1
ひとさかりの初夏のざわめきは、まったく時節外れの雪の重みの下であった。
珊瑚色の唇を湿らせる兪倩狼の吐息が、時折革まるような静けさをさらい、他に音という音は何も聞こえない。
湿っぽい雪が降り敷く、珍しく風の凪いだ午だった。日没にはまだいかにもはやい。けれど、虫の唸りも鳥のさえずりも、すべて雪の下に閉ざされながら、その亀裂はまるで残照に照りついた波の端のように、雪を割ってそこにひたと走っている。
紫瑪瑙の罅と兪倩狼は思う。
そこは十年前、奇しくも一度命を落とした丁度真上のように思われた。
死因の手がかりかと疑い、薄汚れた鶯色の外衣が雪でまっ白に凍り付くのも気づかなかった。
冷たい雪のにおいばかりがあたりに立ちこめているのだから、なおさら人のにおいさえ、とりこぼしたようだ。
人の気配をとらえたとき、兪倩狼はほとんど無意識に身体を隠していた。
雪に煙った白原にうごめく、まるで黒ずんだ染みのような人影。
外衣の下の耳さえ気がつかないほど、瑪瑙の亀裂に没頭していたらしい。
人影はどうやら数人の男たちで、胸元に見える絡子環は、方士を示す水色のようだ。
――見つかるのは、厄介だな、
かおるような緑の瞳に、焦りが滲む。
間が悪いとばかりに舌を打ち、兪倩狼は身を潜めたまま素早くその場を後にした。
罹患者の処罰のために派遣された方士だろうとあたりをつける。何日か滞在するはずだ。
しばらく身動きが取りにくくなる。死因を探るのも、一旦はお預け。塒で暇を持て余すしかない。
足早に道を引き返していたときだった。身体を射貫く鋭い気配が、すでにそこまで迫っていた。




