表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

1-2

 は――、

 と息を呑む間もなく、兪倩狼(ユイチェンラン)は引き倒されていた。


 背に押しつけられた雪のつめたさと、肌に食い込む小石の、その鈍い痛みに悲鳴を上げる。

 脳髄が眩むほど冷たい手。

 首にその容赦のない手が絡みついている。


 「……加減を、しらないのかよ、ばか力」

 反射的にその腕を押し掴んだ。

 若い方士だった。

 色素の薄い髪を後ろに束ね、胸元に水色の絡子環(らくすかん)を垂らしていた。


 方術を極めた、国家の使、

 やはり、方士――

 方士の職務はたたりの調査と処罰の遂行。

 迷わず追ってきたということは、この身体の異変を悟られた。


 もっと早く立ち去るべきだったと、迂闊さを悔やむと同時に、逃げ道を探る。

 まだ、仲間の方士は追いついてきていない。

 この青年さえ立ち退かせられれば逃げきれる。

 手の中に雪を掻き込んだ。

 握り締めた雪塊は忽ち鋭い氷柱に変わっていく。


「反抗はするな、」

 身体の上の、淡泊な青年の声だった。

 兪倩狼は構わず氷柱を振り上げた。

 その白い肌に傷を与えたと思ったのだ。


 氷柱の先は、しかし彼の首筋を切り裂きはしなかった。

 振り上げた腕はたちまち、胴にまきつくわら縄に捉えられていた。

 握っていた氷はその時、すでに砂のようにぼろぼろと崩れている。

 息吹をうみ、言葉を繰るのと同じように、死から蘇った兪倩狼が自然と身につけていた力。それがただの雪を刃に作り替えた。


 妖術だ。

 その妖術が、封じられた――

 二十歳と二十五では経験の差は埋められない。劣るはずがないと自負していた。

 それなのに――


 妖術を放出しようとするが、身体は途端に鈍痛に縛られた。縄さえ引きちぎられない。

 焦燥に駆られた思考が、首筋に触れた冷たさに乱された。

「う……っ、」

 青年の、探るような指先だった。


 その感触に吐息が漏れる。

 器官の一つ一つに痛覚として沁みとおるほどの冷たい指先。

「ッ……、」

「……方士の規定に則り、お前を捕縛する」


 ひりつくような肌の違和感に、唇の端から零れる声をかみ殺しながら、ふと、これかと、妖力を封じる正体に気づく。

 ――随分と用意がいい。

 方士の用いる、布。(はく)と呼ばれるものだった。

 それが首に巻き付けられたのだ。


 だが、なぜ首に。

 これではまるで――、

 方士の目にうつるのは、首に帛をつけられた兪倩狼の姿。

 その屈辱的な姿に気をとられて、突然、ぐい、と、縄を引っ張る力に引き起こされた。


 青年の目に、隠していた銀色の耳が露わになる。

「妖力を封じる、」

 淡々として冷たく、澄んだ顔で彼は告げる。

「――首輪だ」

 尾てい骨から伸びる豊かな尾が、言葉を耳にした途端、苛立たしげに膨らんだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ