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1-3

「生存者の確認を、」

 頭上に低く透る声を聞きながら、兪倩狼(ユイチェンラン)は自由を奪うわら縄に噛みついていた。

 縄の端は方士の手首に固く結ばれている。

 情熱的だな――


 まるで恋人を繋ぐようだと、苛立たしく舌を打つ。

 若い方士一人なら、あのときは逃げられると高をくくっていた。

 たかが二十歳の青二才。

 だがこの評価は、改める必要があるらしい。

 相手が少し、用意周到だったというだけ――

 たったそれだけなのだ。


「……この俺が、こんなざまを」

 納得しようとは思うが、やはり憎たらしい。

 あの剣の刃のように澄ました顔が余計に気に食わない。

 鼻筋の美しく、異国の血の混ざった顔である。

 ゆるやかに波打つ松花(しょうか)色の髪が、容貌の透明感を際立たせるらしい。

 両手を後ろにまわし、悠然と構えて報告を受ける姿の高貴さ。

 その方士がいくらか身体を揺らす度、髪を括る組紐の鈴が、清らかに凜と響く。


 方士が必ず身につける魔除けの鈴だが、あれではどこにいても位置が丸わかりである。

 飼い猫と大差はない。

 自身の首輪の惨めさを晴らすように鼻をならす。

 そのとき、空から別の少年が降ってきた。

 兪倩狼の見た目と同じ年ほどの、幼げな容貌を持つ少年の方士だった。

 落ち葉のように軽やかに着地したかと思うと、すかさず方士に進言した。


「村の生存者はあの少年の他にはみあたりません」

「うん……」

「必要なら、私があれを絶ちますが――」

 まさか、それにも「うん」と応えるつもりではないか。


 罹患者の病はただの病とは違う。

 たたりと呼ばれる伝染性の病で、方士がこのたたりを「払う」ではなく、「絶つ」と口にするのは、治療法が存在しないためである。

 感染の拡大を防ぐためには罹患者の生を絶つしか方法はない。

 罹患者の兪倩狼がその処罰から逃れ、しぶとく生き延びて来られたのは、まさにうぬぼれさせるには十分なのだ。

 死因を突き止める。ただその目的のためだった。

 しかし、と、兪倩狼は思う。

 方士が絶つというのなら、むしろ都合が良いのではないか。


 身体の自由を奪う縄も、首に巻き付く鬱陶しい帛も、方士の太刀でなければ解けない。

 わざわざ太刀を抜かせる手間も省けるわけだ。

 逃亡の策がたつ。

「……発生源を押さえたい、この少年の処罰は――」

 向けられていた方士の視線が逸らされた。

 瞼を伏せたその一瞬の隙を見て、兪倩狼はふっ、と高く飛び上がっていた。

 鈴――、


 魔除けと同時に、方士の象徴をあらわす。

 責務を負う人間であるなら、方士の誇りと等しい鈴を奪われて、黙っているはずがない。

 方士の頭上で身を捻り、松花色の髪を括る組紐を指先に絡めると、後ろ手に引き掴む。

 異変を察した方士が振り向きざま、兪倩狼に繋がっているわら縄を素早く巻き取る。

 すかさず、腰に帯びた太刀が抜き放たれた。

「指示に従わない場合、一定の懲罰は容認されている――、」


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