口角を上げた。


声にならない声で、彼は言った。


『……おめでとう。それは、“俺”だ』


その瞬間、王城が、内側から爆ぜた。



◇◆◇


阿鼻叫喚の王城。


 だが、皆が期待したような「勇者の大逆転劇」は、そこにはなかった。


カイトは立ち上がった。


 しかし、その体はもはや人間の形をしていなかった。リリアンの胎内に植え付けた種。それは、かつて彼が討伐した「魔王」の残滓。


 カイトは復讐のために、自らを魔王の器として捧げたのではない。


彼は、リリアンを、そしてこの国すべてを「魔王の苗床」に変えたのだ。


「ああ……あああああッ!」


 リリアンの腹を突き破り、異形の触手が飛び出す。それはかつての仲間たち、ボルドやセレナを次々と絡め取り、ひとつの巨大な肉塊へと変えていく。


エドワード王子は、腰を抜かして漏らしながら、それを見ていた。


「カイト……ごめん。助けて……助けてよ……!」


リリアンが手を伸ばす。


カイトは、その手を優しく握りしめた。


 そして、彼女の耳元で、かつて彼女が言った言葉を返した。


「安心して。君の『伝説』は、俺が綺麗に書き換えてあげる」


 カイトの指先が、リリアンの瞳に突き刺さる。


悲鳴。絶望。裏切り。


ここで、ひとつの違和感に気づくはずだ。


 なぜ、カイトはこんなにも「楽しそう」なのか?なぜ、彼は自分を裏切った者たちを、殺さずに「ひとつ」にしているのか?



 実は、最初から、カイトは裏切られてなどいなかった。カイトこそが、最初から「魔王」だったのだ。


 彼は勇者というロールプレイを楽しみ、平和という飽きた玩具を壊すために、わざと仲間に「裏切らせるよう」仕向けた。


 リリアンがエドワードと浮気をしたのも、ボルドたちが彼を拘束したのも、すべてはカイトが彼らの精神を汚染し、誘導した結果に過ぎない。


 彼は「悲劇の主人公」を演じる快楽のために、世界を、仲間を、そして自分を騙し続けていた。


「最高のバッドエンドだろう?」


 カイト(魔王)は、肉塊となったリリアンたちの頂点に座り、どこかに向かって微笑む。


「君たちは、僕が復讐を果たすところが見たかったんだよね? でも残念。これは復讐じゃない。ただの『片付け』だよ」


世界は闇に包まれる。


聖女も、勇者も、正義も、悪も。


 すべては一人の男の「暇つぶし」という名の、あまりにも残酷なハッピーエンドの中に消えていった。カイトだけが、幸せそうに笑っていた。


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