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1-4

 兪倩狼(ユイチェンラン)は方士の足を薙ぎ払い、蹌踉めいた身体を蹴り飛ばす。

 体格の差はあるが、幸い、足元は雪で滑りやすい。

 倒れ込む方士の身体に飛び乗った。

 刃の切っ先が、ツ――、と、喉元に突きつけられるのとほぼ同時である。

 方士が躊躇わず突き刺すつもりなら、むしろ捉えられたのは兪倩狼の方だ。


 わら縄の端は巻き取られ、飛び退けてかわせるほどの長さもない。

 しかし、兪倩狼には殺されないという勝算があった。

 ふんっ――、と、方士を見おろす。

「たたりの発生源を、おさえたいって? ありがたいことにこの俺が欲しい情報を持っている。無闇に殺せるか? できないだろ。方士様は、職務に忠実な男らしいからな」

 捉えたことを、逆に後悔させてやるつもりだった。

 

 その得意げな顔を、方士の澄んだ瞳が真っ直ぐに見上げていた。

 明月に漱がれた波のような色。

 まるで深く、見られたくないところにまで食い込んでいくような気がして、兪倩狼は思わず目を逸らした。

「情報……、自白と、いうべきだろう。お前以外に生存者はいない」

 声を荒げ、制圧しようと躍起になるかと思われた。ところが方士は掴みかかろうとせず、身体の力を抜いて横たわっている。

 若ければ若いほど、職務に拘って取り乱すと予想していたのだが。

「……つまり、俺が発生源だと言いたいわけか」

「関係がないのなら、この辺りをうろつくはずがない」


 方士の胸にまたがり、良い餌をぶらつかせて主導権を握っていたはずが、なぜか追い込まれていた。

 太刀もすでに鞘の中だ。

 察しがいいのか、どうやら思惑を読み取られている。

 思い通りにならない苛立ちに、珊瑚色の唇を噛みしめる。

 落ち着け、感情的になっては、隙を見せるだけだ。

「……関係しているかどうかを調べるのは、お前たちの仕事だ。その上で適切に処罰すればいい。こっちは情報をやるといっているだけ。縄と帛を外せ。逃げるだけなら、お前に構わずいつでも逃げられる」

「……晏渢(イェンフォン)

 長い沈黙の後、方士が短く呼びかけた。晏渢と、呼びかけられた少年が呆れた顔で太刀を抜く。


「やはり、所詮は二十歳の小僧。俺に恐れをなしたか」

 外された縄を解き、ひょいと方士から退く。

 起き上がろうとする若い方士をこれ見よがしに見おろした。

「方士様は、ありがたいお人だと後世まで伝えてやるよ。ご尊名を聞いてやろうじゃないか」

夏羚(シアリン)だ」

 囁くように応じる声に大きく頷きながら、

「名誉を重んじる優れた男だ」

 と更に褒め称える。

「夏、それで、首の帛もとってくれるのだろう?」

 これだけ持ち上げておいて有頂天にならないやつはいない。


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