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第八章 鉄壁上司の独占欲④

***



パタン――

ドアが閉まるその音を、私は大きな温もりに包まれながら聞いた。


何が起こったのかすぐには理解できない。


センサーポーチライトだけが私達の足元を照らす真っ暗な玄関。

分厚いコートを着ているのに、私の体をすっぽりと包んでいるものが堅く逞しいことが伝わってくる。

その腕に少し苦しいくらいにぎゅっと力を込められた時、私は高柳さんに抱きしめられているのだと、初めて理解した。


カッとつま先から頭まで、まるで火が点いたみたいに熱くなって、心音がどんどん大きくなっていく。ハッと息を吸い込んだまま口を開くことすら出来ない。頭の中は真っ白だ。


耳の先に当たった吐息に肩を竦ませた瞬間、低い声が鼓膜を震わせた。


「――と付き合っているのか?」


「え」と言おうとしたが音にはならなかった。背中に回された腕に力が込められる。


「幾見と付き合っているのか?」


「っ!」


「それともこれからか?」


畳み掛けるように問う高柳さんは、私に返事をさせる隙を与えない。


私も彼の言うことに驚いてしまって、頭の中では「ちがう」と叫んでいるのに声に出すことが出来ずにいた。


吐きだせない言葉の代わりに涙が浮かび、視界が歪んでくる。

戦慄く唇を強く噛みしめた時、低く呻るような声が耳のそばで聞こえた。


「矢崎にはさせなかったキスを……幾見とはしたのか?」


「ちがっ」


あまりのことに反射的に顔を上げると、すぐ目の前に彼の顔があった。

あと数センチで唇が触れそうなほどの距離に、微動だに出来なくなる。


私を見下ろす瞳は鋭いのにどこか苦しげで、まるで彼が傷を負っているかのよう。

眉を寄せ辛そうに歪ませた顔に、思わず私は手を伸ばした。


けれどそれを途中で止める。


いったい私は彼のどこに触れようしているのか。いったい何に触れたいのか――。


自分の行動に戸惑った私が宙で止めた手を引き戻そうとした時、高柳さんの手が私のその手を摑まえた。

そして私の指先に彼は自分の唇を押し当てた。


「……っ!」


冷たい指先が触れられた場所からどんどん熱を帯びてくる。


生まれて二十七年間、一度だけしか感じたことのない異性の唇。

そのたった一度の経験と同じ、いやそれ以上の熱を同じ人が私に与えている。


伏せられている睫毛が揺れる。それは男性のものとは思えないくらい長くて艶やかだ。

シミ一つないなめらかな肌、スッと通った鼻筋、赤くて薄い唇は、思っていたよりも柔らかくて――


私は真っ赤な顔を隠すことすら忘れて、至近距離にある彼の顔に釘付けになっていた。


指先から手のひらへ、這うように唇が移動した。

体が勝手にビクリと跳ねる。

もはや掴まれたその手は熱すぎて、まるで燃えているかのよう。


その時、伏せられていた瞳がゆっくりと持ち上がり、私を射抜いた。


「まだだ――」


私の手のひらから少しだけ唇を浮かせた彼が言った。

かすかに唇の先が手のひらに触れ、そのたびに甘い痺れが体に走る。


私を射抜いた瞳は濡れたように光り、一ミリも逸らすことを許さない。


「まだお前は俺の妻だ。他の男にはやらない」


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