第一章 黒歴史との再会⑤
大学二年の冬。
親友から初恋の一挙一動を根掘り葉掘り聞かれることにも慣れた頃、私は一大決心をしたのだ。
きっかけはその親友の一声。
『高柳さん、卒業しちゃうんだよ?ゆっかちゃんはこのまま自分の気持ちを伝えないでいいの?』
出会って二年弱。私は彼になんのアプローチもしなかった。正しくは、出来なかった。
それまで脇目もふらず勉強一筋で来た私は、勉強以外のことは何一つ分からない。
当時の私と言えば、ワンレンの黒髪を両サイドで三つ編みのお下げ、重い黒縁眼鏡に、なんのセンスも見当たらない服装。
ずばり“地味”そのもの。
そんな地味な自分にコンプレックスもあって、異性と話すことに慣れていない上、好意を持つ相手にどう話しかけてよいのか分からなかった。
『そんなこと言ったって……』
眼鏡のふちからチラリと親友を見る。救いを求めるような私の視線に、彼女ははぁっとため息をついた。
『もう二度と会えなくなるかもしれないんだよ?』
『もう二度と、会えない……』
言われた言葉を反芻した途端、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。
『そうだよ、ゆっかちゃん。今気持ちを伝えないとずっと後悔するかもしれないよ?』
彼のことは遠くから見ているだけで満足だった。
その低く心地良い声が耳に届くだけでドキドキした。自分ではない誰かに微笑みかける、その笑顔に釘付けになった。
彼を独占したいなんて、そんな烏滸がましいことを考えたことはない。
幼い私は、自分の恋心を受け入れるだけで精一杯だったのだ。
彼が卒業してしまったら、もう二度と会えなくなるかもしれない。
そんな当たり前のことに今まで気付かなかった私は、親友の言葉に愕然とした。
『私、告白する』
そう宣言した私に、親友は『応援する!』と言ってくれた。
告白決行日。その日はとても寒い日だった。
『今季一番の寒波が到来します。関東都心でも積雪が見られるところがあるでしょう。』
天気予報のアナウンサーがしきりにそう言っていた気がする。
私が告白を決行することに決めたのは、二月十四日。バレンタインデーだ。
そしてそれは私の二十歳の誕生日でもあった。
『俺に相談って? ESSのこと?』
こんな寒い日にひと気のない屋外に呼び出したにもかかわらず、嫌な顔一つせずに彼は優しい顔で私に訊ねた。
本来なら後輩の私が先輩の彼を呼びつけたのだから、謝罪とお礼を先に口にしないといけない。けれど、その時の私にはそんな余裕は欠片もない。
バクバクと飛び出そうなほど暴れる心臓。
それを抑えたくて、持っていた包みを胸の前でギュッと抱いた。
『……みさん?』
激しい緊張で一瞬意識がどこかに飛んでいたが、彼の呼びかけにハッとなる。
『どうかし、』
『ずっ、ずっと好きでしたっ!私のハジメテ、貰ってください!!』
手に持っていた包みを彼に突き出し、頭を下げた。




