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「生存者の確認を、」
頭上に低く透る声を聞きながら、兪倩狼は自由を奪うわら縄に噛みついていた。
縄の端は方士の手首に固く結ばれている。
情熱的だな――
まるで恋人を繋ぐようだと、苛立たしく舌を打つ。
若い方士一人なら、あのときは逃げられると高をくくっていた。
たかが二十歳の青二才。
だがこの評価は、改める必要があるらしい。
相手が少し、用意周到だったというだけ――
たったそれだけなのだ。
「……この俺が、こんなざまを」
納得しようとは思うが、やはり憎たらしい。
あの剣の刃のように澄ました顔が余計に気に食わない。
鼻筋の美しく、異国の血の混ざった顔である。
ゆるやかに波打つ松花色の髪が、容貌の透明感を際立たせるらしい。
両手を後ろにまわし、悠然と構えて報告を受ける姿の高貴さ。
その方士がいくらか身体を揺らす度、髪を括る組紐の鈴が、清らかに凜と響く。
方士が必ず身につける魔除けの鈴だが、あれではどこにいても位置が丸わかりである。
飼い猫と大差はない。
自身の首輪の惨めさを晴らすように鼻をならす。
そのとき、空から別の少年が降ってきた。
兪倩狼の見た目と同じ年ほどの、幼げな容貌を持つ少年の方士だった。
落ち葉のように軽やかに着地したかと思うと、すかさず方士に進言した。
「村の生存者はあの少年の他にはみあたりません」
「うん……」
「必要なら、私があれを絶ちますが――」
まさか、それにも「うん」と応えるつもりではないか。
罹患者の病はただの病とは違う。
たたりと呼ばれる伝染性の病で、方士がこのたたりを「払う」ではなく、「絶つ」と口にするのは、治療法が存在しないためである。
感染の拡大を防ぐためには罹患者の生を絶つしか方法はない。
罹患者の兪倩狼がその処罰から逃れ、しぶとく生き延びて来られたのは、まさにうぬぼれさせるには十分なのだ。
死因を突き止める。ただその目的のためだった。
しかし、と、兪倩狼は思う。
方士が絶つというのなら、むしろ都合が良いのではないか。
身体の自由を奪う縄も、首に巻き付く鬱陶しい帛も、方士の太刀でなければ解けない。
わざわざ太刀を抜かせる手間も省けるわけだ。
逃亡の策がたつ。
「……発生源を押さえたい、この少年の処罰は――」
向けられていた方士の視線が逸らされた。
瞼を伏せたその一瞬の隙を見て、兪倩狼はふっ、と高く飛び上がっていた。
鈴――、
魔除けと同時に、方士の象徴をあらわす。
責務を負う人間であるなら、方士の誇りと等しい鈴を奪われて、黙っているはずがない。
方士の頭上で身を捻り、松花色の髪を括る組紐を指先に絡めると、後ろ手に引き掴む。
異変を察した方士が振り向きざま、兪倩狼に繋がっているわら縄を素早く巻き取る。
すかさず、腰に帯びた太刀が抜き放たれた。
「指示に従わない場合、一定の懲罰は容認されている――、」




