第十二章 鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい②
私の隣に腰を下ろしながら、彼が私の顔を覗き込んでくる。
「ずいぶん顔色が良くなった。欲を言うなら明日一日は休んだほうが良いのだけど」
「大丈夫です、もうすっかり元気ですから。高柳さんのおかげです。本当にありがとうございました」
連休最終日に体調回復できたのは本当に彼のおかげだと感謝の気持ちを伝える。
「すみませんでした色々とご迷惑をおかけしてしまって……」
「迷惑なんて掛けられていないぞ?具合の悪い妻の世話をするのは、夫の役目だろ?」
甘く微笑みながら首を傾げる彼に心臓がどきんと跳ねて、私は慌ててそこから視線を剥がした。
逐一こんなふうに色気たっぷりの甘い瞳で見つめられて、このままだと心臓が持ちそうにない。
うっすらと色付く頬に気付かれたくなくて視線を逸らし、「妻ではありませんよね?」と口にする。
「俺にとって雪華は妻なのだが……嫌か?」
「い、嫌かって……」
そんなこと聞かれても困る。
嫌どころか、うれしすぎてどうしたらいいのかわからなくなる。
「こんなに可愛い妻がいたら、毎日楽しいだろう?」
「かっ、」
“可愛い”なんて言われ慣れない言葉に絶句する。
みるみる顔が真っ赤になるのが自分でもわかって、思わず下を向いた。
「顔が赤いぞ? また熱が上がってきたんじゃないか?」
俯いていた私の額に高柳さんの手が当てられた。その手は大きくてとても暖かいけれど、触れられると脈拍が上がるから、そっちのほうが体に良くない気がする。
「だ、大丈夫です」
真っ赤な顔のまま私がそう言うと、高柳さんはくすくす笑いながら「そうか?」と私の額から手を引いた。
楽し気に笑う彼の表情は昔サークルで目にしたものと同じ、気持ちのこもった笑顔。
その笑顔は私の心臓をドキドキと鳴らせ、まるで初恋のあの時に戻ったように甘やかにときめいてしまう。
私はそんな彼の看病を受けながら、自分の気持ちに目を背けることが出来なくなった。
(私は……高柳さんのことが好きなんだわ……)
再会してからとっくの昔に、彼へ気持ちが向いていたのに、私はそれを見ないふりして蓋をした。
昔振られた相手だからだとか、自分には分不相応だとか。
そんな理由を並べてみたけれど、結局私はまた振られるのが怖かったのだ。
好きな人と一緒に暮らす喜びを覚えてしまった後、また一人に戻るのも怖かった。
でも、そんな私の気持ちを変えるほど、彼は甘くなった。
その言動が砂糖を煮詰めたシロップのようで、とにかく甘いのだ。
「どうして、いきなりそんなふうに……なったんですか?」
顔の熱が少し引いた私が、おずおずと尋ねると、「そんなふうって?」と高柳さんは小首を傾げた。
「かっ……かわいいとか……そんなこと、今まで言わなかったでしょう?」
「まあ、そうだな。これまでは仕事に集中するため、出来る限り余計なことを考えないようにしてきた。けれど、もういいかと思って」
「もういい?」
「ああ。もうプライベートは遠慮なく自分の思った通りにしたい。これまでも義父の期待に応えられる仕事はしてきたし、雪華が一緒なら今まで以上に頑張れるから」
「私は何も……」
彼の仕事に貢献できるようなことは何もしていない。むしろ私のほうがお世話になりっぱなしだった気がする。
そんなことを考えていた私の頭を、ポンポンと大きな手が撫でた。
「仕事中は隙のない出来る女が、家ではこんなふうに可愛らしいんだ。素直に可愛がらないともったいないだろう? だめか?」
「だめ、とかじゃない…ですけど……」
「けど?」
「……はずかしい……ので、」
尻すぼみになりながら小さな声でそう言った私に、一瞬目を見張った彼は、突然私を抱きしめた。




