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第十章 決起会③

***



『――皆さんご承知のように、今年は我がグループの周年イヤーとなります。その特別企画となる【TohmaBeer-Hopping】は、Tohmaグループ全体の更なる発展を遂げるため――』


スピーカーから高柳さんの声が会場全体に響き渡る。

私は壇上で開催の挨拶をする彼を、斜め後ろ、司会の立ち位置から見つめていた。


明け方近くまで高柳さんの帰宅を待って起きていた私は、結局一睡も出来ないままこの決起会を迎えた。



会場となる本社のレセプションホールには、グループ各社総勢百十五名が一堂に会している。

その中にはトーマビールやトーマ飲料の社長の姿、そしてその中にはTohmaグループホールディングスの、当麻代表取締役社長兼CEOの姿もあった。


ホールの中のテーブルにはケータリングフードとドリンクが並べられていて、ドリンクはもちろん自社グループ各社のもの。立食スタイルで食事とドリンクを楽しみながら、一時間半ほどの間、自由に意見を交わしながらこの夏に向けての士気を高めて行くことが目的だ。


『――この決起会を機に、心を一つにしてグループの垣根を超えた連携でプロジェクトを成功させましょう! それでは乾杯』


会場の人が皆、手に持ったグラスを掲げ乾杯した。


始まってからしばらくの間、会が円滑に進んでいるか様子を見ながら色々な人のところへ挨拶に回った。


高柳さんとは別行動なので一緒の輪で話すことはない。むしろ本部の人のいない所や単独でいる人を探して声を掛けていたので、彼とは一緒になっていない。けれど、人の輪の中に居てもなぜかそのうしろ姿が目について、そちらを見ないようにすることに気を遣う。


そして、私が気を遣うもう一つの原因は――


「主任――大丈夫ですか?」


そっとすれ違いざまに幾見君が声を掛けてくれる。


「ええ。今のところは何も。私も気を付けているし」


一瞬だけ視線を向けた先には、矢崎さんの姿があった。


あれ以来、矢崎さんと顔を合わせるのは初めてになる。

幾見君は警戒してくれているが、こんな人の多い、しかも重役や社長まで揃った場所で、プライドの高い矢崎さんが自分の不利になるようなことをするとは思えない。


「そんなことよりも今はこの会が大事よ?」


「分かってます……でも」


「大丈夫。さ、私のことはいいから」


渋る幾見君を促すように会場の輪に戻し、私もまた別の輪へと足を向けた。




決起会はそのまま無事に終えた。


五時半に閉会して、そのまま二次会へと外へ繰り出して行く人も大勢いたが、私達本部チームは会場の後片付けに追われる。

主催側なのでアルコールは口にしなかった。もちろん義務ではないので、幾見君や大澤さんには適度に飲んでも良いと言ってある。こういう場ではお付き合いも大事な仕事。私の企画リーダーの立場で無ければ飲んでいただろう。


高柳さんはCEOと常務の見送りに出たまままだ戻ってきていない。

幾見君にはケータリング手配全体を任せてあって、今日この後ケータリング会社のスタッフが回収に来る手はずになっているので、運び出す物を裏手にまとめて持って行って貰っていた。

総務から助っ人に来てくれていた社員は、既に定時で引き揚げて貰っている。


「大澤さん、時間は大丈夫ですか?」


「はい。今日は前以て申請してありますから」


「助かります」


人手が欲しい今、こうして大澤さんが残業してくれるのが本当にありがたい。こういう、ここぞという時にこちらからお願いしなくても手を貸してくれる気遣いが、本当に大人だと思う。


「これを返却したらもう終わりです。大澤さんはもう上がってくださいね」


片付けをほぼ終え、レセプションホールの鍵を胸の前でぶら下げると、大澤さんが「了解です」と頷いた。


「主任、お疲れみたいですから、連休の間しっかり休んでくださいね」


大澤さんは自分の目元を、ちょんちょんと指差した。


一瞬何のことか分からなかったが、すぐに理解して頬がじわっと熱くなる。

私の目の下の隈は、化粧では隠しきれなかったようだ。


「分かりました」


大澤さんに別れを告げると私はエレベーターホールへと向かった。



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