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第八章 鉄壁上司の独占欲②

***



残業後の午後七時。

慌ただしい平常運行の業務に追われて、毎日があっという間に経つ。


自社ビルを後に、駅までの道を歩く。陽が暮れて暗くなった歩道を、街路樹に施されたLEDがキラキラと照らしている。


結局あれから矢崎さんに返信をしていない。


(避けてないで一度きちんと話した方がいいのかもしれない……)


これから顔を合わせる機会が増える彼と、気まずいまま仕事をしたくない。


(私が逃げるから面白がって追ってくるのかも……)


付き合う前から感じていたが、彼はプライドが高いタイプで、自分が袖にされることが気にくわないのだろう。しかも昔自分が振った女に。


(明日きちんと返信をしよう)


そう思ったその時、後ろからぐっと肩を掴まれた。


「わっ」


驚いた声を上げると、後ろから「俺だ」と声がした。


「やっ、矢崎さん!」


「久しぶりだな」


「ど、どうして……」


「いつまで待っても誰かさんが連絡先を教えないからな。とうとう会社のメールまで無視しやがるし」


「え、っと…その件でしたら、明日改めてきちんとご連絡を入れようと――」


「もういい。俺がこうして直接来たんだ。行くぞ」


「あっ、ちょっ!」


私の手首をグッと握ると、矢崎さんはそのまま歩き出した。


「ど、どこに」


「二人きりで話が出来るところだ」


有無を言わさずグイグイと進んで行く矢崎さんを止めようと、足に力を入れて踏ん張るが、しょせん男性の力には勝てるはずもない。引きずられるようにして私は進んで行く。


「ちょっと待ってくださいっ」


きちんと話しをしなければいけないとは思っていたが、こんなに急にしかも一方的にどこかに連れて行かれるなんて不安しかない。

なんとか踏みとどまろうとすると足がもつれ、体がよろめいた。


「きゃっ」


転びかけた私の体を後ろから誰かの手が支えた。


「雪華さん!」


私の腕を掴んで転ぶのを防いでくれたのは、幾見君の手。


「危なかったですね、雪華さん」


「ありがとう……」


私がホッと肩を撫で下ろすと、反対側の手首を掴んだままの矢崎さんは、そのままジロリと幾見君を睨みつけた。


「なんだ……お前、本部のやつか」


「あなたは確か、第三支店の矢崎さん」


「ああ」


そう言ったきりなぜか私を挟んだ男性二人は黙っている。


「その手を離してくれないか、これからこいつと用があるんだ」


「離すのはそちらじゃないですか? 雪華さんは嫌がっているように見えましたけど」


「なんだと?」


二人の目が更に鋭くなる。

私はそれぞれに両手を掴まれたまま、おろおろとしていた。


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