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は――、
と息を呑む間もなく、兪倩狼は引き倒されていた。
背に押しつけられた雪のつめたさと、肌に食い込む小石の、その鈍い痛みに悲鳴を上げる。
脳髄が眩むほど冷たい手。
首にその容赦のない手が絡みついている。
「……加減を、しらないのかよ、ばか力」
反射的にその腕を押し掴んだ。
若い方士だった。
色素の薄い髪を後ろに束ね、胸元に水色の絡子環を垂らしていた。
方術を極めた、国家の使、
やはり、方士――
方士の職務はたたりの調査と処罰の遂行。
迷わず追ってきたということは、この身体の異変を悟られた。
もっと早く立ち去るべきだったと、迂闊さを悔やむと同時に、逃げ道を探る。
まだ、仲間の方士は追いついてきていない。
この青年さえ立ち退かせられれば逃げきれる。
手の中に雪を掻き込んだ。
握り締めた雪塊は忽ち鋭い氷柱に変わっていく。
「反抗はするな、」
身体の上の、淡泊な青年の声だった。
兪倩狼は構わず氷柱を振り上げた。
その白い肌に傷を与えたと思ったのだ。
氷柱の先は、しかし彼の首筋を切り裂きはしなかった。
振り上げた腕はたちまち、胴にまきつくわら縄に捉えられていた。
握っていた氷はその時、すでに砂のようにぼろぼろと崩れている。
息吹をうみ、言葉を繰るのと同じように、死から蘇った兪倩狼が自然と身につけていた力。それがただの雪を刃に作り替えた。
妖術だ。
その妖術が、封じられた――
二十歳と二十五では経験の差は埋められない。劣るはずがないと自負していた。
それなのに――
妖術を放出しようとするが、身体は途端に鈍痛に縛られた。縄さえ引きちぎられない。
焦燥に駆られた思考が、首筋に触れた冷たさに乱された。
「う……っ、」
青年の、探るような指先だった。
その感触に吐息が漏れる。
器官の一つ一つに痛覚として沁みとおるほどの冷たい指先。
「ッ……、」
「……方士の規定に則り、お前を捕縛する」
ひりつくような肌の違和感に、唇の端から零れる声をかみ殺しながら、ふと、これかと、妖力を封じる正体に気づく。
――随分と用意がいい。
方士の用いる、布。帛と呼ばれるものだった。
それが首に巻き付けられたのだ。
だが、なぜ首に。
これではまるで――、
方士の目にうつるのは、首に帛をつけられた兪倩狼の姿。
その屈辱的な姿に気をとられて、突然、ぐい、と、縄を引っ張る力に引き起こされた。
青年の目に、隠していた銀色の耳が露わになる。
「妖力を封じる、」
淡々として冷たく、澄んだ顔で彼は告げる。
「――首輪だ」
尾てい骨から伸びる豊かな尾が、言葉を耳にした途端、苛立たしげに膨らんだ。




