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第十章 決起会⑥

「たすけて――高柳さんっ!」


「おまえっ」


突然の私の叫びに、矢崎さんが焦ったように私の口を塞ぎにかかる。

封じられていた両手が解けたのと同時に、私は思いっきり目の前に手を突き出した。


その手はちょうど矢崎さんの顔面を直撃した。

何も考えずに力いっぱい突き出したものだから、相当痛かったのだろう。悶絶するように顔を抑えて呻いているその隙に、彼と壁の間から抜け出ようと試みる。


あと少しですり抜けられると思ったその時、私の腕は再び矢崎さんに捕えられた。


「っ……やってくれたな……」


怒りの滲んだ声。

掴んだ手で私の腕をギリギリと締め付けられ、痛みに顔が歪む。


「甘くしてりゃ、つけあがりやがってっ……」


怒鳴り声と同時に振り上げられた手に、身を竦ませギュッと目を瞑った。

振り下ろされると覚悟して衝撃に身構えた。


が、一向にそれは訪れず、数秒経ったのちにそっと目を開いた。


私の目に飛び込んできたのは、これまで見たことのないほど恐ろしい顔をした高柳さんだった。


「何をしている」


低く呻る声が、薄暗い部屋に這う。


矢崎さんが振り上げた手を高柳さんが掴んでいる。


「今、青水に何をしようとした」


もしも視線が凶器になるとしたら、きっと矢崎さんは一瞬でやられていただろう。それほどの威力を持った鋭い目で、高柳さんは矢崎さんを睨みつけていた。

射殺されそうな視線で見下ろされている矢崎さんは、ひるんだ表情をして固まっている。


「その手を離せ」


「うっ」


矢崎さんが顔をしかめて呻ったので、高柳さんが掴んだ手に力を込めたのが分かった。


「今すぐ青水を離すんだ」


掴まれていた腕が解放され、締め付けられる痛みが消える。もうこれ以上立っていられなかった私は、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。


高柳さんは矢崎さんの腕を掴んだままこちらをチラリと目だけで見た。


「こ……こいつが誘ってきたんだ」


矢崎さんの台詞に両目を見開く。

何を言っているのか、意味が分からない。


「昔付き合っていた俺のことを、こいつが未練タラタラで誘ってきたんだ。だから相手をしてやっていただけだ」


「なっ、」


事実無根のことを言われ、頭が真っ白になる。否定したいのに、あまりのことに反論の言葉が出ない。

私が反論しないのをいいことに、矢崎さんは勝手な言葉を連ね続ける。


「真面目な顔で純情ぶって、男を引っかけるのがこいつの手口なんですよ。そりゃ、会社でうっかり引っ掛かった俺も少しは悪いんでしょうが、別に大したことはしていませんよ」


つらつらと早口で述べた言葉はどれも真実ではなくて、私は「違う!」と叫びたいのに張り付いたように喉が開かず、ただ弱々しく頭を左右に振ることしか出来ない。


「高柳統括もこいつに(たぶら)かされたんでしょう?仲間なんだから見逃してくださいよ」


ニヤニヤと笑いながら矢崎さんが放った言葉に、私の中の何かの回線がブチッと切れた音がした。


「いいかげんに――」

「言いたいことはそれだけか」


私の言葉に低く呻る声が被さった。


「お前の言いたいことはそれだけか!」 


見上げると、さっきよりももっと怒りをあらわにした高柳さんが、矢崎さんを正面から睨みつけていた。

矢崎さんはさっきとは打って変わって言葉に詰まっている。


「お前がどんなことを言い連ねようと、本当かどうかなんて、彼女を見れば分かる」


「それはっ、高柳統括がこいつに騙されているからで」


「黙れ」


冷え冷えとした声が、全ての雑音を一蹴する。



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