表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

 ひとさかりの初夏のざわめきは、まったく時節外れの雪の重みの下であった。

 珊瑚色の唇を湿らせる兪倩狼(ユイチェンラン)の吐息が、時折(あらた)まるような静けさをさらい、他に音という音は何も聞こえない。

 湿っぽい雪が降り敷く、珍しく風の凪いだ午だった。日没にはまだいかにもはやい。けれど、虫の唸りも鳥のさえずりも、すべて雪の下に閉ざされながら、その亀裂はまるで残照に照りついた波の端のように、雪を割ってそこにひたと走っている。

 紫瑪瑙の罅と兪倩狼は思う。

 そこは十年前、奇しくも一度命を落とした丁度真上のように思われた。

 死因の手がかりかと疑い、薄汚れた鶯色の外衣が雪でまっ白に凍り付くのも気づかなかった。

 冷たい雪のにおいばかりがあたりに立ちこめているのだから、なおさら人のにおいさえ、とりこぼしたようだ。

 人の気配をとらえたとき、兪倩狼はほとんど無意識に身体を隠していた。

 雪に煙った白原にうごめく、まるで黒ずんだ染みのような人影。

 外衣の下の耳さえ気がつかないほど、瑪瑙の亀裂に没頭していたらしい。

 人影はどうやら数人の男たちで、胸元に見える絡子環(らくすかん)は、方士を示す水色のようだ。

 ――見つかるのは、厄介だな、

 かおるような緑の瞳に、焦りが滲む。

 間が悪いとばかりに舌を打ち、兪倩狼は身を潜めたまま素早くその場を後にした。

 罹患者の処罰のために派遣された方士だろうとあたりをつける。何日か滞在するはずだ。

 しばらく身動きが取りにくくなる。死因を探るのも、一旦はお預け。塒で暇を持て余すしかない。

 足早に道を引き返していたときだった。身体を射貫く鋭い気配が、すでにそこまで迫っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ