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兪倩狼は方士の足を薙ぎ払い、蹌踉めいた身体を蹴り飛ばす。
体格の差はあるが、幸い、足元は雪で滑りやすい。
倒れ込む方士の身体に飛び乗った。
刃の切っ先が、ツ――、と、喉元に突きつけられるのとほぼ同時である。
方士が躊躇わず突き刺すつもりなら、むしろ捉えられたのは兪倩狼の方だ。
わら縄の端は巻き取られ、飛び退けてかわせるほどの長さもない。
しかし、兪倩狼には殺されないという勝算があった。
ふんっ――、と、方士を見おろす。
「たたりの発生源を、おさえたいって? ありがたいことにこの俺が欲しい情報を持っている。無闇に殺せるか? できないだろ。方士様は、職務に忠実な男らしいからな」
捉えたことを、逆に後悔させてやるつもりだった。
その得意げな顔を、方士の澄んだ瞳が真っ直ぐに見上げていた。
明月に漱がれた波のような色。
まるで深く、見られたくないところにまで食い込んでいくような気がして、兪倩狼は思わず目を逸らした。
「情報……、自白と、いうべきだろう。お前以外に生存者はいない」
声を荒げ、制圧しようと躍起になるかと思われた。ところが方士は掴みかかろうとせず、身体の力を抜いて横たわっている。
若ければ若いほど、職務に拘って取り乱すと予想していたのだが。
「……つまり、俺が発生源だと言いたいわけか」
「関係がないのなら、この辺りをうろつくはずがない」
方士の胸にまたがり、良い餌をぶらつかせて主導権を握っていたはずが、なぜか追い込まれていた。
太刀もすでに鞘の中だ。
察しがいいのか、どうやら思惑を読み取られている。
思い通りにならない苛立ちに、珊瑚色の唇を噛みしめる。
落ち着け、感情的になっては、隙を見せるだけだ。
「……関係しているかどうかを調べるのは、お前たちの仕事だ。その上で適切に処罰すればいい。こっちは情報をやるといっているだけ。縄と帛を外せ。逃げるだけなら、お前に構わずいつでも逃げられる」
「……晏渢」
長い沈黙の後、方士が短く呼びかけた。晏渢と、呼びかけられた少年が呆れた顔で太刀を抜く。
「やはり、所詮は二十歳の小僧。俺に恐れをなしたか」
外された縄を解き、ひょいと方士から退く。
起き上がろうとする若い方士をこれ見よがしに見おろした。
「方士様は、ありがたいお人だと後世まで伝えてやるよ。ご尊名を聞いてやろうじゃないか」
「夏羚だ」
囁くように応じる声に大きく頷きながら、
「名誉を重んじる優れた男だ」
と更に褒め称える。
「夏、それで、首の帛もとってくれるのだろう?」
これだけ持ち上げておいて有頂天にならないやつはいない。




