第十二章 鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい①
私は結局三日間寝込んだ。
発熱した翌日は土曜日で、目が覚めると高柳さんが車で病院へ連れて行ってくれた。
診断結果は過労からくる風邪。
環境の変化や仕事の忙しさの上に、矢崎さんとのことがあって精神的にもダウンしてしまったのだと思う。
薬を処方されて帰宅した私は、すぐさまベッドへ直行させられ、それからずっと高柳さんの甲斐甲斐しい看護を受け、連休最終日の今日、無事熱は下がった。
彼からの告白の後、眠ってしまった私が次に目を覚ました時、すでに起きていた彼がやってきて、飲み物をくれたり私が起き上がったり横になったりする手助けをしてくれた。
少しでもベッドから出るとすぐに駆けつけて、ふらつく私を抱きかかえてトイレまで連れて行ってくれたのには驚いたし、さすがに着替えまで手伝おうとしてくれた時は、恥ずかしさのあまり涙目で断固拒否した。
食事は最初、作ってもらったおかゆをベッドで食べたけれど、熱が下がり始めた二日目からはベッドから出て食べた。その時も、楽だからとソファーを勧められそこで食べ、そのままソファーでうとうとと眠ってしまった私。夜中に目を覚ますといつのまにかベッドの中で、隣には眠っている彼が。それに驚きながらも、私は内心ほっと安堵し、その温もりを感じながらもう一度眠りに落ちた。
こんなふうに明らかに熱を出すのは母が亡くなって以来初めてのことで、熱のせいなのか何なのか、自分でもよく分からないほど感情の制御が利かなくなって、小さなことで涙が止まらなくなった。
熱々のおかゆに、舌を火傷して――
はちみつレモンが、思いのほか酸っぱくて――
目が覚めたら、真っ暗な部屋に一人ぼっちで――
そんな些細なことでぐずぐずと涙をこぼす私に、高柳さんは呆れることなくその都度私の肩を抱いたり頭を撫でたりして、私が落ち着くのを静かに見守ってくれていた。
母が亡くなり、ほかに頼れる身寄りのなかった私は、これからは自分の足で立って生きていかなければならないと自分に言い聞かせてきた。だから仕事も人一倍頑張ったし、少しくらいの体調不良なら気合で乗り越えることも出来た。
けれど彼の甘さと温もりを知ってしまった今、体調が回復してもそのネジを締めなおすことが出来るかどうか……自分にも分からない。
『今は元気になることだけ考えたらいい』
高柳さんはその言葉通り、あれから私に何も言わない。
大学時代の私の告白のことも、彼の告白も。もしかしたら熱に浮かされて見た夢なのかもしれない。
けれど私がそんなふうに考えるたびに、彼の変化がそうではないと物語る。
それがなければ、私は彼が“病気の人間を放っておけない優しい人”だからと自分を納得させたと思う。
その変化とは――
「雪華。冷えるとまた熱がぶり返す」
ふわりと肩からブランケットを掛けられた。
解熱した今日、三日ぶりの湯船が気持ちよくてうっかりのぼせ気味になってしまい、ソファーで熱気を冷ましていたのだ。
「ありがとうございます」
ブランケットをきちんと掛けなおしてお礼を言うと、にっこりと微笑んで、「どういたしまして」と返された。
私のことを名前で呼ぶようになった彼は、鉄壁統括の呼び名が嘘のように、はっきりと感情の分かる表情を見せてくれるようになったのだ。




